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Half Inch World⑧

 チャイムが鳴った。授業が終わったのだ。俺たちはちょうど正面玄関の近くまで戻ってきていた。


「……よし。じゃあ行こう。さっさと敵を見つけて、倒さないと」

「一応聞くけど、ちゃんと守ってくれるんだよね?」

「そりゃあ勿論。巻き込んだ責任は果たすよ」


 マイは今、唯一敵を見つけることが出来る存在である。そんな彼女を一人で放置したらどうなるかは言うまでもない。戦闘能力を持たない彼女は簡単に始末されてしまう。俺が彼女を巻き込んでしまったのだ。

 少なくともなるべく早く敵を倒し、平和な……まあマイクロにとっては決して平和ではないけど、この学校の日常を取り戻してやらないといけない。


「本当にウチの学校にそんな不審者がいるの?」

「いないならいいんだけどね。でもマイには何か違和感があるんだろう?なら、多分いる」

「なんでよりによってウチの学校に……」

「そんなこと言われてもなあ……。あっ、そうだ。多分だけど、生徒ってのが都合がよかったんだよ。仕事とか面倒なことしなくても、教室の机に座っているだけでいいしさ」

「高校生の事をバカにしすぎじゃない!?」


 おや……エックスの言っていたことをパクったのに、怒らせてしまったみたいだ。言われてみれば自分も高校生の時分にそういうことを言われていたらムカついていたかもしれない。


「でも大学生も似たようなもんだよ」

「私は貴方みたいにはならない!」

「いや案外なるもんだって」

「そんなわけ……あっ」

「ん?なに?まさか何か思い出して……!」

「ちがっ。うしろっ」

「後ろ?」


 振り返ってみてマイの言いたいことが分かった。体育の授業から戻ってきた生徒が大勢近づいてきているのだ。ドクンと心臓が高鳴った。ここにいたらマズい。マイクロの視点だとまだ遠いが、しかしあのペースだと、3分もしないうちに正面玄関から入って来る。

 つまり、俺たちがいるまさにこの地点だ。そうこう考えているうちにも重たい足音が少しずつ大きくなりながら近付いてくる。

 反射的にマイの手首を掴んだ。


「いくぞっ!」

「きゃっ!」


 と、走りかけたのもつかの間。


「げえ……」

「ひっ」

「でさー」「あはは」「それ本当!?」


 正面からも来ている。体育着を着た女子たちのグループ。次は彼女たちが体育の授業を受ける番なのだろう。

 プレス機のように重たい足が持ち上がっては床に叩きつけられる。あんなものをまともに受けたらただでは済まない。というかただでは済まなかった結果である赤い何かが見えた気がした。

 よりによって彼女たちは横一列になって歩いてきている。おかげで通り抜ける隙間がない。なんてことしてくれるんだ。せめて縦一列に歩いて来いよ。普通の学校ならいいけどここはマイクロもいるんだからもうちょっと気を遣えよ。

 こんなところであの靴裏についた血痕の仲間になるわけにはいかない。ましてやマイまで巻き込むわけには……。


「ど、どうするの……」

「……マイ。思いっきり歯を食いしばっていてくれるかな。舌噛まないように」

「ええと」

「飛ぶ」

「ええええ!?」


 歯ァ食いしばれってば!舌噛むぞ!

 マイを抱きかかえる。「ちょっ」と困惑する声がしたが、気にしている余裕は今の俺には無い。風の魔法を身に纏って、ふわりと身体を浮かせ、一気に加速して急上昇する。出来ればこういう魔法は使いたくなかった。誰かに見られたら大騒ぎだもんな。けど今は緊急事態。仕方がない。床の上にいるよりはマシだ。天井付近の方が安全である。前後に迫る巨人に気付かれないように気をつけて……。


「ふうっ。ここなら問題ない」

「うわあ……」


 巨大な生徒たちの頭が通り過ぎていくのを見送る。向こうはこちらに気付いていない。騒ぎになることもなさそうだ。


「ほ、本当に魔法使いなんだ」

「だからそう言ってるじゃんか」

「それなら瞬間移動とかすればいいのに」

「いや……だって恐いし。行先の様子分からないんだよ?瞬間移動した次の瞬間踏み潰されたらどうする?」

「……確かに」


 一瞬で納得してくれた。流石マイクロ。向こう側の状況も分からないのに、巨人が闊歩してる環境下で瞬間移動なんてしたら命の危険があるってすぐに理解してくれる。


「……はあ。それにしても」

「うん?どうかした?あっ……まさか怪我でも……」

「そうじゃなくて」

「えっ?じゃあ一体……」

「私は授業をサボって何してるんだろうなって……」

「……ごめんって」


--------------●--------------


「それでマイクロ生徒会の子たちをチェックするんですか?」

「うん。多分、マイと多少の交友関係があったマイクロが、ボクたちが追ってる相手だ。マイクロに紛れ込んでいるんだよね」

「ふうん……」


 バニーと一緒に廊下を歩く。一緒に職員室に行く……というのは建前で。本当は二人で話せる状況を作ったのだ。アリスとか他のクラスメートがいる場所じゃあ込み入った話はできないからね。

 そう考えるとさっき先生に怒られておいてよかったかも。あんまり大人数で出て行くようなシチュエーションじゃないから、アリスたちと離れて二人で行動できる。

 実のところボクたちは職員室に向かっていない。ただ適当に廊下をぐるぐる歩き回っているだけだ。話すこと自体が目的なのだからそれでいいのである。


「まあ名簿がありますから、生徒会の子たちのクラスは分かりますけど。それで見つかるんですか?」

「ああ。それなら大丈夫。ほら」


 ちょうどいいところにマイクロの男子が二人でふざけていた。マイクロ用の通路である白線の内側。本当はボクが入ったらダメな領域だけど、実際のところ特に制限するものはないので、気にせず白線の手前でしゃがみこんで、手を伸ばして、二人を捕まえる。


「ちょ、ちょっと!」

「相手がどんなに隠れてても、こうして対面でじいっと見つめれば分かるよ」

「そうじゃなくて、いきなりマイクロの人たちを捕まえるのは……」

「可哀想?」

「はい……」

「ちょっと手に乗せてあげただけだよ?」


 「ねえ?」と言いながら、手の中の彼らに目を向ける。怯えた視線でこちらを見つめて、しかしボクを刺激してはいけないと思っているのかコクコク無言で頷いている。


「ふふふ。可愛いんだからもう。そんないじらしい姿を見せられるといじめたくなっちゃうなー」


 人差し指をピンと立てて二人に近付けてみる。手のひらの内でか細い悲鳴が上がった。


「つんつん。つんつん」

「エッ……!サトウさん!それくらいにしないと私も怒るよ!」

「ごめんごめん。ちょっと悪ふざけしすぎたよお。……あっ。でもバニー。そこでストップ。それ以上動かない方がいいかもしれない」

「え?」

「下見て。下」


 ボクの言葉を聞いて、バニーは視線を落とした。彼女の内履きのつま先部分が、マイクロ用の通路に侵入している。マイクロの男子に手を出したボクに気を取られて、足元にまで意識がいかなくなっていたのだ。つま先のすぐ先でマイクロの女の子が腰を抜かしている。バニーがあと数センチも前に出ていたらただでは済まなかっただろう。


「……ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃなくて……」

「ほら。危ない」

「サトウさんが変なことしてるからでしょお!」

「うわあ。ごめんってば」


 捕まえたマイクロの男子二人を開放してやる。……そういえばこっちにもマイクロがいるんだよな。バニーのつま先に轢かれそうになった子を見て気が付く。


「……一応見ておこうか」


 手を伸ばす。一瞬遅れて女の子が逃げだす。遅い。簡単に捕まえられた。


「……この子も違うか」

「サトウさん!」


 またバニーに怒られた。ごめんってば。

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