~事件編~
とある日の事だった。
モデルの古岡美優は撮影所にいた。彼女は今年で24歳だが、10歳からモデルデビューしており、今年で芸歴14年目のベテラン。内面はとても温厚で優しい性格を持っているが、裏では冷徹な一面も持っている。
撮影所ではいつも通り撮影を行っている。若い男性カメラマンが美しい古岡の姿を撮っている。
まぁいつものことだ
古岡はモデルデビューを果たした14年間、ドラマでは脇役やエキストラの仕事ばかり、バラエティでは指で数える程度しか出演をしていない。それどころか、ファッションショーも1回出演したきりである。
長年の夢である、モデルとして何もかも1位を取ることは、果てしなく無理だ。
笑顔でその場をしのいでいたが、本音は
早く主役やりたい
そんなことしか考えておらず、いつの間にか撮影は終わっていた。
「お疲れ様でした」
笑顔で皆に言ったが、マネージャーの柴田が近づき、廊下を歩いていると
「いつになったら、主役の仕事来るのかね」
少し怒りをにじませながら言う。マネージャーは少し戸惑いながら
「そんなこと言わないの。こうやって撮影が来るだけでも、ありがたいって思わないと」
「分かってるわよ」
柴田はいつも上から目線。モデルの仕事がどんだけ大変か分かるわけがない。少し反抗的な感じで言ってのけた。
楽屋に戻り一人退屈していると、ノックが聞こえた。
返事をすると、入ってきたのはドラマプロデューサーの中島だった。
「元気?」
中島が笑顔で言う。
それはいつもの事だ。彼はいつも笑顔で明るい性格だが、ドラマや映画になると凄く厳しいそんな面も持っている。
「もちろん元気ですよ」
中島はほとんどの民放局のドラマプロデューサーをしており、言わばプロデューサー界のドンと言われてもおかしくない
そんな人に変な態度は出来ない。そう思い笑顔で言った。
中島は畳に座り
「実はな。君に一つ話があるんだ」
「はい?」
突然のことでつい聞き返してしまった。
中島からその話を切り出されるのは、初めての事だったからだ。
中島は話を続けて
「実はな。来年テレビスマイルでドラマを撮ることになったんだ」
テレビスマイルは民放テレビ局の中で断トツ1位の視聴率を誇り、かれこれ10年連続という記録も持っている。
そんな局のドラマに出れば、誰もが勝ち組になれる。モデルや役者はそう言っている。
「へぇ、そうなんですか」
「それでな。君にその主演をお願いしたいんだ」
「え?」
まさかの言葉に一瞬夢ではないかと疑った。今までは脇役やほぼエキストラに近い出演だったのに、まさかの主演ということに驚いた。
しかし、その反面少し疑わしいことを思った。実は中島のドラマは常にオーディションが確実で、それでブレイクした俳優も多い。それなのになぜオーディションもしないで、自分にオファーをしたのか。そう思い
「気になったんですけど。オーディションとかしないんですか?」
「うん?まぁ、実はここから本題なんだが」
「はい」
急に中島の顔が暗くなり、少し不安が頭によぎった。中島は続けて
「オーディションはする。しかし、君に主演できるように私が細工しとく」
「いわゆる。不正ですか?」
「まぁな。でも絶対に君を勝たせるから」
本当は断ろうかと思った。不正は当然ながらこの14年間の芸歴生活でしたこともない。
しかし、だからと言ってオーディションで勝ったこともない。その時は正義よりかは不正でも勝ちたいという、悪魔の心が働いた。
プロデューサーのことを信じようと思い
「分かりました。お願いします」
中島は笑顔で
「おう。任せとけ。後で連絡する」
そう言い残し部屋を出ていった。
どうせ誰も聞いちゃいない。私と中島だけの秘密だ。
こんなことが表に出たら自分はドラマに出られないどころか、芸能界にいれないかもしれない。そう思ったが、人生初の主演ドラマについ声に出して笑ってしまった。
それから1週間後だった。
古岡の姿はオーディション会場にいた。当然中島のドラマ主役オーディションだ。
他の彼女たちの目は、見たこともない炎が上がっているのはすぐにわかった。しかし、自分は他の彼女をある意味見下していた。
“どうせ自分が勝つんだから”
しばらくすると、中島や脚本家などのスタッフが入ってきた。
中島と目線が合う。実は3日前に今回のオーディション査定内容をすべて教えてもらい、あとは練習し、本番を待つだけ、
しかし、他の女性らはスタッフらを見ているのに対し、とある女性だけは古岡をただ見つめていた。
数時間後、オーディションが終わり、ほぼ全員がすぐに帰っていった。
すべては予定通り、後はプロデューサーが上手くまとめてくれればいい話だ。つい微笑みながら準備を終え、部屋から出る。
すると
「古岡さん」
どこからか自分を呼ぶ声が聞こえ、振り向くとそこには1人の女性が立っていた。先ほど古岡をじっと見つめていた女性だ。
「どなたですか?」
身に覚えもない女性に、少し戸惑いながら聞くと
「私、さっきオーディションに参加していた、石川由香と申します」
「石川さんですか」
やはり聞き覚えのない名前だ。もしかしたらモデル仲間かもしれない。そう思っていると
「はい。実はお話がありまして」
「話?」
すると石川が耳元に近づき、小声で
「オーディションの不正についてです」
一瞬背筋が凍った。どこでその話を知ったのだろう。
たった「不正」という二文字でこんなに逃げたいと思ったことはない。ただ従うしかなく。
「どうすればいいの」
石川が思う壺のような笑顔をして
「私の車に案内するんで、一緒に私の家に来てください」
「あなたの家に?」
「ではここで話しますか?」
さすがにここでは話は出来ない。
ここは従おうと思ったが、まずい。地下駐車場ではマネージャーの柴田がいる。
どうすればいいのか、しばらく考えて
「あの、近くにファミレスありましたよね?」
「あぁ、確かミートワールドならあるけど」
「そこで待っててください。必ず行きます」
「分かったわ」
納得した顔をしてその場を去っていった石川。自分は何とかして隠そうと考えていると、いつの間にか地下駐車場に着いていた。
奥には柴田が乗った車がある。はっきりとスマホを動かしている柴田の姿が目に留まる。
少し深呼吸をして車に近づき、乗り込む。
「あら早かったわね」
いつも通り柴田は笑顔だ。この笑顔は見飽きたと思いたかったが、そんな暇じゃない。
「あのさ。ちょっと今日は歩いて帰る」
「え?」
明らかに動揺した顔をしている。それは想定内のこと。
「オーディション終わってホッとしちゃった。少し一人にさせて」
至って普通な感じで言って見せた。演技に関しては誰にも負けない自信はある。
柴田は普通な感じで
「あっそう。ならどこで下ろそうか?」
本当にこいつは簡単だ。そう思い考えながら
「じゃあ駅でお願い」
「了解」
柴田はすぐに車を走らせる。
駅は2キロぐらい先で、多少遠くはなかったが、考えているせいか凄く遠く感じた。
しかし、この時には石川をどうしようか考えはたどり着いていた。この不正がバレれば、確実に自分はこの世界から追放されてしまう。
考えは一つ。
(殺すしかない)
そう思っているうちに車は駅に着いた。
「着いたわよ」
柴田が少し微笑みながら言う。
「あっありがとう」
そう言い、車から降りる。
すると柴田が車の窓を開けて
「明日。いつも通り写真撮影だから」
「分かってるわよ」
そのまま柴田の車が走り去って行った。それを見届けると、歩いて近くにあるファミリーレストラン「ミートワールド」に向かう。
その道中考えていた
(どうやって殺すか)
でもなかなかいい方法が思いつかない。そう思っていると店に着き、前では石川が立っている。
石川のその微笑みは何か他にも秘めていると思った。
そのまま石川に近づき
「お待たせしました」
「長いわ。待たせすぎよ」
少し不満げに言う石川。しかし、目が微笑んでいた。
少し不気味さを覚えたが、さっさと事を済ませたい。そう思い
「さっさと済ませましょう」
「そうだろうね」
石川のその言い方に腹が立ったが、なんとか抑え、石川の車に乗り込む。
「あんたいくつ?」
「未成年だと思ったの?もう29よ」
そうとは見えなかった。てっきり20歳前半だと思っていた。
だから、車を持っている事すら意外だったが、逆に好都合だった。タクシーでいくよりかは誰にも自分とこの小娘が会っているとは、誰もわからない。
やがて車は走りだす。
「どこで聞いたの?」
石川が微笑みながら
「あなたの楽屋、少し開いてたわよ」
その時にふと思ったのは、一週間前のプロデューサーから不正オーディションを持ち掛けられたときだった。多分その時にプロデューサーが閉め忘れたが、わざと閉めなかったのか、そんなことはどうでもいい。結果的に聞かれていたのだから。
「あっそ。そんなのどうでもいいの。目的は何?」
石川が微笑みながら
「オーディションを辞退して」
「え?」
「だから、オーディションを辞退するの。そうすれば私は確実に勝てる」
「そうとは限らないわ」
石川が少し怖い目で睨みつけながら
「なんで」
「他に何人の人が受けてると思っているのよ」
石川が不気味に笑いだし
石川「私ね。中島プロデューサーと仲いいのよね。あの人、かなりの女好きだから私が色気使ったらすぐに落ちるわ」
何なのこのクズ女。まぁ中島のことはかなりの女好きという噂は前から耳に入っていた。
でもこのオーディションに勝つ理由があるために、この女を早く消さなきゃ、そう思っていた。
やがて車は石川の自宅に着いた。
まだ新人女優とは言えないほどの豪華な一軒家で、大物スターが住むような間取りと外壁だった。
2人が車から降りて、家に入る。先に石川、後に古岡が続いた。
中は本当に29歳かと思うほど、高そうな壺、高級絨毯などが目に入り、一体何者と思うほどだった。
そのまま二人は高そうなソファに対面で腰をかけた。
「私が辞退を断ったら、どうするつもり」
「あなたもわかってるでしょ。マスコミにばらまくわ」
「そんなことしたら、中島プロデューサーも終わりだから、このドラマも終わりよ」
石川が微笑み
「じゃあ、あなたは芸能界にいられなくなってもいいんだね」
確かにそれは嫌だ。芸能界はある意味自分の故郷だと思っている自分もいて、ここにいられなきゃ故郷を失ったと同然、そういうわけにはいかなかった。
「それは…」
「だったら、私の言ってることに従うしかないわね」
思わず立ち上がってしまった。そのまま、少し落ち着くためにうろうろしはじめた。
「私もね、こんなことしたくないのよ。でも不正を見ちゃったからね」
すると近くに壺を見つけた。
これで殺せる、そう思い。しゃべり続ける石川の上に振り上げて、そのまま降ろした。
石川はもう動いていない。死んだも同然だ。
「完璧」
そう呟き、すぐに強盗に装うために、家具などを散らかし、そのまま一階のとある場所の窓ガラスを割る。そこから侵入したことに装うためだ。
そのまま、割ったガラスから抜け出し、そのまま家を後にした。
古岡の完全犯罪は完璧だった…
~事件編終わり~




