36 なしくずしの余興(大輪の花)
突然の閃光につつまれた直後、爆発音や轟きが起こり――ルイたちのいる喫茶店内には女性客たちの悲鳴が連鎖し、テーブルや椅子が床を摺る音や、床に落ちた皿やグラスが割れる音がひびいた。
「なになに、どうしたの、なんなの!?」
フリーダが両耳をおさえながら叫び、パティは床に落ちたチーズクラッカーをうっかり踏んでしまい、パリッという乾いた音に驚いてとびあがる。
騒音でめざめたモカもパティの右肩でたちあがった。
ルイは窓辺に走り、両手でつきやぶるようにして出窓を開け放った――。
隕石落下、嵐、稲妻等の大魔法であったり、爆発物を利用した事件なんかが脳裏をよぎったりしたが、ルイの予想は大きくはずれた。
いずれ、昨今の〈鹿の角団〉の所業のせいもあって、王都(あるいは国王)に害をなす者の破壊活動だと勝手に思いこんでしまったがどうやら杞憂のようだ。
「わぁ!」
ルイの背後からパティが感嘆の声をあげる。
キキキキ、小ザルもうれしそうに小きざみに鳴いた。
ルイたちの視界いっぱいに映ったのは――花火だった。
大輪の花のような連続花火が夜空にひろがっている。
建築物や街路がひんぱんに照らされ、まるで白昼のような明るさだった。
呆然と空をみあげる人々も白く浮かびあがり、まるで油絵の風景画のように硬直している。
旅人たちは全員そろって彫像のようにならんでとまり、ギター弾きはカッティングの途中で動きをとめ、ペアダンサーは両手をとりあってかたまり、馬車のキャビンにふんぞりかえっている貴婦人もクジャクの羽根の扇子をとめ、その馬車の馬たちでさえもたちどまって空を仰いでいた。
はじける音と火花、火の粉の美しさにつかのま、だれもが息をのんでいた――。
「プログラムにこんな演目あったかしら?」
ルイの問いかけに、パティもフリーダも首を横にふる。
「かんしゃく玉より、色が多くてあざやかですね」
パティが両手をあわせて微笑すると、キキキとモカが同意した。
「銅や塩なんかをいれることで色をつけられるらしい」背後からディレンツァの低い声がする。「〈デヴィッド機巧工房〉の細工物としては目玉らしいが――」
「こんなに派手な発表のしかたってある?」フリーダはあきれたように笑う。「自慢するにもほどがあるわ」
「でも、こういう演出のほうがびっくりはするね」パティもほほえむ。
「――王都による意図的なプログラムとは考えづらい」
ディレンツァがつぶやいたので、全員がディレンツァをみた。
「これらは〈魔導院〉が管理していたかんしゃく玉や、水上演出用のしかけ花火にちがいない。要するに何者かに盗まれて、門兵たちが犯人さがしをしていたものだろう」
ルイたちは思い思いの反応で納得する。
「盗まれたとみせかけて、ど派手にうちあげる演出だったとか」フリーダが目を大きくする。「わざわざ箝口令も布いていたみたいだし」
「うーん、あんなに大勢の騎士やら警備兵やらを駆りだして検閲してたんだから、それはなさそうよね」
ルイが腕組みすると、ディレンツァが首肯した。
ディレンツァのもの言いたげな目をみて、ルイも思い至った。
「――もしかしてやつらが動いたってことかしら?」
ルイが訊ねると、ディレンツァがルイから視線をそらして空をみた。
「ああ、おそらく」
「やつらって――〈鹿の角団〉?」フリーダに問われると、ルイは「そう、正確には盗賊団の残党たちね」と早口で答える。
「っていうことは、かんしゃく玉や花火を盗んだのもそうなのかしら?」フリーダの問いに、「おそらく」とディレンツァがうなずいた。
「しっかりした施錠があったんだけど……」パティがつぶやくと、ディレンツァが無表情で応えた。「ハーマンシュタインの能力をもってすれば、そこはあまり関係ない。だれにも知られることなく箱に近づくこともできるだろうし、どんな鍵であっても開錠することは可能だろう」
「――なんだかこわいわね」フリーダが口をとがらせる。「万能なの?」
「これら無数の花火をどうやって打ちあげているのかも私たちにはわからない」ディレンツァは一度目をふせた。
「このどうしようもない、なんだかいやな感じ……私の勘だけど、盗賊団の、あのいやみったらしい女がからんでいるのはまちがいないわね」ルイはムフーと鼻息をふく。
「宝物庫が狙われているはずだ――」ディレンツァが警句を発するよりさきに、ルイはもう駆けだしていた。
そして、「わかってるわ、行きましょう!」と戸口でふりかえって、手を旗のようにふりかざした。




