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第1話 彼氏にしたくない男子ランキング1位

 6月中旬。

 クラスにもだんだん一体感が出てきた頃。

 俺――春野 柊一(はるの しゅういち)は、賑やかにお弁当を食べるクラスメイトをぼんやり眺めていた。もう自分の分は食べ終わったから、することもない。

 ()()()()って、食べ終わるの早いんだよなぁ。昼休みはあと……残り25分か。何しよう。さっきの授業で出された宿題か、期末テストに向けた勉強か……


「そーいえば昨日集計したやつどうだった?」

「あっ、あれねぇ」

「そうそう、あれあれ」


 とりあえず寝るか。勉強したい気分じゃないし。

 頭を伏せると、隣の席で弁当を食べていた女子たちが急に盛り上がり始めた。たしかこのクラスのカーストトップのやつらだ。


「まず1位はぁ、真宮くんだった」

「あーやっぱそうだよねぇ。クラスでも1番イケメンだし」

「あと優しいし!」

「わかる! コミュ力も高いもんね」

「この前なんかさぁ、あたしが忘れ物したときに……」


 特にすることもないので、そのままぼんやり聞き流す。たぶん寝てると思われてるし、大丈夫だろう。

 1位ってことは、なにかのランキングについて話してるのか。集計とか言ってたし。

 それでイケメン、優しい、となると……『彼氏にしたい男子ランキング』とか?

 

「だよねだよね。で、もうひとつも発表しちゃう?」

「えーっ、性格悪いよ」

「でも気にならない?」

「なるっちゃなるけど……」

「おねがいっ、教えて?」


 あぁ、なんか不穏な感じがしてきた。

 そのわりに女子たちは楽しそうだけど。小声になってきたし。

 女子の小声ってたいてい良いことないからな。それこそ小声で話すときの話題ランキングなんて作ったら、1位は確実に陰口だろう。2位は恋バナあたりか。でも女子の場合、恋バナがそのまま戦争に発展したりするから、結局ろくなことない。

 

「あーもう、はい分かりました。てか、あんた結果わかってるくせに」

「まぁ、わかってるけど……」

「じゃあ発表するね。『()()()()()()()()()()()()()()()1()()』女子全員が投票したのは、ダラダラダラダラ、『春野柊一くん』です!」


 自分の名前が出て、びっくりする。

 まさかあいつらの口から俺の名前が出るなんて思わなかった。

 正直『彼氏にしたくない男子ランキング1位』を取ったことはどうでもいい。クラスの女子全員が投票したらしいのはさすがにショックだけど、別に恋愛とかしたいわけじゃないし。

 ただ、カーストトップ組とは本当に関わりがなくて、高校生活の間に名前を呼ばれることなんてないと思ってた。


「まずさぁ、ダサいし」

「わかる。ダサすぎだよね。髪モサモサだし、メガネ似合ってないし」

「それにさぁ、根暗じゃん? 全然会話してないしさぁ。女子と喋ったことないんじゃね? 男子とはたまに話してるみたいだけど」

「付き合うイメージ湧かないよねぇ」

「それな? デートとか行ったらなんも喋んなんくてくそ気まずそう」

「草」


 さもおかしそうにゲラゲラ笑う。

 普通に悪口じゃん、これ。てか、完全に悪口じゃん。

 ため息をつきたい気持ちをこらえる。

 俺、高校ではこういうのには絶対に巻き込まれたくなかったんだけど。だから地味なんだし。


 


 

 元々俺は小学生まで、けっこう活発的なタイプだった。授業とかまっさきに手を挙げるし、運動会では応援団をやったりとか、模範的な優等生だったと思う。

 中学に入ってもそれは変わらなかった。

 だけど、ひとつ大きく変わったことがある。


 "環境"だ。


 中学に入ってから、俺の周りの環境は、それはもう大きく変わった。

 まず、クラスを牛耳るのは優等生ではなく、不良じみた陽キャたちになった。

 で、当時学級委員をやっていた俺は格好の標的になったわけだ。

 中一の半ばくらいからじわじわイジメが始まって、卒業する頃には完璧なぼっち。四六時中悪口を囁かれるし、たまに暴力もされるし、地獄のような日々だった。いや、地獄なんて言葉じゃ言い表せない。死んだ方がマシかもしれないって、何度思ったことか。

 

 ただ、地獄にも終わりはくる。

 俺は地元の仲間から離れるため、遠い高校に通うことにした。親に頭下げて、一人暮らしまでさせてもらってる。


 あぁ、そうだ。

 いじめられたときの内容は全部覚えてるけど、1番忘れられないのは、卒業式の日だ。

 いじめの主犯格の子分のその3くらいに校舎裏まで呼ばれて、仕方なく彼の元に行った。最後だし、別に殴られようが詰られようが、もうなんでもいいと思って。


「ごめん!」


 着いた途端、いきなり頭下げられて超ビビった。


「別に高校違うしもうどうでもいいんだけど……」

「いや、謝りたくて。3年間のこと。その……牛田がさ、お前のことずっと好きだった田中さんのことが好きでさ。だから、だと思うんだけど……でも、それがその……いじめ、ていい理由にはならないし、本当に悪いことをしたと思ってる」

「あぁ、うん分かった。謝ってくれてどうもありがとう」


 言いたいことはたくさんあるけど、もう本当に、全部どうでもいい。


 俺は一言だけ返して親の元に戻った。

 

 きっと彼は今頃、勝手に許された気になっているだろう。謝って気持ちよくなったぶん、よっぽど主犯格の牛田よりタチが悪い。

 

 高校の間は、ただただ目立たない生活がしたい。いじめの理由がそのしょうもない嫉妬だとしたら、恋愛だってしたくない。

 そう、とにかく俺は、高校で平穏な生活が送りたいんだ。

 友達できなくていいし、ただただ目立たない。あぁーあの子いたなーくらいの、そんな生活が送りたい。

 だって知らなければ、何も言われることはないから。


 ……って、思ってたんだけどな。

カクヨムでも投稿しています!!!

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