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風の彼方に  作者: 工藤 栄一
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ここではないどこかへ

僕の意識がぼんやりと目を覚ました。

ふと気が付くとそこは暑い空気に包まれていた、優しい風と蒸しかえるような熱気、ボロボロのバスに揺られてここまできた。


「カオサンに着いたら知らせてもらえますか?」


そう伝えると笑顔でにっこり笑ってくれる車掌のお姉さん

僕は安心して外の景色を楽しんでいた

初めてみる景色に胸を躍らせながらバスはゆっくり進んでいく。


「ここだよー」


「ここで降りるんだよー」


バスに乗っている人たちが微笑みながら優しく知らせてくれる


「カオサンロード」


世界中の旅行者の交差点。


「ここがカオサンかー」


思わず声が出た

なんの変哲もないビル群の一角、都会の片隅にそこはあった

道路に降りてまずはあたりを見廻した。

噂のカオサンロード、僕はまずはその道を歩くことにした。



カオサンロードを歩いていると色々見えてくる

美味しそうな焼きそばみたいな食べ物が鉄板の上で踊っていたり、見たことがない昆虫が佃煮のような姿になっていたり、みたことのない虫が串に刺さったままで記念撮影に応じている。



カオサンロードの終わりらへんに差し掛かったときに焼きそばみたいな食べ物を食べてる人と目があった

僕は吸い寄せられるようにその人の隣の椅子に座っていた。


旅慣れしているような雰囲気のするお兄いさんは気さくに話をしてくれた


「名前は?」


「どっから来たの?」


「これからどこにいくの?」


など一通り旅の挨拶をした後も彼は気さくにそして楽しそうに話しをしてくれる。

色々と話をした後


「じゃあまたどこかで」


そうお互いが言ってお兄さんと僕は歩き出していた。


僕は泊まる宿を探していた

いや、実は泊まるところはもう決まってた。


「ナット2」


実はタイに来る前に沖縄で出会った旅人の友達からそこに行ったらいいよって教えてもらっていた。

そこは日本人宿で有名なゲストハウスらしい、、、

何人に聞いてようやくそれらしい建物のまえに立った


「ここかな?」


「そーだここだ」


「ついに着いた、ナット2だ」


僕はその建物の前でひとりはしゃいでいた。


「よーしまずは部屋が空いてるか聞いて見よう」


僕は受付の前までいき部屋があるか聞いてみた。


「空いてるよー」


「4階の角部屋ねー」


「ここいいよ、窓が2つあるから明るいよー」


「はい、これが鍵ねー」


優しく丁寧に対応してくれる。


鍵を受け取り階段を登っていると何人かの人とすれ違った、世間話などをしながら少しずつ進んでいく。


結構階段があったがさほど気にならない、なぜなら僕の持ち物は小さな小さなリュックサックひとつだけなのだから。


一階ずつ階段を上がって行く度に気持ちが高まって行くのが自分でもわかる。


「ここかな4階の角部屋はここかな」


部屋番号を確認してゆっくり鍵を回した。

ドアがようこそ旅の部屋にと話しかけてくれるようにゆっくりと開いてくれる。


「やっとついた」


部屋に入ってまずは落ち着いた。


ベットに腰掛け部屋を見回すと縦に長い間取りで思いっきり両手を広げたら触れてしまいそうな感じのする左右の壁。

綺麗なのかもわからないが洗濯したであろうと思われるシーツが目に飛び込んでくる。

なぜか遠い遠い昔の苦い記憶が蘇ってきた。

ベットに寝転び目を閉じるといろいろなことが走馬灯のように流れてくる

記憶の流れに身を任せ思考の中に身を委ねる。


どれくらいの時間が経ったのだろう、気がついたらお腹が減っていた。


「そうださっきの焼きそばを食べに行こう」


そう思い立ち上がり部屋を出た。

半袖シャツに短パンにサンダル

今にも飛べそうなくらい軽い格好で夜の帳を散歩する。


夜のカオサンはとても賑わっていた

昼とは大違いの雰囲気がそこにはあった。

どこから湧いてくるのかと思うくらいの人だかりが通りを埋め尽くす。

クラブミュージックが右から聞こえたかと思うと、左からは大きな笑い声や酔っぱらった人の叫び声などが聞こえてくる、その中を淡々と物をうる少年やお土産の商品をを両手に持ったおばちゃんが旅行者にひっきりなしに声をかける。

僕は行き交う人々の流れに乗りながら辺りを見廻し通りを闊歩する。


適当に歩いてふと気になった路地に入って行ったりするとそこはまた違う雰囲気が出ててそれもまた面白い。


歩いていると気がついたら美味しそうな匂いのする焼きそば屋の前に立っていた。

屋台のおばちゃんが優しく声をかけてくれる


「パッタイ、パッタイ」


おばちゃんが例の焼きそばを指差しながら話しかけている


「パッタイ??」


僕は何もわからずその言葉を繰り返していた


「パッタイ」


「麺はどれがいいの?」


「具材はどれを入れたいの?」


身振り手振りで色々な具材を指差してくれるが僕は何もわからない

頭を捻りながらよくわからないよっという素振りをすると

さすがに旅行者なれしてるだけあり察してくれたのか


「これがいっちゃんいい」


「具材はこれとこれと」


鼻歌を歌いながら手際良く色々と選んで早速そのパッタイというやつを作ってくれた。


「はい、できたよ」


「ここにある海老やピーナッツを好きなようにかけて食べてね」


何がなんだかわからぬまま美味しそうな麺が乗ったお皿が手の中にある


「これはパッタイというのかー」


独り言を呟きながら通りの端っこにちょこんと腰掛けて通りを行き交う人を眺めながらそのパッタイという物を頬張ってみた


「、、、美味い!」


その一言しか出て来なかった

ふと屋台を見るとおばちゃんがにっこりと微笑みながらこっちを見ていた

目があったので美味しいよというと、さらににっこり微笑んでくれた。


通りを行き交う人を見ながらのんびり食事を楽しむ

気づけばいつもそうだったのかもしれない、路上で食べる食事はどこか懐かしさも感じながら優しいおばちゃんの笑顔という最高のスパイスが加わった美味しいパッタイをさらに頬張った。


「おばちゃんありがとう」


「すごく美味しかったです」


「ご馳走様でした」


そういって僕は賑わう屋台を後にした。


満腹になったお腹と一緒に夜の街をさらに闊歩する

全てが見たことない景色、楽しくないはずがない。


好奇心がそそられる


これが好きだ、ワクワクしてたまらない。


思えば子供の頃からそうだった

毎日何かを探していた、、、暗くなるまで永遠となにかを、、、

いつも家に帰るのは暗くなってからだった、友達が先に帰ってもずっと遊んでいた。


僕の家は両親が共働きだったから遅く家に帰っても誰も何も言わなかった。

家には姉と妹と飼っている犬、そして金魚、ハムスターなど家族がいっぱいいるから寂しくはない。

お腹が減れば冷蔵庫から何かを取り出し適当に何かを食べていた。


そんな毎日のおかげで僕は遊びたいだけ遊び回ることができていた。


いつも外で遊び回る反面、僕は小さい頃から動物の面倒を見るのも好きだった。

小学生の頃に家でウサギも買っていたし、縁日でとった金魚も酸素ボンベなしで何匹か長生きさせたり

夏休みに小学校のウサギの飼育係をしていたこともあった。

近所に調整池があり、そこでニワトリやウサギの面倒を見ているおじさんのお手伝いもよくしていた。

そのときに採れたての卵をもらったのをよく覚えてる、家で布団の中に入れてヒヨコが産まれるかも実験していた。


家でも外でもどこで何をやっても毎日が楽しかった。


それが今でも続いている。


だんだんと世界が広がって行く、そんな感覚でずっと遊んでいる。


夜の散歩も終わり部屋に戻ってベットに横になった

今日あった楽しかったことを思い出しながらカオサンの熱気に包まれて僕は深い眠りについた。




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