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第27話 バイト初日

「どう? バイト初日。疲れた?」

「あっ、はい。疲れました……」

「疲れるよね……あっ、もう今バイト終わったから敬語禁止ね? だってあたしたちは友達だもん」

「う、うん。分かった」


 今日の分のシフトが終わった。今はちょうど同じ時間にシフトを入れていた音海と一緒に駅まで歩いている。初めてちゃんと働いただけあって、疲れはけっこうあった。


 今日のことを思い返す。

 5分前にバイト先に着いて、従業員の方たちへの挨拶もちゃんとして、メモを取りながら仕事の内容説明も受けた。バイト初日でやること、という項目は全部達成できたと思う。

 ……とはいえ、初めてのバイトなだけあって現場には全然馴染めないし、何もできずじまいで散々ではあったけど……


「まぁ、ラーメン屋って大変だよね。あたしも今でも体力的にキツイときあるもん。特に夏場はね〜」

「俺も思ったより大変だった……」


 まだしっかり仕事していないのに体力を使ったくらいだから、実際に働き始めたらもっと大変だろう。

 音海の働く姿を思い出す。俺の研修もしつつ、オーダーを取ったりキビキビしていて、しっかりしていて、まるで立派な大人のようだ……って、VTuberとして働いてるんだからそりゃそうか。

 いつもポニーテールにしている髪型を仕事中はお団子にしていたから、そのギャップみたいなものもあったのかもしれない。


「でもおじさんのまかない、すっごく美味しいでしょ」

「はい。あんなに美味しいラーメンとか、食べたことなかったです」

「だよね。あたしもね、あのまかない食べれるんだったら……っていうのがラーメン屋でバイトしようと思った理由の1つだったりするんだよね」

「そうなんだ。でもそれくらい美味しいよなぁ」


 俺もお昼に食べさせてもらった。

 スープが濃厚で、麺もかためでコシがある。

 とにかく美味しかった。あのまかないがこれからしばらく食べ続けられるのだと考えれば、幸せなくらい。

 

「でも音海さん、大変じゃないの? ラーメン屋のバイトもして、VTuberとしても働くって」

「まぁ〜大変は大変だよ? でもね、どっちも大切なお仕事だしそれに……VTuberの方がいつまで続けられるか分からない……って、ファンにこんなこと言っちゃダメか。でもああいうお仕事っていつまで続くか分からないじゃん。安定はしてないからさ」

「たしかにそうなのか……」


 推しは推せる時に推せっていうやつだな。

 

「アイドルのときにそれは身に染みて感じたからね〜。社会にも慣れときたいし、そういう意味でもバイトやってんだ。ま、VTuberは今のとこどんな問題があろうと続けてくつもりなんだけどね」


 音海がにっこり笑う。

 

「すごいな。俺なんてまだバイト初日でへばってるのに、毎日両方やるの」

「まぁ大変だけど、慣れたらだんだん大丈夫になってくるよ。だからはるっちもファイト!」

「ありがとう。しばらくよろしくお願いします」

「そんなにかしこまんないでいいから! あっ、そうだ。ちょっと待ってて」


 音海が隣にあった公園まで走っていく。しばらくすると戻ってきて、その手には2つのジュースがあった。どうやら公園にある自動販売機で買ったらしい。

 

「初日バイト疲れたでしょ〜。先輩のおごり」

「えっ、いいの?」

「いいのいいの。そのジュース知ってる? すごく美味しいの。だから布教ついでにね」

「いや、知らなかった。飲んだことないなぁ」

「すっごく美味しいから飲んでみて……って、今さらだけど苦手な食べ物とかアレルギーとかなかった!?」

「ないよ。大丈夫」

「良かった〜」


 音海は胸を撫で下ろした。

 ジュースを飲んでみる……意外と美味い。


「どう? 美味しい?」

「うん。美味い。なんか初めての味だけど、美味いな、これ」

「でしょ! 夏のバイトはさ、帰りにこのジュース飲むのが1日頑張りましたって感じがして最高なんだよね」

「暑いもんな。ジュースはキンキンに冷えてるし……大人になったらこれがビールになるんだろうな」

「そうだね。ビール……じゃあさ、大人になったら、一緒に居酒屋行こうか」

「バイトの後に?」

「そうじゃなくても。ただ一緒に飲みに行こうよ。約束だよ?」

「う、うん。分かった」


 目の前には駅が見えてきている。ここからお互いの家への方面は違うのだ。

 

「あっ、そうだ。夜から配信やるから、ちゃんと見てね?」

「うん。絶対見るよ」

「じゃあね。また明日」

「また明日」


 手を振り、電車に乗る。

 あとはスーパーに行って、今日の分の晩御飯を買えたらタスクは終了だ。

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