再会
「さてと、お姉さんも見つけましたし──帰りましょうか!」
フィオナは空を見上げながら、陽気に言った。陽が傾き始めた山の中、空気にはまだ緊張の名残が漂っていたが、その明るい声に救われる思いがする。
山の斜面には、フィオナたち四人と、彼女たちが救出した少女の姉があった。気を失っていた少女の姉は、応急処置によって意識を取り戻していたが、傷は深く、歩くのもままならない。ミーナは魔力を使い果たしたため、ルークが背負い、少女の姉はフィオナが抱えながら慎重に下山していた。
「今の私たちって、格好の的ですねぇ」
軽い調子で呟くフィオナに、カイルとルークは即座に眉をひそめた。
「だからそのフラグを立てるような発言やめろって……」
「実際、フィオナがいなかったら、今の状況って結構ヤバいよな……」
「そんなことないですよ~、みんな強くなりましたし!カイルさんが両手空いてるんだから、パパッと対処してくれれば大丈夫です!」
言いながらも、フィオナの視線は空を常に警戒していた。数分前まであの空を飛んでいた魔物の残滓がまだ尾を引いているのだろう。
だが、幸いにもその後、さらなる襲撃はなかった。
無事に山を下り、村の見える地点までたどり着いたころ、少女の姉が小さく呻いた。
「……ミレナ……っ」
「ミレナって……妹さんの名前?」
「……はい……私…生きてる?…」
目尻に涙を浮かべる少女の姉は、抱えるフィオナの腕の中で、そっと両手を組んだ。
「……地上に降ろしてもらったところまでは覚えています……そこから記憶がなくて……よく分からないけど死ぬって、思いました……」
「えっ、あ、あれは……ちょっと勢いが……」
「あはは……助かったから……いいですけど……恨んでますよ?」
「冗談ですよねっ!?」
「……感謝しています、本当に」
少女の姉の笑みに、フィオナはちょっとばつが悪そうに笑い返した。
村へ戻ると、広場でひとり座っていた少女が、姉の姿を見つけて駆け出してきた。
「お姉ちゃあああああん!!」
「ミレナッ!」
姉妹は強く抱き合い、泣き笑いの混じった再会を果たす。その様子を、村人たちは静かに──しかし、少し距離を取って見守っていた。
「やっぱり、あまり近づこうとしませんね……」
「まぁ、仕方ないさ」
カイルの声には微かな悔しさが混じっていた。
それでも、姉は少女の手を取り、自宅へとフィオナたちを案内する。
質素だが清潔感のある小さな家。暖炉にはかすかな火が灯っていた。
「今さらですが、私が姉のアリナ、妹がミレナです」
「お礼を言っても言い足りません……。助けていただかなければ、私たちはもう……」
「気にしないでくれ。俺たちは当然のことをしただけだ」
カイルが微笑む。
「もう夕暮れ時ですし、泊まっていってください。おもてなしと言えるようなものはないですが、せめてお礼を……」
「ぜひ!」
フィオナの即答に、カイルたちは苦笑しながらも頷いた。
その夜、カイルとルークが狩ってきたウサギや鳥、薬草を使ってささやかな夕食が開かれた。火の灯りに照らされて、テーブルには温かな笑顔が並ぶ。
「じゃあ、まず俺たちの自己紹介からな」
「カイル、剣士。いちおう、パーティのリーダーってことになってる」
「ルーク、弓使い。料理担当も兼任」
「ミーナ、魔法使い。……最近、ちょっと無理しました」
「フィオナ! 討伐隊所属で、だいたいなんでもやってます!」
その言葉に、ミレナが目を輝かせる。
「お姉さんみたいな生き方もあるんですね……冒険者って、すごいです!」
「うーん、冒険者とはちょっと違うし、すごく危ないことも多いけどね」
「でも、かっこいいです。私、フィオナさんみたいになりたいなぁ」
「えっへん、私みたいな立派な女性になるには険しい道が……」
「???」
ミレナはきょとんとした顔で、姉のアリナも吹き出した。
「違う、違う、ミレナはフィオナぐらい強くなりたいってことだろ」
「なるほど! それなら大歓迎ですよ!」
「おい、やめとけって……」
カイルが額を押さえる。
「目指す頂は高いほどいいんです!頑張りましょう!」
「がんばりますっ!」
にこにこ笑う二人に、カイルたちはやれやれと肩をすくめた。
「……ミレナが、ここまで明るく笑うの、久しぶりに見ました」
アリナが、そっと呟いた。
そして、静かに夜が更けていく。
フィオナは横になりながら、天井をぼんやりと見つめていた。
(2人とも、なんとかしてあげたいですねぇ……)
ふわりとまぶたが落ち、静かな眠りがフィオナを包み込んだ。