ジークの魔法
今日は何話か更新するかも
ローベルクを出発したフィオナ、レイラ、ジークの三人は、東部森林へと向かって馬を走らせていた。
「ふふ、久々の長距離移動ですねぇ!」
フィオナは軽快に馬を走らせながら、周囲の風景を眺める。
「お前は本当に呑気だな」
レイラが苦笑しつつ、手綱を軽く引いた。
「そりゃあ、調査任務ですし! 最初から討伐と決まってる仕事とは違って気楽ですよ!」
「その油断が命取りになるんだがな」
ジークが冷ややかに言いながら、フィオナの馬の隣についた。
「せっかく時間があるんだ、少し俺の魔法について説明してやるよ」
「おっ、興味あります!」
フィオナは目を輝かせて、ジークの話に耳を傾けた。
「俺の魔法は影魔法だ」
ジークはそう言うと、自分の影を指差した。
「例えば、俺は影を自在に操って姿を隠すことができる。影に同化して物陰に潜むこともできるし、他人の影に入り込んで気配を消すことも可能だ」
「えぇっ!? それ、めっちゃ便利じゃないですか!?」
フィオナが驚いて身を乗り出す。
「まぁな。ただ隠れるだけじゃない。影を刃のように使って奇襲を仕掛けることもできる。例えば、敵の影からそいつの背後を影の刃で急襲することもできる」
「えぇー! それもう卑怯じゃないですか!」
「戦いに卑怯も何もない。殺られる前に殺る、それが俺のやり方だ」
ジークは淡々とした口調で言う。
「例えば、俺が本気で奇襲を仕掛ければ、敵は気づいた時には死んでいる」
「うわぁ……」
フィオナは唸った。
「便利だなぁ……相手にするとめんどくさそう……」
「だろ?」
ジークがニヤリと笑う。
「じゃあ、もしジークさんと戦うことになったら、どうやって対処すればいいんですか?」
「そう簡単に俺を捕まえられると思うなよ」
ジークは不敵に笑いながら、影を操る素振りを見せた。
フィオナがふと口にする。
「それって夜だったら最強じゃないですか?」
「……まぁ、確かにな」
ジークは素直に頷いた。
「影が深くなる夜は、俺の魔法が最も活きる時間帯だ。完全に闇に溶け込めば、誰にも気づかれることはない」
「うわぁ、それチートじゃないですか!」
「だがな、何事にも弱点というものがある」
ジークは軽く肩をすくめた。
「万能な能力なんてない。俺の影魔法にも欠点はある」
「おおっ、じゃあ弱点を教えてください!」
フィオナが食い気味に前のめりになる。
「……絶対教えてやらん」
「えぇー! ケチくさいですよ!!」
「バカかお前。弱点を他人に教える奴がどこにいる」
ジークは呆れたようにため息をついた。
「いいか、情報の管理は戦場では命取りになる。俺の弱点を知りたかったら、まずは信頼を勝ち取ってからだな」
「むむむ……」
フィオナが納得いかなそうな顔をしていると、レイラが横から口を挟んだ。
「ジークは貴重な戦力だからな。口が軽そうなお前には教えられん」
「ちょっと!? なんで私、口が軽いことになってるんですか!」
「お前、興味を持ったら何でもペラペラ喋るだろ」
「ぐぬぬ……!」
フィオナは反論したかったが、心当たりがありすぎて言葉に詰まった。
「ま、そういうことだ」
ジークは満足げに笑いながら、前方を指差した。
「ほら、そろそろ東部森林が見えてきたぞ」
しばらく馬を走らせると、目の前に鬱蒼と茂った森が広がってきた。
「おお、これが東部森林かぁ」
フィオナは感慨深そうに頷く。
「思ったより普通の森ですね!」
「……お前、本当に呑気だな」
レイラが呆れたように言う。
「ま、いい。ここからは私たちの役割を決める」
「役割?」
「そうだ。ジークが先頭で索敵、私が最後尾で全体の状況を見ながら指揮する。そして、お前は真ん中だ」
「なるほど、つまり私が一番楽ってことですね!」
「お前、何も考えてねぇだろ……」
「えへへ~」
フィオナは笑いながら腕を組んだ。
「じゃあ、ちゃちゃっと行きましょう!」
「おう、気を引き締めていくぞ」
レイラの号令と共に、三人は東部森林の奥へと足を踏み入れた。