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第14話 アイナとの電話(小夏side)

 自室のベッドの上で、音海小夏は思いっきり伸びをした。バイトも終わり、もうすっかり夜だ。今日は色々あったから疲れた。

 そして思い出したように、電話をかける。

 プルルル、と電話の発信音は鳴り響き、ちょうど3コール目で相手が電話に出た。


「もしもし、アイナ?」

「どうしたの小夏ちゃん」

「いやー久々電話したくなってね。最近会ってなかったし」

「たしかに最近会ってなかったわね」


 電話の相手は、綾瀬アイナだ。気心知れてる相手だということもあって、リラックスしたまま小夏は話を続ける。

 音海小夏もまた、『ラブアート』のメンバーだったのだ。そこでは元気担当だった。


「最近そっちなんかあった?」

「なんかって。この前言った通り、一人暮らしは始めたけど……」

「お? どうどう? 上手くやってる? 一人暮らしの先輩として、この小夏ちゃんがなんでも答えて差し上げますよ〜」

「それは、大丈夫……一応上手くやってる」

「えーほんとに? あのアイナがねぇ」


 小夏はアイドル時代のアイナの姿を思い浮かべた。

 イベントで料理を作るとなればことごとく失敗し、『生活能力0』というのは、ファンの間まで知れ渡っていたアイナだ。そのアイナが、一人暮らしを上手くやっていけてるとは思えない。おおかた、部屋の中はものが散乱してしっちゃかめっちゃかになっているところだろう。


「ち、ちゃんとやってるってば! それにお隣さんにもたまに助けてもらってるし……」

「え、大丈夫なのそれ? また前みたいにストーカーだったりしたら……」

「大丈夫よ。風花ちゃんのお友達だから」


 小夏はアイナの話を聞いていてふと気づいた。同じグループのアイドルとして共に頑張っていた仲だ。『お隣さん』とアイナが発したとき、声色がわずかに違うことに気づくのには、造作もない。

  

「ふぅん。いやーでも気づきましたよ小夏さん。そのお話にはどこか恋の香りがしますねぇ」

「はぁ!? 恋?」

「そのお隣さん、とやらに恋してるじゃないんですか、アイナさん?」

「し、してないわよ。本当にただのお隣さんで、助けてもらっただけ! 本当に本当にそれだけだからね? ほんっとになんもないから!」

「なるほどねぇ。ちょっと怪しいけど。ま、なんか進展したら教えてね」


 アイナの慌てっぷりにくすくすと笑う。むぅーと頬を膨らます顔が目に見えてわかる。

 けどたぶんこれは、確実に恋をしている。本人が気づいているのかいないのかは、分からないけど。


「ほんっとになんもないからね!」

「はいはい」

「……そういう小夏ちゃんはなんかあったの? 電話してくるってことは」

「まず1つはね、今日あった出来事なんだけど、バイトに行く途中にナンパに捕まっちゃったんだけど、そのとき助けてくれた男の子がかっこよかったんだよね」

「……イケメンだったの?」


 小夏は男の子の顔を思い出した。髪もモサッとしていたし、眼鏡もあまり似合ってなかった。だからパッと見で言えばかっこよくはない。けど、光るものはあった。

 

「んー垢抜けてないイケメン……? なんだろ、垢抜けたらイケメンそうだな、的な?」

「そうなのね……ていうか、そっちの話の方がよっぽど恋の香りとかいうやつするんだけど」

「そうかな? んーでも、そうかも。その子とたぶんバイト先一緒だったから、ちょっと狙ってる」

「狙ってる、かぁ……でも小夏なら、全然いけるんじゃない? バイト先も一緒ってことは、接する機会多いだろうし」


 たしかに、普段の小夏ならいけるだろう。何しろ小夏も美少女な上、あのスタイルときている。今日のナンパだけじゃなく、普段の学校生活でも、告白されたことが何回あったことか。

 ただあの男子は簡単に落とせる気がしなかった。女の子の好意に気づかず、陰で泣かせるタイプだと小夏は踏んでいる。

 

「だけどなんかこう、人に壁作りそうな子だったから、ちょっと難しいかなって。頑張ってみるけど」

「うん。頑張って」

「あっ、そうだあともう1個なんだけど、明日か明後日、カフェ行かない? 突然でごめんね」

「カフェ? どこ?」

「えっとね、普通のカフェじゃなくて、コラボカフェ」

「小夏ちゃんまさか……」


 アイナは信じられないとでも言いたげだ。小夏はにししっといたずらっぽく笑った。

 

「そ。そのまさか。VTuber『糸宮ぼたん』との、コラボカフェね 」

「気づかれないの?」

「たぶんね。一応配信してるときと普段じゃ多少声違うし。誰も()()が来てるとは思わないでしょ」

「それはそうだけど……」

「予定空いてたらでいいからさ」

「……うん。明日は空いてるから大丈夫だけど」

「じゃあ、よろしくね。何時がいいかな? お昼時とか?」

「うん。それがいいと思う。あっ、ちょうど今ご飯炊けたからきるね。またね」

「またね〜」


 携帯からツー、ツー、と乾いた音が鳴る。

 小夏は携帯を枕の横に携帯を置き、マニキュアを手に取った。元々つけていたネイルを剥がし、新しく塗り直す。元々は真っ黄色だったのを、薄いピンクに変えた。


「こういうことしても、あの子気づかないんだろうなぁ」


 小さく呟く。

 小夏はふと、自分がしおらしくなっているのに気づいた。らしくない。


「よしっ、頑張るか!」


 気合いを入れ直し、ペチンと頬を叩くと、小夏はベッドに寝そべった。

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