30 どんぐりとリス
ザウターは楽しんでいるふりをしていた。
そうしていなければ、すぐにティファナがふきげんになってしまうからという理由が大きい。
収穫祭当日は早朝、民族衣装を着るはめになってしまった。
ラフな恰好に着替えると装備のたぐいがあまり仕込めないため避けていたのだが、有無をいわさぬ雰囲気があった。
しかたがないので極力めだたない炭色の衣装を選んだ。
武器は(彫刻にも使っている)小型ナイフぐらいしかたずさえられなかった。
ティファナはドレス風の民族衣装を着るのだという。
そういえば、昨日知人の樵夫が「色香がさらに増すぜ、いいなぁ、おい」と笑っていた。
ティファナは〈樹海の村〉に完全になじんでしまっていた。
気づけばティファナがいちばん、その一風変わった生活様式に慣れ親しんでいる。
水が合うを通りこして、好意さえいだいていそうな様子だった。
樵夫によれば、沙漠の国の王子たちも長老に面会をもうしでたものの、足どめをくったままらしい。
ザウターとティファナは即興で夫婦という設定にしてのりきったが、連中は律儀に全員未婚者としたため離ればなれになっているという。
正直者がばかをみる典型例である。
しかし、ザウターもしたり顔をしている場合ではなくなっていた。
沙漠の国の連中が身動きできない以上、ザウターたちもへたに行動できず、そのせいでティファナが「収穫祭当日に二人の結婚式を挙げたらどうか」という婦人部の提案を快諾してしまったのだ。
それからティファナは浮かれきっており、瞳をかがやかせて村の女性たちと段どりを話し合い、準備にも余念がなく、とどこおりなく当日を迎えてしまった。
ザウターは引出物にするという「どんぐりをかかえたリス」の彫刻を予告どおり50個つくらされた。
あまりにもうんざりする作業だったが、しなければティファナにどやされるため、致しかたなくしたがった。
住居にもどると秋の夜は長く、することもなかったため不可能なノルマではなかった。
最初から反意を示すこともできず、浮き足だっているティファナにはそもそも言葉が通じず、ティファナの言葉もザウターには通じず、ザウターが平常過ごしている作業場の樵夫をはじめとする同僚たちにも、「おまえさんはあまり派手なのは好きじゃないだろうから、楽しんでやれるように格式ばったのはやめよう」とか宥和策をだされたりするので、ザウターもその流れを容認したようになってしまっていた。
ザウターはリスを彫りながら、沙漠の国の連中が世界樹の根を意識していることについて推察などしてみたが、やはりザウターには知るよしもないことで、推測の域をでないことは考えないことにした。
しかしながら、長老(および村議会)が沙漠の国の連中をして世界樹の根のあるみずうみに向かわせないようにしているという事実には着目すべきだろう。
沙漠の国の連中がどう考えているにせよ、そこに使命があるのであれば、それを妨害したり、せめてなにをするのか見届ければ、なにかしらの成果となるにちがいない。
ザウターたち(あるいはハーマンシュタイン卿)に累をおよぼすような行動が予見されるのであれば、さきまわりして世界樹の根だろうがなんだろうが燃やしてしまうのも手だろう。
「じゃーん!」
突然うしろからはしゃいだ声がした。
ふりむくと、ティファナが両腕をひろげている。
ウェディングドレスだと聞いていたが、ティファナが好んで着そうなドレス然としたドレスではなかった。
身体にフィットしているので豊満さがきわだっていたが、衣装自体は、白地に薄いピンクの模様が描かれていたり、肩口に黄色い花飾りがつけられているだけである。
「ああ、シンプルでいいんじゃないか?」
ザウターは率直に感想をのべる。
「む、単純にみえて難しい刺繍がいっぱい入ってるんだよ? だめだなぁ、ザウターは。ささいなこころに気づけない」
結婚式の話になって以来、ティファナはむくれてばかりいるような気がする。
「いや、色の話だよ。白にするなんて思わなかったから」
「白じゃないよ。白百合色」
ティファナは鼻息をふんと噴いた。
もはやお手あげなので、ザウターは微笑をうかべて黙ることにする。
「それに、このうえに世界樹の花びらをモチーフにしたボレロを羽織るからね。それだってすごく手間をかけてあるんだから」
「そうか、それは楽しみだ」
ザウターは棒読みにならないように気をつける。
ティファナは「いそがしいいそがしい」とぶつぶつつぶやきながら自室にもどっていった。
いれちがいに、二人の手伝いにきていた婦人がでてきて、ザウターにむけて愛想笑いをした。




