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討伐隊に力を見せる


朝、ギルド寮の静かな部屋。


エリスはそっとフィオナのベッドの横に立ち、軽く肩を揺らした。


「フィオナさん、朝ですよ」


「……んー……」


フィオナは毛布に顔を埋めたまま、微かに唸るだけだった。


(あら……思ったより寝起きが悪いのですね)


エリスは少し困ったように微笑みながら、もう少し強めに肩を揺らす。


「朝食の時間ですよ? 討伐隊の皆さんが待っていますよ」


「えぇ~……もうちょっと寝ていたいんですけど……」


朝の光が差し込む部屋で、フィオナは布団を頭まで引っ張っていた。



「起きろ、フィオナ。朝食の時間だ」


ガンッ!


容赦なくベッドの柱を蹴る音が響く。


「ひゃあ!? わ、わかりました! 今起きます!!」


慌てて布団を跳ね飛ばし、ベッドから転がり落ちるフィオナ。目の前には、腕を組んだレイラ隊長がいた。


「お前、昨日の初任務の疲れが抜けてないんじゃないか?」


「そんなことないですよ、全然動けますよ!」


「だったら、さっさと食って訓練場に来い。今日からお前に討伐隊の基本を教える」


レイラはそう言い捨て、部屋を出ていった。


(はぁ……受付嬢として優雅な朝食を楽しむ予定だったんだけどなぁ……)


ぼやきながらも、フィオナは顔を洗って食堂へと向かった。



ギルドの訓練場には、すでに隊員たちが集まっていた……といっても、その数は驚くほど少なかった。


「……あれ? なんか、思ったより人が少ないですね?」


「当たり前だろ。討伐隊は少数精鋭だ」


「えっ、そんな設定なんですか?」


「設定って言うな。私たちは『討伐専門部隊』だからな。普通の冒険者とは違って、短時間で動き、迅速に魔物を駆除するのが仕事だ」


レイラが説明すると、周囲の隊員たちがそれぞれ微笑んだり、腕を組んだりしていた。


「討伐隊は、基本的に10人以下で構成されてる。町や村に危機が迫ったとき、最速で対応できるように動くのが私たちの役目だ」


「つまり、数じゃなくて質重視ってことですね?」


「そういうことだ。だから、隊員の大半は相当な猛者ばかりだ」


「へぇ……」


フィオナは周囲を見回した。確かに、どの隊員も明らかに普通の冒険者より強者のオーラを纏っていた。


「で、お前の戦闘スタイルだが……」


「はい! 身体強化での素手格闘です!」


「…………」


レイラは一瞬無言になった。


「……いや、知ってるよ」


「知ってたんですか?」


「昨日のゴブリン討伐で嫌というほどな」


討伐隊の隊員たちが苦笑している。


「とりあえず、今日はお前の戦闘能力を確認する。お前、どこまで戦えるのか、隊のみんなにも見せておけ」


「えっ、また模擬戦ですか?」


「そうだ。お前の実力を知るのも大事だし、討伐隊としての連携を取るのにも必要だからな」


(……なるほど、つまり戦えば認めてもらえるってことね!)


フィオナは拳を握りしめ、気合を入れた。


「じゃあ、思いっきりやらせてもらいますね!」


「ただし、適度にな。殺すなよ」


「えっ、私、殺すつもりなんてないですよ!?」


「昨日のゴブリン討伐を見る限り、そうは思えないが……」


「うぅ……ひどい誤解です!」


隊員たちが苦笑しながら輪を作る中、フィオナの対戦相手として、屈強な男――ベルトランが前に出た。


「俺が相手をしよう」


「うわぁ、すごいガタイ……」


ベルトランは討伐隊の中でも特に防御力に優れた重戦士だった。大柄な体格に重装備を身につけている。


「じゃあ、よろしくお願いします!」


フィオナは軽く拳を握り、魔力を込めた。


一瞬で魔力が巡り、フィオナの身体が軽くなる。そして――


「――え?」


ベルトランが構えを取った、その直後だった。


視界からフィオナが消えた。


「なっ――!?」


次の瞬間、背後に冷たい気配が走る。


「うっ……!?」


背後に移動したフィオナの拳が、ベルトランの背骨に突き刺さる。


バキィッ!!


「がっ――!!!」


鈍い音と共に、ベルトランの巨体が前のめりに崩れた。


「……え?」


隊員たちは誰もが信じられないものを見たような顔をした。


「うわぁ……これ、やりすぎましたかね?」


「お前……相手が動く前に決めるとか……普通ありえないだろ……」


「いや、でも、確実に倒すにはこうするのが一番かなって……」


倒れたベルトランは、痙攣しながら呻いている。


「が……ぐ……!」


「えーと、 ちょっと痛かったですか?」


「でも大丈夫ですよ! すぐに治しますから!」


「……は?」


フィオナはベルトランの背中に手をかざすと、魔力を集中させた。


青白い光がベルトランの体を包み込む。


「――っ!!?」


すると、バキバキに砕けたはずの背骨が、元通りになっていく。


「な、なんだこれ……」


隊員たちは唖然とした。


「……お前、回復魔法まで使えるのか?」


レイラが驚いた声を上げる。


「え? まぁ、一応?」


「なんでそんな簡単に言えるんだよ!? 討伐隊で回復魔法を扱えるやつなんてほとんどいないぞ!!」


「ええっ!? でも、傷を治せた方が便利じゃないですか?」


「いや、確かにそうだが……いや、そうじゃなくて……」


「……っ!!」


ベルトランがゆっくりと起き上がった。


「俺の背骨……完全に治ってる……」


彼は震える手で自分の背中をさすりながら、信じられないといった表情を浮かべた。


「マジで……痛みすらねぇ……」


「ほら、言ったじゃないですか! ちゃんと治しますって!」


フィオナはドヤ顔で腕を組む。


「……お前、もうちょっと手加減って概念を覚えろ……」


「はーい……」



「お前、マジで何者なんだ?」


訓練後、レイラはフィオナをじっと見つめながら腕を組んだ。


「強すぎる上に、回復魔法まで使えるとか、どうなってんだお前は……?」


「だって、聞かれなかったですし……?」


「……」


レイラは深くため息をついた。


「はぁ……まあ、いい。お前の強さは十分分かった。あとは、お前がどれだけ隊に馴染めるかだな」


「おぉ、もう正式に認められたんですね!」


「……いや、認めないわけにはいかないだろ……」


レイラはこめかみを押さえながら言った。


(……とんでもないものを隊に入れちまったかもしれねぇ……)


こうして、フィオナの魔物駆除討伐隊としての本格的な日々が始まったのだった。

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