表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/43

寮生活と同居人


「はぁー……やっと終わった……」


フィオナはローベルクの冒険者ギルド前で伸びをした。馬に揺られての帰還だったが、ゴブリンを殴り倒した疲れが身体にじわじわと残っている。


「ふぅ……ま、初任務は無事成功ってことでいいですよね?」


「は? 何が『無事成功』だ、狂人」


隣でレイラ隊長がフィオナを睨んでいた。


「お前、討伐隊の任務ってのはな、ちゃんと隊の指示を聞いて、慎重に行動するもんなんだよ! いきなり突っ込んで身体強化して素手でゴブリンを殲滅するのは“普通”じゃねぇ!!」


「えー、でも結果的に全滅したし……村人にも感謝されましたし……?」


「感謝されたんじゃなくて、恐れられてただろ! あの村、お前のこと“狂人”とか言ってたぞ!!」


「あれ、そんなこと言われてましたっけ?」


「言われてたわ!! てか、私たちが到着してすぐゴブリンを全滅させるなんて異常なんだよ!!」


レイラはこめかみを押さえながらため息をついた。


「……もういい、とりあえず今日は休め。お前、どっかのタイミングで教育するからな……」


「ええー!? ちゃんと仕事したのに、なんでそんなこと言うんですかー!」


「“ちゃんと仕事”の基準が違うんだよ、お前とは!!」



「で、私、どこに泊まればいいんですか?」


「そういや、お前どこで寝るんだ?」


「それを聞きたかったんですよ! 私、どこに泊まればいいんですか?」


「……寮がある」


「えっ?」


「冒険者ギルドで働く人間のための寮があってな。討伐隊の隊員もそこを使ってる。受付に言えば案内してもらえる」


「寮……」


フィオナは遠い目をした。


(本当なら、町の宿とか借りて、のんびり受付嬢として働く予定だったのになぁ……)


「相部屋になるが、ま、仲良くやれよ」


「相部屋!? うわぁ、プライバシーが……!」


「隊員は全員そうだ。むしろ一人部屋があると思うな」


「ですよねー……」


がっくり肩を落としながら、フィオナはギルドの寮へと向かった。



ギルド職員寮は、ギルド本部の裏にある石造りの二階建ての建物だった。受付で名前を伝えると、すぐに二階の部屋を案内される。


「ここがあんたの部屋ね。相部屋だから仲良くやるんだよ」


「はーい……」


少し気だるげに扉を開けると、中にはすでに一人の少女がいた。


窓際で荷物を整理していたのは、金髪を優雅にまとめた少女。白と薄桃色の制服を着ており、清楚で上品な雰囲気を漂わせている。


少女はフィオナに気づくと、優雅に微笑んだ。


「こんばんは。あなたがフィオナさんですね?」


「えっ、あ、はい! 今日からここでお世話になります、フィオナです!」


「私はエリス・フィールズと申します。冒険者ギルドの受付を担当しています。よろしくお願いいたしますわ」


「受付嬢……!」


フィオナはハッとした。


(まさに理想の受付嬢って感じの人がいる……! なのに私は討伐隊……!)


エリスはにこやかに微笑んだまま、「フィオナさんは討伐隊に入られたのですよね?」と尋ねる。


「ええ、まあ……本当は受付嬢になりたかったんですけど、なぜか討伐隊に入れられて……」


「あら、それは……大変ですわね」


エリスは少し驚いた顔をしたが、すぐに優しく微笑んだ。


「でも、討伐隊のお仕事はとても立派なものです。私たち受付嬢は、そういった方々を支えるためにいるのですから」


「……うーん、そう言われると、なんか複雑ですね……」


エリスの綺麗な微笑みを見て、フィオナは少しだけ気恥ずかしくなった。



「とりあえず、お腹すきましたね。ご飯行きましょう、ご飯!」


「ええ、そうですわね」


二人は寮の食堂へ向かった。並んでいるのは温かいシチューとパン、そしてハーブティー。


「エリスさんは受付の研修を受けてるんですよね? どうですか、受付の仕事は?」


「ええ、とても楽しいですわ。依頼を受けるとき、冒険者の皆さんが安心して仕事に向かえるよう、しっかり説明することが大事なのです」


エリスは楽しそうに話す。


「ふーん……私は何も聞かずに戦場に出されましたけどね……」


「ふふっ、それも大切なお仕事ですわ」


「そんな笑顔で言われても……」


フィオナは苦笑しながらシチューを口に運んだ。



夕食を終え、二人は部屋に戻った。


「では、明日に備えてお休みなさいませ」


「おやすみなさい、エリスさん」


ベッドに横になると、フィオナは天井を見つめた。


(今日、何が起こったっけ……)


朝、受付嬢になるつもりでギルドに行ったのに、なぜか討伐隊に入れられた。

初任務でいきなりゴブリンと戦い、気づけば“狂人”とか呼ばれ始めている。

そして、受付嬢の新人エリスと同じ部屋になった。


(……なんか、すごい一日だったなぁ……)


フィオナは大きく伸びをして、毛布を被る。


(ま、なるようになるか……)


眠気に包まれながら、フィオナは静かに目を閉じた。


こうして、彼女のギルドでの生活が始まるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ