花束③
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サクラという魔女から聞いた話……。虚数空間で海賊団やっている魔女たちがいるという件、公平に話したらぽかんとしていた。暫く唖然としたかと思ったら「なんで?」とボクに聞いてきた。
そんなのボクが知るもんか。
公平の疑問ももっともだけどね。ボクだって意味が分かっていないもの。
……というか考えてみればみるほど海賊なんかやってる連中に今までいいようにやられてきたのかと思うとげんなりしてくる。なんだよ海賊って。子どもなの?
「昨日の話だけどさ」
公平がトーストを齧りながら言った。
今日は土曜日。本当は公平と遊びに行こうと思っていた。だけど今朝から雨が降っているので、家に籠ることになってしまった。遊びに行く予定だけはあったので、ボクも公平も無駄に早起きしている。ボクは平気だけど……公平は少し眠そうだった。
「海賊団ってことは、やっぱ海賊船とか持ってるのかな」
「んー……。多分、持ってるんじゃないの」
間違いなく海や水の上に浮かんではいないだろうけれど、船らしきモノには乗っているんじゃないかな。少なくともそういう拠点がないと、海賊団として活動するのがやりにくいだろうし。
虚数空間をふわふわ進む船を思い浮かべてみる。魔女たちが乗り込む船ということなら相当に大きいってことになる。やっぱ旗にはドクロのマークが描いてあるのかな。大砲とかもあったりするのかな。
……困った。想像すればするほど緊張感が薄れていくぞ。
「……ねえ公平。ボクコーヒーおかわりするけど、一緒に淹れてきてあげようか」
「えっ。ああ。うん。お願い」
ちょっと……海賊のことを考えるのは一回やめにしよう。考えても意味が分からないし。むしろ却って混乱しそうだし。
公平のコーヒーカップはボクにとってはとても小さい。だから手ではなく魔法で持ち運ぶのだ。ちょっと力加減を間違えたら割っちゃうからね。コーヒーカップなんて人間よりよっぽど脆いんだから。
キッチンでコーヒーを淹れる。といっても大したものじゃない。ただのインスタントコーヒーだ。最近ちょっと気に入っているヤツがあるんだよね。色々こだわらなくても美味しいコーヒーが飲める。いい世界だよホント。
水の入ったやかんを魔法の炎で熱して沸騰させる。きっとこの光景を見たら、『それなら最初から魔法でお湯を出せばいいのに』と言ってくる輩もいることだろう。
「おいエックス。これなら最初から魔法でお湯を出した方が早いぞ」
「出た出た。風情がないよ、まったく。ボクはこうやってお湯を沸騰させるのも楽しみ……」
……公平の声じゃないな。女の子の声だ。声の聞こえてきた高さから察するにボクと同じくらいの背丈の女の子……魔女だ。実際魔女の気配も感じるしね。すぐ後ろ。朝一番で気が抜けていたせいで気付くのが遅れたんだ。それにしてもこの魔女の声どこかで聞いたことが……。
「って、ええっ!?サクラ!?」
「やあ!おはよう!」
「な……なんで……」
「うん!話をしておかないとと思ったんだ!」
「……話?話なら昨日したじゃないか……?」
「いや……キミではなくて」
「彼」と言いながら、サクラはリビングに通じる扉を見つめた。
「ローズから聞いていたよ。公平クンのこと。端的に言うけど。彼、狙われてるぞ」
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「狙われてるんだって。公平が」
「……俺が?何に?」
「海賊に」
「そんなわけないだろ」
「だよねえ」
ボクはサクラをジッと睨んだ。デタラメを言うなと、彼女に目で語りかける。
公平に価値が無いとは言わない。ボクにとっては唯一無二の存在だよ。
だけどそれ故に公平の価値は海賊なんかやっている頭悪そーな魔女が分かるとは思えない。
サクラはボクの言いたいことを分かったようで、「まずは話をきいてほしい!」と元気よく言ってきた。
「話は聞くけどさ」
「おおっ!ありがとう!」
「元気いいなコイツ……」
「元気いっぱいだとも!」
サクラは得意げに胸を張った。
公平がたじろいでいる。サクラはそんな公平を突っついて揶揄っていた。
公平の気持ちは分かる。サクラは今まで見たことないタイプの魔女だ。掴みどころばっかりありそうなのに、微妙に掴みたくない。
「サクラ。話を続けてよ」
「おっとそうだった。件の海賊団は何を目的としているか、だったね。私は最初に勧誘されたときに聞いたのだ!」
「目的?海賊ごっこして暴れたり遊んだりしてるだけでしょ」
サクラは首を横に振る。
「連中はもっとタチが悪い!奴らは他の魔女が大切にしているモノを奪うんだ!それが海賊だから──なーんて言って悪びれもしない!」
海賊団は時々虚数空間から現実に存在する世界に上陸するらしい。その世界で一番強い魔女に接触して、まずはスカウトをかけるのだそうだ。
「とはいえだいたいは断るはずだ。最強の魔女が海賊団なんかの下っ端クルーをやるわけない。だから私も断った!」
「へえサクラって自分の世界で一番強い魔女だったんだ」
「ブイブイ言わせていたとも!最強の魔女の肉体に強力な魔法!向かうところ敵なしだ!」
そう言いながらサクラはシャドーボクシングしてみせた。黒いシックなドレスを身に纏った色白の美女が全く似合わないことをしているので混乱してしまうよ。
「断ったはいいが私には大事なモノなんてなかったんでね。代わりに命を狙われたのさ!」
「えーっ……。大事なモノの一つや二つあるでしょ……」
「ないよ。キミも分かっているだろう?魔女の生涯は長い。終わりも見えないくらいだ。大事なものができても、だいたい私より先に無くなってしまう」
「……そういうこともあるかもしれないけど」
公平を見つめながらボクは答えた。公平は困ったみたいに笑っている。
「そういうワケだ。連中がエックス、キミを狙っているなら……奴らはこの公平クンを奪おうとしてくるはずだよ」
「素直にエックスを狙えばいいのに何で俺が……」
「どういうコトかなそれは!?」
「ハハハ!仲が良くて羨ましい!」
「……俺が狙われてるってつまり殺そうとしてくるってこと?」
「ン──」
サクラは少し考えた。それから「確かなことは言えないが」と前置きした上で公平の問いに答える。
「多分殺されはしない。連中はキミそのものにも興味を抱いているんじゃないか」
「前の時は殺されそうになったけど」
キョウカと戦った時だ。仮に彼女が海賊の仲間だったら、しっかり命を狙われたことになる。
「一度接触していたか。ならなおさらだよ。魔女と戦って、生き残れる人間の魔法使いなんて滅多にいない。その中でもキミは特に気になる存在だろうな。奴らなら手元に置いておきたいと考えても違和感はないね」
「そんな、まるで俺が特別みたいな……」
なんか照れている。
残念だけど違うよ公平。そうじゃないんだ。サクラの言わんとしていることはボクにも分かっちゃったよ。
果たして、サクラの口から出てきた言葉は「いいや」だった。
「えっ」
「そういうことじゃないんだ。むしろ逆。特別じゃないどこにでもいそうなフツーの人間が魔女と戦えてしまえるから気になるし面白いのさ」
「……」
「魔女と戦えるくらい才能のある人間の魔法使いは、そりゃあ滅多にいないけどゼロじゃあない。魔法使いの素養がある人間が10億人いたら10人くらいはいると思う。でもキミは違うんだ!才能のないその他大勢の九億九千九百九十九万九千九百九十人のうちの一人なのに魔女と戦えている!こっちの方がよっぽどすごい!」
「エックス!俺コイツ嫌い!コイツ俺のことバカにしてる!」
「いや……正当な評価だと思う」
「おいコラ!お前まで俺のことその他大勢だと思ってるのか!?」
「うん」
「おい!」
公平が怒っているけど仕方ないじゃないか。本当のことなんだもん。




