村の少女
次の村へ向かう道のりは、陽光のきらめきと心地よい風に包まれていた。フィオナとカイルたちは、道中に何度か現れた小型の魔物たちを軽くあしらいながら、次の村への足を進めていた。
「相変わらず、魔物との遭遇率が高いですねぇ……まあ、雑魚ばっかりで助かりますけど」
「昔だったらこれでもヒーヒー言ってただろうな」
「それを思うと、俺たちも強くなったってことだな」
冗談まじりの軽口を交わしながら、一行は笑い合う。魔物たちは確かに現れたが、いずれも手慣れた様子で問題なく撃退しており、特に足止めされるようなこともなかった。
昼過ぎ、ようやく次の村にたどり着いた一行は、広場の近くでひとりの少女が泣いているのを見つけた。
「……?」
フィオナが最初に気づき、歩み寄る。
「こんにちは、どうしたの? 何か困ってるの?」
涙で濡れた頬の少女は、フィオナを見上げてすんすんと鼻をすすりながら答えた。
「お姉ちゃんが……帰ってこないの……」
事情を聞くと、少女の姉は山菜や薬草を採るためによく山へ行くのだという。だが、どれほど遅くなっても、これまでは必ずその日のうちに帰ってきていた。しかし昨日は帰ってこなかったようだ。
「わかった。俺たちが探してきてやるから、安心しろ」
カイルが膝をつき、少女の頭を優しく撫でた。ミーナもその横で、ハンカチを差し出しながら微笑む。
「お姉さんに任せなさいっ!」
フィオナが胸を張ると、少女は涙を浮かべたまま、少しだけ笑った。
「ありがとう……お姉さんみたいに強い人が探してくれるのは、すごく安心します……」
フィオナの外見は、可憐でどこか儚げな印象すらある。それでも“強い”とわかったのは、少女にしか見えない何かがあったからだ。
「……なんでそう思ったの?」
ミーナが不思議そうに問いかけると、少女は少しだけ口ごもり、控えめな声で告げた。
「……私、魔力が見えるんです」
「魔力が?」
「嘘じゃないです。お兄さんたちも多い方だけど……お姉さんのは、もう全然見たことないくらいで……」
「嘘だなんて思ってないよ」
ルークが笑いながら言った。
「そういう力を持ってる人も、稀にいるからな。でもフィオナを見抜けるって、それだけでも相当すごい」
「……つまり、私はすごいってことですね!」
無邪気に胸を張るフィオナに、カイルたちは笑いながらも若干呆れ気味だった。
「保有してる魔力が全然違うってどんだけヤバいんだよ、フィオナって……」
少女の言葉をもとに、フィオナたちは山道へと向かった。
その途中、フィオナはぽつりと呟いた。
「なんか、村の人たち、あの子のこと避けてましたよね。お姉さんも、探してあげようって感じじゃなかったし……」
「……ああ、見てたか」
カイルが頷く。
「彼女たち、両親を亡くしてるらしい。しかも、魔力が見えるなんて、普通の人には信じられない話だ。誰も庇ってくれる人がいないから、ああして孤立しちまってるんだろう」
「……そういうものなんですかねぇ。私の村とは、全然違います」
「東側の村だったか?」
「はい。みんな、わりと変な能力持ってる人が多かったですし。誰が何を見えてるとか、そんなの気にしたことなかったですね」
そうして一行は、山の入り口へと差しかかる。
「……なんか、この山、空気が悪くないですか?」
フィオナが呟くと、ルークとミーナも頷いた。
「うん。なんか、気持ちがざわざわする」
「俺たちの感覚が間違ってなければ……この山、今はあまり良くない状態だな」
その言葉どおり、山を登るにつれて、不穏な光景が目に付くようになった。
木の枝に、無理やり突き刺された魔物。岩の隙間に、苦しそうに挟まったままの魔物。そのいずれもが、死んではおらず、もがきながら呻き声を漏らしていた。
「……悪趣味なやつがいるみたいだな」
カイルが呟く。
「……そうみたいですねぇ」
フィオナが視線を巡らせながら答える。
「これは人間の仕業じゃないですね。……魔物がやってる」
「同感だ」
警戒しながら空を見上げると、彼方の雲の向こうに、巨大な影が一つ、旋回しているのが見えた。
「……やっぱり、モーズか」
カイルが険しい顔をする。
「モーズ?」
「大型の鳥型魔物。鋭い嘴と爪を持ち、獲物を突き刺して捕える。ああやって獲物を引っ掛けては、空中で遊ぶように突き刺したりする悪趣味なやつだ」
「こっちに気づいてますよね?」
「多分な。けど、こっちは人数が多いし、まだ手を出す気はないんだろう。ただ──隙を見せたら、くるかもな」
一行はさらに山を進み、やがて人のうめき声が聞こえてきた。
「……誰かいる!」
ミーナが気を取られたそのとき、木の上からモーズが滑空してきた。
「っ──来たぞ!」
鋭い爪が、ミーナのすぐ背後に迫る。
「ミーナ、伏せろ!」
叫ぶカイルと同時に、フィオナが地を蹴った。




