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なんてことない一日


朝靄が晴れ、穏やかな陽光が村を照らし始めるころ、フィオナは小さな背伸びをしながら、木製の家々が並ぶ通りを歩いていた。前日までの宴の賑わいが嘘のように、村は静まり返り、鶏の鳴き声と風の音だけが耳に届く。


「……さてと、仕事、仕事ですねぇ」


今日もまた、討伐隊員としての仕事がまた始まる。気持ちを切り替えつつ、フィオナは村の長老──村長の家を訪れた。


戸口を叩くと、少しして中から年老いた男が現れた。しわがれた笑みを浮かべ、フィオナを中へと迎え入れる。


「朝からすまないね」


「いえいえ、こちらこそ。今日は一応、ちょっとした確認を」


フィオナは椅子に腰を下ろした。


「最近、この村の周辺で、なにか変わったことはありませんか?」


村長はしばらく顎に手を当てて考え、ゆっくりと首を横に振った。


「この辺り自体は静かなもんだ。だが……西の村の話は、ちょっと気になっていてな」


「西の村、ですか?」


「ここからさらに西、森を抜けたあたりの村じゃ。以前は交流があったが、少し前からぱったり音沙汰がなくなってな。最近、魔物の被害が多いと聞いていた矢先にな……」


フィオナは少し言いづらそうにしながら、眉をひそめる。


「それ、……湖の近くにある村のことですよね」


「……やはりそうか」


フィオナは視線を落とし、言葉を選ぶように続けた。


「以前の調査で、そこに行ったんです。でも……その時点で、村はほぼ壊滅していました。住民は避難する暇もなかったようで、魔物もいなくなるほどの状態でした」


村長はしばし沈黙し、重々しく頷いた。


「……残念なことじゃ。しかし、こうしてお前さんがここにおるってことは、その原因を止めたのは、お前さんということじゃな?」


「……まぁ、どうにか」


「そうか。ならば、その村の者たちに代わって礼を言おう。ありがとう、フィオナ殿」


「いえ、仕事ですから当然のことです……」


それでも、フィオナは真っすぐにその言葉を受け止めた。


「今日はこれから、他の村を見回る予定です。何かあればまた村に来ますね」


「頼りにしとるよ」



村長と別れ、荷物を整えて出発しようとしたときだった。宿の前で装備を確認していると、見慣れた3人の姿が近づいてくる。


「お、出発か?」


声をかけてきたのはカイルだった。


「はい、西の見回りです! まだまだ仕事ですよー」


「だったら、俺たちも付き合うよ」


フィオナが目を瞬かせると、カイルは肩を竦めて言葉を続けた。


「村長にも言われたんだ。命の恩人なんだから、見回りくらい手伝ってこいってな。それに、フィオナ、お前って確か東側の出身だろ? 西の地理とか、あんまり詳しくないんじゃないか?」


「な、なんとかなりますよー……多分……!」


「つまり知らないんだな」


ルークが笑いながらツッコミを入れる。


「……まぁ、そういうことで。俺たちが案内するよ」


「いえ、でも……申し訳ないので、一人で大丈夫ですよ」


「気にするな。手伝いたくて手伝うんだ。な?」


ミーナも微笑んで頷く。


「むしろ、私たちも調査ついでに腕を磨いておきたいですし」


「……じゃあ、お願いしますっ!」


にこっと笑ってフィオナは頭を下げ、四人は再び旅支度を整えて村を出た。



歩き始めてしばらく、のどかな野道を進みながら、話題は討伐隊のことへと移っていた。


「そういえば、この前ちょっと討伐隊に入らないかって話してましたよね」


「いやぁ、仮に入ったとしても俺らじゃすぐ御陀仏だろ。まだBになったばっかだし」


「というか、あのフィオナがいる部隊をまとめ上げられるなんて、やっぱり討伐隊の隊長は常人じゃないよな」


「あのってなんですか、まあ……隊長が特にすごい人なのはそのとおりですよねー。」


「レイラ隊長だろ?あの“炎獄のレイラ”って呼ばれてた」


「えっ、そんな呼び名があるんですか?」


「あるぞ。Aランクの冒険者だったって話でな。魔物狩りで名を上げたあと、なんでか知らんが討伐隊に入ったって。黒い噂もいくつかあってさ……」


「まぁ、有名人はそんなもんだろ。魔物だけじゃなくて人間もなんて話はいくらでもでてくるもんさ」


「……確かに、レイラさんならやってても不思議ではないですね」


あっけらかんに言うフィオナ。


「それにしても、レイラさんと戦って勝てるかどうか……正直、自信ないです」


「いや、フィオナ、お前……それ普通は勝負にもならないからな?」


カイルが呆れたように言い、ルークとミーナも笑う。


「でも、フィオナさんも十分変人寄りですし、もっと有名になったら、将来は“魔拳のフィオナ”とか呼ばれてるかも」


「うわぁ……そのネーミングはちょっと」


和やかな会話は絶えず続き、穏やかな時間が流れていった。

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