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第9話 同級生女子の家で勉強会①

 ピンポン、とチャイムを押す。

 しばらく経ってから、返事があった。


 ……ヤバい、緊張する。

 どうにかマシな服を選んできたし、どうにか美味しそうな手土産も持ってきた。

 けど、女子と家で2人きりなんてほぼ初めてだし、何より泡羽はあんな美人だったし。綾瀬のときは妹に世話を焼くのと同じ感覚だったけど、泡羽は同級生として接していたから、どうしても意識してしまう。

 ぐるぐる頭で考えていると、ドアが開いた。


「こんにちは。春野くん」

「……こんにちは」


 泡羽は、今日は眼鏡もをしていなかった。

 それだけでだいぶ雰囲気が違うのに、メイクもしている。美人なのが前より強調されて、学校の姿とはまるで違う。

 服も普段のようにかっちりとしたものではなく、ふわふわしたライトブルーのワンピースだった。髪の毛も、ゆるく巻いてある。


「どうぞ」

「お邪魔します」


 今日の勉強会は、1時から5時までだ。その間4時間。あっという間かもしれないけど、こうして考えるとけっこう長い。


「あ、あとこれ、大したものじゃないけど、良かったら」


 紙袋に入った、ちょっとしたお菓子。それを差し出す。来る途中に駅前で買ってきた。


「えっ、全然いいのに……でもありがとう」

「良かったら家族と食べて」

「うん。ありがとう。私の部屋は、こっち。着いてきて」

「分かった」


 玄関で靴を揃えて脱ぎ、泡羽のあとに続く。泡羽の家はわりと普通な感じで、内装も少し花瓶が置いてあったり、絵が飾ってあったりする程度だった。家具とかはシンプルで、木製のものがほとんど。

 

「私の部屋、奥なの」


 階段を上がって、右側の1番奥。そこが、泡羽の部屋らしい。

 

 ……ヤバい、やっぱめっちゃ緊張する。やっぱ部屋ってなると急に密室感増すし。

 ドキドキしていると、泡羽は迷わずドアを開けた。


 部屋の内装は、家と同じでシンプルだった。

 ただ泡羽の部屋は、白い家具が多くあって、ベッドカバーとかも白い。部屋の真ん中に水色のローテーブルが置いてあって、周りにクッションが置いてあるから、今日はそこで勉強するみたいだ。

 

「お菓子、あとで食べよう。飲み物はもうあるから」

「ありがとう」

「うん。どこにでも座って」


 勉強机の上には、ジュースとお菓子が置いてあった。そのジュースをお盆から取り、泡羽がローテーブルの上に置く。そして、カーテンを閉めた。部屋が一気に薄暗くなる。


「えっと……暗くない?」

「外、眩しいから」

「そっか……」

 

 泡羽に促されるまま、ローテーブルの前に座ると、ピタリと引っ付くように隣に泡羽が座った。

 

「ごめん、前から思ってたんだけど、距離近くないっすか……?」

「だってこの方が春野くん教えやすい」

「まぁ、そうなんだけど……でもなんかこう、2人きり、だし、異性、だし」

「そうだけど……」


 勇気を出して突っ込んでみるが、泡羽は意に介する様子がない。

 えっ、でもマジで? 今日このまま勉強するの?

 別にだからどうってわけじゃないけど、さすがに同年代の男女2人が4時間もひっつき続けるのは不純じゃないかっていうか……


 この前俺の前で急に眼鏡を外したことといい、こうやって引っ付いてくるようになったことといい、泡羽の行動の理由がよく分からない。


 泡羽は一瞬むぅ、と拗ねたような顔をしたあと、呟いた。


「……今、人と距離を詰めようキャンペーン中なの」

「お、おぅ。なかなか大胆なキャンペーンだな」

「仲良くなりたいの。春野くんと」

「それはありがとう」


 こういう時、俺も仲良くなりたい、とか言うべきなんだろうか。

 字面にしたらけっこうキモい気がするけど……

 あとなんとなく、こんな美少女と仲良くなってしまっていいのか、みたいな戸惑いが少しある。

 泡羽がじっと見つめてくるから、ちょっと気まずいし。

 しばらく俺の目を見続けた泡羽は、ふい、と目線を逸らした。


「そういえば春野くんは彼女とかいたことあるの?」

「いや、いないけど……」


 急だな。

 中学時代は散々だったし、小学校の時は何も考えてなかったから、彼女なんてできたことはない。

 中学になってからは、女子と話すことさえほとんどなかった。


「そっか」


 良かった、と小さく聞こえてくる。

 ちょっと待て。良かった……?

 良かったって何が?

 

「……へ?」

「ううん。なんでもない。それより、数学の新しい問題教えて? そこ終わったら、あとで休憩に映画見よう。短編映画で、すぐ終わるの」

「わ、分かった。じゃあ、問題集の63ページ開いて」

「うん」


 泡羽は何事もなかったかのように、問題集を開ける。

 さっきの言葉は、空耳だったのだろうか。

 もしかしたらこれは俺の自意識過剰で恥ずかしくて痛い勘違いかもしれないけど……良かったって、俺に彼女がいなくて良かったってこと……?

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