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銀の風ファンタジア ~孤独な炎の生と死の幻想~  作者: 坂本悠
眠れる森の夢みる妖精たち
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31 急展開の動揺

 入院しているウンブラのことを思うと気兼ねしてしまうところもあったが、洗練された美しい衣装に身をつつみ、ナチュラルなメイクをしてから野外にでると、太陽はもう昇っており、にぎやかな村人たちの笑顔をみていたら、ルイはそれだけで楽しくなってしまった。


 家族づれも、恋人たちも、老いも若きもみんな祭日を堪能していることがつたわってきて、自然とルイも声高になり、レムレスとのおしゃべりもはずんだ。


 建物の外壁一面に貼られた太陽や川の流れを抽象的に表現したタペストリーであったり、植木鉢や農機具につけられた色彩豊かで一風変わった形状の飾り細工、小路や広場にさりげなく配置されたサルやオオカミ、イノシシやカモシカの彫刻類もながめているだけで興味深かった。


 レムレスに「樹木や屋根に野鳥の彫物もあったわよ」といわれたが、ルイにはまったくみえていなかった。

 自分の目線の高さだけでせいいっぱいだったわ、と笑うしかない。


 すれちがう住人たちも民族衣装ばかりではなく、動物や植物、架空の生物に仮装している場合も多く、まるで劇場の舞台裏みたいで愉快だった。


「――真顔な人が多いのも劇場に雰囲気が似てるのよ」


 レムレスにそう説明していると、羊の恰好をしているちいさな女の子がルイを凝視してきたので、ルイはほほえんで手をふる。


「王都でも注目されるような舞台公演なんて、私はまったく縁がないから、そう聞くと混乱するわ」


 レムレスもそれに倣いながら、女の子を見送る。


「ちがうんだけど、似てる。なんていうか、ものごとってそういうものなのかしらね」


 ルイがまじめに腕組みしたので、レムレスが噴きだし、それをみてルイは若干顔を赤らめる。


「でも混乱っていうなら私も、レムレスから聞いていた感じで、だいぶ古めかしいお祭りを想像していたから、こういったら失礼かもしれないんだけど、形式というか、ありかたみたいなものがとっても洗練されていてびっくり――」


「まァ、最近になって柔軟に変化してきてるっていうのはあるのよ。最近は一周まわってお祭りを楽しみにしている若い人も多いみたい。発表会みたいな要素があるからかしらね。本来のお祭りはもっと形式的で厳粛で面白みなんてさほどないのよ。でも、あんまり厳密にしすぎると若い世代はついてこないし、伝統を重んじるあまり若い世代をないがしろにしたら文化なんて一気に衰退してしまうから」


 レムレスは微笑する。


 レムレスは若者の部類だが、年配層と若年層のはざまにいるような立場なのだろうか。

 そういう視座を理解しているから、ルイたちの面倒をみる係をしているのかもしれない。


「それでも根本的な部分はあまり変わらないわけでしょう。若者の参加部分だけは適応しやすくしているってだけで……。なんていうか世界樹や森に対する畏敬の念を表現する、そのやりかたがとても高尚にみえるの」


「ふぅむ……」


 ルイの意見に、レムレスは少しふしぎそうな顔をしながら歩いた。


 しばらく広場の喧騒をみながら散策していて、ウンブラ(とルイ)の事故があった大やぐらのまえまでくると、レムレスはまっすぐルイをみる。


「ルイたちは村のことをとても好意的に理解してくれてすごいわね。不自由さを嘆いたり、束縛に怒ったりするのもふつうの反応だと思うんだけど、私からするとルイたちの受け入れかたのほうが高尚にみえるわ」


「ふふ……ないものねだりをしているのかしらね。私たちはこのあいだまでごみごみした人種のるつぼみたいな王都にいたわけだし」


 王都を出発してからどのくらいの月日がすぎたのか一瞬わからなくなって、ルイはわれにかえる。

もう何週間経ったのか――。


 指折り数えようとすると、急にレムレスが「あ!」と大きな声をだし、驚いたルイがみると、レムレスが「ほら、王子たちがきたよ!」と声高にはしゃいだ。


 レムレスがばねのように両手をふりまわしたので、アルバートとディレンツァはすぐに二人に気づいて近寄ってきた。


「やぁ」


 アルバートが(いつもどおりの)煮えきらない顔であいさつしてくる。

 ディレンツァもまた(いつもどおりの)無言で目線をあわせてきただけだった。

 少し距離を感じるのは面と向かって会話するのがひさしぶりだからかもしれない。


「二人とも衣装が似合ってるね」


 アルバートがへらへらする。

 お世辞なのか本心なのかわからない笑みで、ルイはいらっとしたが、レムレスは素直に頬を上気させた。


「王子たちもお似合いよ。二人ともちょっと落ち着いた色合いだけど、雰囲気は若返った感じ」


 レムレスがにっこりすると、アルバートはあたまをかく。


「二人は大人っぽくなったね。やっぱり、衣装の形状の差かな」


「色っぽいでしょう?」


 レムレスが艶っぽくウインクしたので、アルバートがあからさまに照れた。

 なんだか癪にさわったので、ルイは目を細める。


「王子なんか若返ったというよりは、子どもっぽくなったわね」


「え、そうかな」


 アルバートは自分の両袖をみるそぶりをする。


「あら、すっきりしていて私はすてきだと思うけど」


 レムレスがわざわざフォローした。


「全体的に落ち着いていてなじむよね。衣装だけじゃなくて、あちこちの装飾もセンスがいいし、鳥や動物の彫刻なんか、まるで生きているみたいに精巧だったよ」


 いくら得意分野とはいえ、(ルイが看過した)野鳥にアルバートが気づいたという事実に、ルイは舌をべーとだす。


「王子も村のどちらかといえば地味な部分を褒めてくれてうれしいわ」


 レムレスは両手を胸のまえであわせる。


「ルイともそういう話をしていたところなのよ、ねぇ」


 急にレムレスがルイをみたので、ルイはとりみだして「え、あ、まぁね」と、とりつくろう。

 そして、髪をいじりながら目をそらす。


「勝手なイメージで伝統的っていうのを野暮ったいものだと思いこんでいたから、村祭りもそうだけど、村のありかたみたいなものが洗練されてて脱帽したのよ」


「そのとおりだけど、それは村にきたときからそうだったかもしれないね」


 アルバートがこれみよがしな顔つきをしたので、ルイはむっとする。


「……つかれているときは、旧いもののほうが安心できるものだ」


 すると、ディレンツァが独白するようにつぶやいた。


 それについてルイが考えていると、レムレスがアルバートに声をかけた。


「そういえば、王子は今夜、長老に面会するのよね」


「あ、はい、急に決まったらしくて……」


 アルバートは尻つぼみにごにょごにょいう。

 どうやら緊張しているらしいが、重要なことを黙っていたことの非難をこめてルイはにらむ。

 しかし、アルバートは気づかず、ディレンツァがルイをみてうなずいた。


「今朝がた報告された。どうやら、祭りの夜ぐらいしか時間がとれないということらしい」


「へぇ……」


 突然の展開なので、ルイは思考が追いつかないが、なんとなく違和感がぬぐえないでいると、「いくら長老といえども、そこまで多忙なのは理解しづらいな」とディレンツァがまとめてくれた。


「しかも、私やルイは同席できないそうだ」


「ううむ……」


 ルイは腕組みする。

 もはや問題点がどこにあるのかわからなくなってきており、アルバートをばかにできない。

 アルバートに身ぶり手ぶりで話しかけているレムレスの背中をみながら、ルイは混乱する。


「すっごく残念! 今日は王子と式典に参加して、屋台や演芸をみてまわったあと、結婚式と披露宴をのぞいてみようと思ってたんだけど」


 レムレスは目をふせる。


「今夜は例外で式と披露宴をおなじ会場でするみたいなの」


 アルバートはまんざらでもなさそうに「にぎやかで楽しそうですもんね」などと、こめかみをかいたりしている。

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