43 怒りの代償
打ちあがりはじめの頃の怒涛の勢いは鎮静化してきていたが、花火はまだ終わっていなかったので、その光を頼りに、(ばか)女をかついで走る(いけすかない)男の追跡は難しくなかった。
ルイは狙いをつけたヘビのような目つきでそのうしろすがたを見据えていた。
それでも、男は女を背負っているとは思えない速力でもって暗い林にむけて走っていた。
〈鹿の角団〉の名のとおり、まるで鹿のようなかろやかさである。
(まったく――腹立つったらないわ)
ルイはふつふつとわいてくる怒りを噛みしめる。
走っているうちに全身に熱がいきわたり、まるで雄牛のような闘争心が芽生えてきた。
王都にたどりついてからも、なんだかんだで咀嚼しづらいことも多く、すっきりしない不満感がつねにルイの下腹部で煮えたぎっていた。
わかりやすい敵の存在はストレス解消にもってこいだったのである。
ルイはぐんぐん大股で駆ける。
ルイのほうが速かったけれど、男たちのほうが林には早くついた。
そのまま樹々の合間に逃げこむかと思いきや、女を背負った男はそこでたちどまる。
男の長靴が地面をえぐる音が聞こえてきそうなぐらいの急停止だった。
ルイが面食らって速度をゆるめると、すぐ背後にディレンツァが追いついてくる。
そのあとをパティとフリーダもついてきているようだ。
「落ち着け。油断するとあぶない。なにか企んでいるかもしれない」
ディレンツァが小声で警告してくる。
周囲をみると、林のそばには沼があった。ときどき花火に照らされ、ぬめぬめとした水面が白くうかびあがる。
粘着質な泥水で、地表面では河川の水が流れこんでいる様子もない。
一年中どろどろと濁っていそうな池沼だった。
すると、それを視認するやいなや、泥面がぴかぴかと光りだす――。
ずぶずぶした泥のかたまりが無数の星のようにかがやき、爆発するようにひろがって、まるで隕石群がとんでくるようにして、なにかが飛来してきた。
「刃物――!!」
ルイが叫ぶと同時に、ディレンツァがチッと舌打ちし、ルイのまえにまわりこむ。
そして右手をかざして魔法をとなえると、魔力の発動によってディレンツァの着ている長衣のすそが風をうけた鳥の翼のようにひろがった。
ルイがかたわらからのぞきみると、ディレンツァの右手のさきに(かつてルイもみたことのある)半透明の光の盾が出現していた。
光の盾がにぶい光をにじませながら宙にうかびあがる。
物理的な攻撃を防ぐことのできる魔法の盾である。
その盾に泥面からとんできた無数の小型刃物が衝突し、はげしい火花を散らして、はじけとんだ――。
ルイは思わず両腕で顔をかばう。
刃物の数や勢いにも相当な危険性があったが、なによりそれらが盾をうつ音に驚いて反射的に身をひいてしまったのである。
まるでつむじ風が起きたあとのようで、ルイは鼓動の高まりを感じる。
「――フリーダ? フリーダ!?」
すると背後で、パティの悲鳴にも似た狼狽の声がした――。




