25 大揺れの舞台
「――大きいな」
ディレンツァがつぶやいた。
目線からやぐらのことを話しているようだ。
「ほんとよね。思ってたよりも大きくてびっくり」
ルイも同意した。
「結婚式というのもここで執りおこなわれるのだろうか」
ディレンツァはウンブラをみた。
「ああ、どうだろうな、詳しいことはオレも聞いてないけど、一般的には式自体は教会か礼拝堂が多いけどな」
ウンブラは広場をみながらうなずく。
「ここは披露宴には向いてそうだ」
ルイは思わず反応する。
「え、結婚式?」
「ああ、知らなかったのかい」
ウンブラは微笑する。
「なんでも村外からの来訪者の夫婦が結婚式をするらしいよ」
「へぇ……それはそれは」
ルイは両手をあわせる。
「って夫婦が?」
「そうらしい、事情は知らないが収穫祭にあわせて式を挙げるんだそうだ」
ウンブラはうなずく。
「なんだかすてきじゃない?」
ルイは両手をもみあわせる。
「どういうことをするの、公開されるのかしら?」
「レムレスのほうが関心をもっているみたいだったが……」
ウンブラは腕組みする。
「神父がきて、森の神さまに報告して、永遠の愛を誓って――みたいな感じだよ。披露宴をするのかどうかは人によるかな。王都だってそんな感じだろう?」
「――神父や森の神というあたり、旧教なのだな」とディレンツァがつぶやいた。
ルイに話したのかウンブラに応えたのかがよくわからないので、ルイは返事に窮してしまったが、ウンブラがにこやかにつづける。
「でも、収穫祭にあわせるくらいだから、ちまちませず一般公開されるだろうし、いわゆるお祭り騒ぎになるんじゃないか?」
ルイは想像する。
「そうよねぇ。なんだか楽しそう!」
「余興に参加できるなら、ルイはダンスでもしたらどうだい?」
「音楽にあわせてもりあがったりしていたら、自然と身体が動いちゃうかもしれないわ」
ルイがにこにこすると、ウンブラが「ルイみたいなプロの踊り娘がでてきたら、新婦を喰っちゃうかもしれないけどな」とまたルイの気分を昂揚させるようなことをいう。
ルイは「やだ、そんなことあるわけないわ」と照れながら身をよじった。
それにともなって衣装のスカートがふわりと舞って、「なんだかルイは、なにげない仕種ひとつとっても洗練されてるよな」とウンブラが真顔で感心し、ルイは完全に舞いあがってしまった。
「それじゃ、ステップの練習もしとかなきゃいけないかしらね――」
そして、やぐらの中段の舞台スペースにくるりと跳ねあがると、風の妖精のようにかろやかにステップを踏んだ――。
すると、さきほど足場の裏にいた初老の男性の声がした。「おい! 気をつけろ!」
そして、頭上からは若者の叫び声がした。「ああ! あぶない――!!」
――ルイの記憶ではそこからさきは、視界がしばらく真っ暗になり、足もとがおぼつかなくなり、身体が横回転し、気づいたら地面に横たわっている状態だった。
あちこちをぶつけたようだったが、出血や大きなけがはなさそうで、ところどころすり傷や痣ができていそうな気がした。
ぼんやりした瞳を、ディレンツァがのぞきこんでくる。
「しっかりしろ」
「な、なに、なにがあったの――?」
ルイはあわてて身体を起こそうとしたが、ディレンツァに制止される。
口のなかを切ったらしく血の味がした。
そして、寝ころがった状態で目線を動かし、状況をなんとなく理解した。
どうやら、やぐらの上部が崩落したらしい。
まるたや木材が散乱し、そこかしこにころがっており、そこに作業員だった男たちが何人か巻きこまれて倒れこんでいる。
ルイは(自分がふざけて踊ったせいでそうなったのではないか――?)と顔面蒼白になったが、ディレンツァがそれを察したらしく「ちがう、安心しろ」とうなずいた。
ルイは胸をなでおろす。
すると、あちこちが痛んできた。
「とりあえず動くな。問題ないと思うが医師にみてもらおう。ここでじっとしていろ――」
ディレンツァがたちあがった。
その横顔が陽の影になり、なかなか動かない。
「どうしたの?」
「ルイは大丈夫だが――」
それだけ言い残してディレンツァの影が消え、ルイは急にまぶしくなって目を閉じる。
そうすると、がやがやと男たちの声が聞こえた。
事態の収拾を命令する声や、責任を問う詰り、苦痛を訴えるうめきやいくつかの怒声にまざって「ちっ、ウンブラもかよ――」と吐き捨てるような声が聞こえ、ルイは血の気がひく。
ルイが身体を起こそうとしたところで、ディレンツァが担架をもった男をつれてもどってきた。
「痛っ――」
ルイは骨盤付近に痛みを感じて動きをとめる。
「無理するな、ひねった程度だと思うが」
ディレンツァがルイの肩に手をおき、男に指示して担架を地面にひく。
そして、ルイの腰に手をまわすようにしてすんなりもちあげると、担架にのせてくれた。
ルイがかるいのだとしても、ディレンツァの手ぎわはとてもよい。
ふたたび骨盤あたりに疼痛があるが、ルイはがまんした。
「ねぇ、ウンブラがどうしたの――?」
ルイの問いかけにディレンツァは返事をしなかったが、担架をもってきた男が「なぁに、気にするなよ、アイツは頑丈だから」と笑った。「かわいい女の子のために負傷するなんざ、本望だろうさ」
ディレンツァが眉をひそめた。
「――どういうこと?」
ルイの問いかけに、男はふしぎそうな顔をする。
ディレンツァが目を細めて嘆息した。
「やぐらが部分崩落して――ウンブラはルイをかばったんだ」
ルイの脳裏が一瞬まっしろになる。
「えっと……」
よく思いだせない。
気をつけろ、とか、あぶない、とか聞こえた気がしたが、そのあとは――。
「ねえちゃんの立っていたところがいちばん危険だったんだ。でも、ウンブラが割って入ったから大事にならないで済んだんだよ。あとでウンブラに感謝してやってくれ。まァ、ウンブラも感謝されたくて助けたわけじゃないと思うけどな――」
男は微笑しながら、やぐらがくずれるさまを手ぶりで表現した。
「なんてこと……」
ルイは両手で口をふさぐ。
自分のせいではないのだとしても、納得はしづらい。
「ウンブラはどうなの?」
「ほら、あんたもこれから診療所にいくんだからわかるよ」
男は担架の後方に手をかける。
前方をディレンツァがうしろ手にもち、ふりむかずにつぶやいた。
「命に別状はない。骨をいくらかやったかもしれないが――」




