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姉妹の話  作者: 虹彩霊音
1/3

〜妹を愛したい姉の話〜


姉とは、何だ


妹が居る者のことか


ならば、私は何だ


姉で良いのか


妹は居る


でも、妹じゃないんだ


なら、私は姉でもないのだろうか



…姉妹とは、何だ





「・・・私は、何だ?」


さわやかな風が少女の髪を揺らす


「私は…姉?あの子らの姉?姉とは…何だ?」


少女はぶつぶつ言っている。それは誰に対してというわけでもなさそうだ


「あの日から…ずっと考えた。私らはあの姉妹のコピーである…だが、私達は姉妹ではないのだ…オリジナルが姉妹であろうと、私達が姉妹とは言えない…

だが…あの子らは私を姉だと言う…」


少女は晴れた空をずっと眺めていた、透き通った空を眺めていた



「姉さん…エニグマ姉さん」


少女は突如聞こえた声ではっとする


「…ファントム」


「また、考え事?」


「…まぁな」


ファントムは口を少しもぐもぐさせる、何か言いたそうだ、その口から放たれるべき言葉が出る前にエニグマが言う


「・・・遊ぶならライトと遊んでくれ」


「…はーい」


ファントムがそう返事をする、その声は力がこもっていなかった





いつも生きたいと思う時、()()()が甦るんだ。普通(やつら)に憧れていたと気が付いたのは最近だった




もしも、私が愛されていたら…ファントムの言葉にも応じられたのだろうか、今より優しくなれたのだろうか…?



「…どうして生まれたんだろう」






太陽が私の真横にあった、確かこの時が夕方って言うんだったかな


私はある場所に戻った、なんて言えば良いのかな

拠点とでも言えば良いのかな、まぁそんな感じの場所があるって思ってくれ。そこには木がぽつんと生えててさ、そこをよく寝床にしてるんだ


「…あ、おかえりなさい」


ライトが目に入る


「…ファントムは?」


「そこらで暇潰すだってさ」


「…そうか」


私はそれだけ言うと地を一蹴りして木の枝に乗り移って横になった



私は指を鳴らす、すると楽器が出てきた。そう、あの騒霊楽団の一人が使うやつだ、二人もそうなのだが 能力を継承しているのだろうか、今はまだ使いこなせないけれど…



「・・・」


楽器を弄っていると横目に誰か見えた、ライトはそれを見るや否や向かっていった


「寂滅ー!」


確かそう言ったな、そう言って抱きついたんだ


「仕事帰り?」


「まぁ、そんなところだね」


そう返した、ライトと寂滅は…瓜二つだった

いや、当たり前なんだけどさ


そして、もう一人…私に似ている者



「・・・」


そいつは私のところへ来る、木のふもとまでくると

体を宙に浮かせてきた


「・・・何だ、叡智」


「もうオリジナルって言わないんだね」


「長いから」


「なるほど」


叡智は妹達の方を見る、妹達は猫がじゃれあうかのように遊んでいた


「…可愛い」


「可愛い?」


「うん、妹は…可愛いよ」


「本当に?」


「妹の可愛いところ100個言ってあげようか?」


「…いや、遠慮しておく」


こいつの妹に対する愛情は山より高く海より深い

姉はこういうものなのか?


「…叡智」


「ん?」


「姉妹って何だ」


「それは…なかなか答えづらい質問だね」


「・・・姉って何だ、妹を愛せば良いのか?

だが私は愛を知らない、未経験の愛で愛せと言うのか?」


叡智は真剣な顔をした後言った




「・・・姉妹と一緒に居ると安心するんだよ」


「と言うと?」


「私は妹と居ると凄く安心するんだ、まるで何かを埋めてくれてるようでさ、もちろん喧嘩もする。だけどさ…居なくなったら、それはそれで寂しいよ。

姉は妹を愛して、妹も姉を愛する、それが姉妹なんじゃないのかな」



「・・・もしも、私が愛されたらちゃんと笑顔になれたのか…?ファントム達にも応えられたのか…?


…いつか愛されたら、どうやって返してあげりゃ良い?なぁ、教えてくれよ」


「そんな急いで考えなくても、今はそれなりに生きていける、ゆっくり考えたら?」


「・・・なら、私はよく居る凡人ってことで、そういうことにしておいてくれ…そういうことにしたいけどさ…消えないんだよ、あの時殴られた傷がさ、未経験の愛ってやつで」


「・・・」


どう答えれば良いのか分からなかったのだろうか

叡智はずっと黙っていた



その時だ、楽器を思い切りぶっ叩いたみたいな音が聞こえたんだ



「何だ!?」


「…向こうから聞こえたな、見てみるか」


私は木から降りて、三人と共にその場所へ向かう




ガラスを引っ掻く音みたいな、まぁ甲高い雑音が歩けば歩くほど比例して大きく聞こえてくるんだ



「・・・ファントム!!」


「幻!!」



そこで幼い者二人が取っ組み合いしてたんだ、片方が上に馬乗りになって襲ってたな、いやファントムなんだけどさ



「何やってるの!?」


ファントムはまるで威嚇する狼みたいな形相をしていたな、幻は必死に抵抗してたよ


「姉さっ!助けっ!なんかいきなり…!!!」


「・・・グゥッ!・・・フゥッ・・・」


しばらくしてぐったりと力が抜け、幻に覆い被さる


「幻、大丈夫?」


「う、うん」


幻はそっとファントムから離れる


「・・・くせに」


「え?」




「愛されてるくせに…ずるいよ…」


ファントムの頬は湿っていた、それを見たら何故か少しだけ虚しくなった






「おかえり」


戻った私達の迎えるのは金色の龍だった


「…ソル」


「珍しいな、そいつらとつるんでるなんて」


「まぁ、色々あったんだ」


「・・・ファントムに何かあったのか」


ライトにおんぶされているファントムを指さす


「・・・まぁ、うん」


「…そうか」


ソルはそれ以上何も聞かなかった


「…ソル、今日はファントムと寝てくれないかな。

貴方の温もりを感じれば多少落ち着くと思う」


「…分かった」


ソルは首を伸ばしてファントムの襟を咥え、抱える

彼の腕に包まれた時、微かに安心したような顔をしたような気がした


「…幻」


「ん?」


「今日は…悪かったな、色々」


「あ!大丈夫だよ!平気だから!だけど…」


幻は顔を下に向ける




「あの時怒ったって言うより…悲しそうだったな…

昔の私みたいに…あの子もひとりぼっちなのかな…」


「・・・」


誰も、何も言わなかった






叡智達とはそこで別れた、もう空は黒色になってた


「・・・おやすみ、姉さん」


「・・・うん」


木のふもとでそう言った妹の声にそう返事する





もしも私が愛されてたら、妹達を愛せたんだ

もしも私が愛されてたら、優しくできたんだ


そんな事今更考えたって意味無いと思うけど



私にはわからない、お前の言う愛がわからない

私にはわからない、愛を口から出せない

私にはわからない、考えることすらできない



そうやって生きてきた、この自分の生まれつきの愚かな性格にずっと苦戦しながら。

今だってわからないんだ、こんな見た目だけ普通の生き物になんて生まれたくなかった

お前達が中途半端に教えてなければこんな思いなんてしなかったんだ



お前にはわからない、お前の言う愛がわからない苦痛

お前にはわからない、愛が口から出せない苦痛

お前にはわからない、考えることすらできない苦痛


わからない、わからない、お前にはわからない

私は普通に生まれたかったんだ





「・・・」


寝れない



私はライトを起こさないように、その場から去った



空は闇と若干の灰がぐじゅぐじゅに入り混じっていた

その灰からポタポタと、やがてザーザーと水が

溢れ出す。その水に当たった私は一瞬で全身を濡らした、服は肌に密着し、髪は水でしなる


その水は冷たかった、これが雨か



「・・・?」


びしゃびしゃと私の体にあたっていた雨が突如あたらなくなる



「・・・風邪、ひいちゃうよ」


私の真後ろに寂滅が居た、寂滅が持っていたものが

雨が私にあたるということを妨げている


私は寂滅に言った


「・・・あの時、仕事帰りじゃなくて幻を探してたんだろ」


「よくわかったね」


「いつも三人セットで行動してるじゃないか、色々あって喧嘩した、そうだろ?」


「ご名答」


寂滅はニッコリ笑う、私は笑う理由が分からなかった

喧嘩なんぞしたらやましくならないのか?


「…喧嘩してもね、いつかまた三人に戻るよ」


私の考えてることを見透すかのように言う


「…何故」


「姉妹だから」


その言葉に私はビクッとした


「…姉妹?」


「そう、姉妹は…素敵なんだよ」


「…お前の妹は龍と番らしいじゃないか。その場合はどうなるんだ」


「その場合、家族になるね。家族も素敵だよ、彼も私達の家族なんだ」


「…人間達の間では、裏切りだとか起こるらしいが」


「それは本当の家族とは言えないね」


「…お前達は家族と言えるのか?」


「言えるよ」


この問いに対する答えだけ迫真に答えた気がした


「私達は、繋がってるもの」


すると拳を作って左胸に置く


「心が」


「心・・・」


私は深呼吸をした、水分をたっぷり含んだ空気が鼻から入り、少しむせそうになる


「…寂滅」


「ん?」


「姉妹とは何か、お前にわかるか?私達は、どうすれば姉妹になれる」


寂滅はしばらく考えた



「…貴方は、あの子達が嫌い?」


「…嫌いではない、でも好きになれない」


「そう、なんだ」


「…私の言動は、いつもファントム達を困らせる

私だって、そんなことはしたくない。だが、できない」


寂滅は黙り込む


「…お前は、叡智に憧れてたりするのか?」


「…憧れてるっていうか…姉としての尊敬、かな」


「尊敬?」


「うん、姉さんは凄いんだ。私達の為ならどんなに

危険なことでも躊躇わずやっちゃうもん。たまに変な事したりするけど、それも含めて好きなんだ」


「・・・そうか」


私は次の質問をした



「・・・叡智は、それを苦痛に思ったことはあるか?」


「・・・え?」


「妹達からリスペクトされる、それは表としては素晴らしいものかもしれない、だが裏からすれば多大な

ストレスにもなり得る」


「…確かに、姉さんは姉さんとしての責務を果たそうとして、壊れそうになった時もあるよ。


でも、こう言ってくれた。



慕ってくれるのは、嬉しい。私も貴方達に応えたい


…ってね」



「・・・応える、か」


「私も、幻や姉さんに応えたい。姉さん達は私にとって代わりの居ない姉と妹だから。貴方も、貴方の代わりは居ないと思うよ」


「…皮肉だな」


「別にそんな意味で言ったんじゃないよ、そのままの意味。貴方が貴方で居られたから、あの子達と出会えたんじゃないのかな」


「・・・」



私は、ずっと二人を突き放していた

自分は近づく価値が無い生き物だから

なのに、二人はそれを気にも留めず、近づいてくる

それを…私は…



「・・・」


目に溜まった雨が溢れた、寂滅は何も言わなかった


「・・・そろそろ、戻る」


「気をつけてね…傘、持ってく?」


「いや、いい。そっちも、気をつけるんだぞ」


「うん」



私達はその場で別れた



涙を流していた理由も知らずに

私は弱虫だったんだ、本当はわかっていたはずだ

本当は聞こえてるのに、怖いから耳を塞ぐんだ

本当は聞こえてるのに、怖いから壁を作るんだ



これを変えるには、一つの勇気で充分だ




いくら時間が経っていっても、自分が姉だという自覚が持てなくて、姉で良いのかわからなくて



またそこらを歩いて考えようかと、足を動かしたんだ


「・・・」


後ろから誰かがついてくる


「…ついてきても面白くないよ」


「・・・それでも良い」


「…なら勝手にしなさい」


再び足を動かした




三人でしばらく歩いていた、特に思い浮かぶことも

なかった、頭にあるのは虚空だけだった



今日も変わらないと思ってた




「・・・」


その日感じた風は微妙にいつも感じるのとは違っていた、少し吐き気を促す風だった



「・・・姉さん、顔色悪いけど大丈夫?」


「・・・今日は、体調が悪いのかもな。戻ろうか」


踵を返す、その時だ




「うぐっ!?」


ファントムが吹っ飛んでった、蜘蛛のような機械が体を拘束していた


「ファントム!」


ライトが慌てふためく


そして、聞こえた声




「久しぶりだな」


私は後ろを振り向く、そこには白衣を着た男とその助手らしき人間


「…誰だ」


「この姿を見れば誰かはともかく何かはわかるだろ?」


「・・・まだ私につきまとうのか、もう放って置いてくれないか」


「そういうわけにもいかないのさ、何故かはわからんがさっき上からお前の回収命令が下されたのでね」


「…まだ、愚かなことを続けているのか」


「愚か?語弊があるな、これは世界の発展故の仕方のない犠牲さ、犠牲無しじゃ世界は進化しない」


すると男はポケットから何かを取り出す、それを見た彼女は


「…お前に従うくらいなら、私はこの世から消える」


「おっと、それを言うってことはまだ頭の中に機械が仕込まれてるってこと、分かってるみたいだね。

でも無駄だよ、このスイッチを押せばお前はどう足掻いても命令を聞かなきゃいけなくなる」


「…私の体を操ろうが、私の心までは操れない」


そうエニグマが言った時、助手が言った


「アンタが逆らうたびにアンタの仲間が傷つくよ!」


助手の言葉が放たれた時、ファントムが悲鳴をあげた



「あがっ!!いだいっ!!!いだいッ!!!」


ファントムを拘束している機械が彼女の体を締め上げる


「ファントム!!」


「やめろ!あいつは関係ないだろう!!」


「…なら、やることは分かってるだろ?」


「・・・」



「…無駄だよ」



ファントムが言った



「例え…私がコレに締め上げられても…苦痛を叫んでも…体が耐えられなくて真っ二つになっても、姉さんは…そっちには行かないよ」


その声は全てに失望したかのような声だった

機械がどんどん彼女の体を締め上げる



心なしか、彼女の瞳が濡れている



それを見たエニグマは何をしたか?



「…お、決断したようだな」


「…ファントムを解放しろ、それからだ」


「いいだろう」


男は別のポケットから機械を取り出して、スイッチを押す、するとファントムを苦しめていた機械がぐわっと開いた



「…姉さん?」




「・・・ごめんな、愛せてやれなくて。…愛せなくても、守ることは、できると思うんだ」


「…え?」



「…さぁ、スイッチを押すなら早くしろ」


彼女の言葉に男はにやけ、スイッチを親指で押す




その指が直前で止まった




「・・・あ・・・が?」


「どうした?何で押さないんだ?まぁ、押せないか


今お前死んだんだからな」



男の腹からは手が伸びている、その手は内臓を握りしめていた



「あ・・・」


「貴様もこんな目に遭いたいか?」


その声を聞いた助手は慌ててその場から逃げていった



「・・・ソル」


「…えーと、コレだな。ういっと」


ソルは男が持っている機械を捻り潰した


「ソル…何で?」


「空の散歩してたら、お前らが見えてな。こいつ見たらなんとなく反吐が出てよ、殺したんだ」


「…そうか」


「こいつは池にでも放り込んどくか、じゃあな姉妹でごゆっくり」


ソルは死体を掴んでそのまま歩いていった



「・・・帰るよ」


「え、あ、うん」




次の日


「・・・・・・・・・」


「ね、姉さん。どうしたんだよ、そんな見つめて」


私はファントムを見つめていた、そして頭に向かって

手を伸ばした、ふるふると震えてはいたが確かに少しずつ向かっていった




ぽふっ




そんな音がして、私の手のひらはファントムの柔らかい髪に触れていた



「・・・!」



その瞬間、私を捕らえていた鎖がぶち壊れた



「…姉さん」



私は妹の頭を撫でた、今まで出来なかった分

思い切り撫でた、撫で続けた


ぎゅうっとその力の限り抱きしめて

頭をわしゃわしゃと撫で続けて

妹の名を耳元で囁き続けた





弱虫とはもうバイバイだ

妹と接するのに、壁は要らない

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