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クロスとリブラ

「いた!リブラ!」


 地下から脱出した公平たちがリブラを見つけたのは、ソラが開けた大穴のすぐ近くであった。

 傷は回復したとはいえ戦闘の疲労は残っているはず。その上リブラは魔法も使えない状態だった。


(それでコイツここまで来たのか……)


 リブラの目はまだ一矢報いようとする執念があった。依然として、公平を捕らえてクロスを取り戻すことを諦めていない。魔法は無くてもまだ魔力はある。身体能力を魔力で高めて、戦うことは出来ないわけではない。

 だが、リブラが一会と取り付けたその約束は嘘であると公平は知っている。そしてそのことを伝えてもリブラが止まることはないことも察していた。一縷の望みに賭けてでも大切な人を取り戻そうとする気持ちは、公平にも理解できる。


(……話して納得するやつじゃない。それに神居一会のヤツもそのうち上がって来る。ハリツケライトはそう長くもたない)


 時間がない。一刻も早くエックスに合流しなければならない。やむなく、公平はリブラのいる方へと真っすぐ歩いて行った。


「もう一度……もう一度勝負だ。今度は……」

「悪い。また後でな」


 ほんの一瞬だけ。一秒だけ。引き伸ばす時間も十倍だけで、公平は聖剣を発動させた。それだけで十分だった。仮にリブラが身体強化の天才であったとしても、疲労困憊の今、異なる時間の流れに入り込んだ公平に追いつくことは出来ない。

 リブラの腹部を思い切り殴りつける。同時に聖剣を解除する。気を失ったリブラを担ぎ上げて、公平はソラたちに振り返った。


「行こう。これですぐにエックスと合流出来るはずだ」


--------------〇--------------


 影に刺さる杭の光がついに消えた。ありったけぶち込みやがってと悪態を吐きながら、神居一会は体の自由を確かめるように、腕の銃口を動かしてみる。これでもう万全だ。さっきは油断したが、逆に言えば敗因はそれしかない。二度とあの杭を影に打たせなければいい。

 地下から続く穴を見上げる。今の図体ではあの穴を通り抜けることはできない。止む無く、一会は戦闘形態を解いて、地上へと続くエレベータに乗り込む。ワープ装置を使えよと四恩に言われたことを思い出して、一会は微かに笑った。エレベータが好きなのだ。ほんの少しの時間をかけて目的地に運ばれる感覚。そのわずかな時間であれこれ考えるのが好きだった。

 上昇する際の軽いGを感じながら、一会は考える。敵の狙いは分かる。浅沼零が浅沼零のままでシミュレータから切断したことから明白だ。彼らはシミュレータの権限を取得するのに失敗した。次の一手として考えられるのは、シミュレータの破壊。


(……ただ)


 だとして一つ解せないのは、なぜあの場でシミュレータを破壊しなかったのかである。その気を見せればシミュレータの破壊が『機巧の連鎖』そのものの滅亡に繋がることを告げて脅してやろうかと思ったのに。

 エックスの力で守られているであろう彼らはシミュレータ破壊の影響は受けないだろうが、無辜の民が大勢死ぬことを認識すれば手も止まるはず。


(最初からあれを壊しちゃダメなモンだと認識していたのか?いや……だとしたら、連中はここで手詰まりになる。シミュレータを奪う以外の攻略は用意していなかった?いや、そんなわけあるか。あっちには四恩のクローンがいるんだ。それくらい想定して動いていないとおかしな話さ)


 だとしたら狙いはなんだ──。そこまで考えたところでエレベータが開いた。

 ふと、外からの音が聞こえないことに気付く。四恩とエックスが戦っていたはずなのに。音もなければ僅かな揺れすらない。

 二人の戦いの舞台は変わってしまったのだということを一会は察した。四恩はこの施設周辺での戦いを望んでいた。


(すぐ近くに仲間がいるとなれば、あんまり大胆な動きは出来ない。一方で四恩は最悪施設を破壊してもいい。異能を駆逐するという使命の方が大事だからな)


 施設周辺は四恩にとっては有利な場である。逆に言えばエックスとしては場所を変えたいはず。「最悪別の場所で戦うことになるのは覚悟するよ」とは四恩も言っていたが、その通りになってしまったらしい。

 携帯端末を起動させて、一般ユーザーとしてシミュレータにログインし、四恩の居所を探る。場所さえ分かればすぐに合流できる。覚え込ませた場所ではないのでワープ装置は使えないが、シミュレータで今の自分を消してしまって、四恩のいる場所に新しい自分を構成すればいい。自我の連続性なぞは知ったことではない。

 暫く、一会はシミュレータであちこちを覗いた。人気のないエックスにとって戦いやすそうな場所には幾つか覚えがある。


「……ちっ」


 だが遂に見つけることは叶わなかった。恐らくは『魔法の連鎖』でやっていたように戦うための世界を構築して、そこで戦闘を行っているのだろう。


「いや……だとしたら」


 魔法を発動させた際に起こる特殊な力場を『機巧』は解析しつつあった。少なくとも魔法の反応を機械的に探索することは可能である。そこにシミュレータを組み合わせれば……。


「……ん。なんだ?トラブルか?」


 『機巧の連鎖』上の世界が殆ど表示されていない。少し派手に戦いすぎたかもしれない。後でメンテナンスをしなければ。

 そんなことを考えていたところ、シミュレータに一つの反応があった。少し時間がかかったが、魔法の反応を特定できたらしい。表示がバグっているだけで機能は問題なさそうである。

 端末を操作し、四恩とエックスの戦闘を覗く。


「……なんだこれは」


 ただそこに映っていたものは、一会が全く想像をしていないものであった。


--------------〇--------------


「エックス!」


 自分の名を呼ぶ声にエックスは気が付く。振り返って足元を見てみれば、公平の姿が目に留まった。傍にはソラと浅沼がいる。そして公平が担ぎ上げているのは……。


「まさかと思ったけど本当に来ていたんだ……」


 エックスは苦笑いした。『魔法の連鎖』に置いてきたはずのリブラだ。

 理屈としてはエックスも理解できた。要するに自分と公平との間に働く力と同じ。愛や絆を手繰り寄せて、宇宙も世界も連鎖も超えて、リブラはここまでやってきたのである。

 本当はここに立ち会わせたくはなかった。気絶してくれているのだけが幸いである。

 そっとしゃがみ込んで手を差し出す。公平たちが手の上に乗ったのを確認して、エックスはゆっくり立ち上がった。

 既に戦いは終わった。魔法の力比べでは明石四恩ではエックスに追いつくことは叶わなかった。意識はない。死んではいないだろうけれど、これ以上動くこともできないはずだ。


「さてっ。始めようか!」


 浅沼が俯いたままで「ああ、お願いするよ」と答えた。彼女の声には力がない。出来ればこの手段は取りたくなかったというのがエックスたちの総意である。それでもやらざるを得なくなった。浅沼はエックスの気持ちをきっと察してくれている。


「いいさ。こうなる覚悟は、していたからね」


 言うとエックスは公平たちを肩に乗せかえて、そして思い切り両手を挙げた。放たれた強大な魔法のエネルギーが『箱庭』全域を震わせる。今の『箱庭』は『機巧の連鎖』の上にある。だからこのエックスの魔法も、『機巧』の空に届く。

 シミュレータの破壊しか選ぶことが出来ない。けれどシミュレータの破壊は『機巧の連鎖』そのものの滅亡を意味する。


「なら、シミュレータの影響を受けないくらい遠くに、移動させればいい!」


 宇宙を超えて。

 世界を超えて。

 連鎖の領域にまで届く巨大な魔法。

 『機巧の連鎖・第一層』を中心として渦を巻くように動くそれは、まるで手のような形をしていた。

 手は『第二層』にある世界たちに触れた瞬間に、その世界を『魔法の連鎖』の領域へと転送させる。それだけ遠く離れてしまえばシミュレータの影響はもう受けることがない。

 ただし取りこぼすものもある。完全シミュレータのある世界だ。これを『魔法の連鎖』に持ち込めば、結局シミュレータによる支配構造が維持されることになってしまう。だからあの世界だけは回収できない。

 つまり、その世界で生きている全てを手にかけることになる。

 怖い。その瞬間を想像してしまうと、どうしても背中のあたりが寒くなるような感覚を覚えてしまう。

 何度も考えた。完全シミュレータのある世界は放置して帰ればいいのではないかと。けれどどうしてもその後のことを考えてしまう。

 明石四恩は報復してくるのではないか。次はもっと大勢の命が奪われるのではないか。そうなった時に後悔するのではないか。

 先のことは分からない。ただそうするとみんなで決めた。後悔はするけれど全員で分け合うことにすると。


「う……」

「!明石四恩!?」


 明石四恩が意識を取り戻す。「しまった」とエックスは心の中で舌打ちした。

 もうすぐに世界の転送は終わるが、もうすぐと言えるだけの時間がかかるのも事実だった。

 転送をしている間は大きな隙を見せることになる。自分だけなら問題ないが、今は公平たちがいる。

 明石四恩はほんの一瞬だけ思考をし、状況を察した。エックスによる『機巧の連鎖』の世界の転移。それをされたら『機巧』の破壊を躊躇う理由がなくなる。痛む身体を無理やり起こして、エックスを止めようと手を伸ばす。

 そして。明石四恩が使っている肉体は、それを見た。偶然目に入っただけといえばそうなのだけれど、そうなるのはきっと必然的なことである。連鎖の距離を超えても届く、目に見えない何かが、二人の間にまだあったのだから。


「り……ぶ……ら……?」


 意識をしていなかった言葉が漏れたことに驚く。身体の動きが止まっていることに気付いたのも一瞬遅れてからだ。エックスに伸ばしかけていた手で頭を抑える。明石四恩は歯を食いしばって、目を覚ました意識に抵抗する。この肉体の本来の持ち主。


「ク、ロス……!コイツ……まだ……!」

「クロス!?」

 

 明石四恩の口走った言葉を、思わずエックスは繰り返した。


「クロス……」


 その声はもう一人の意識を覚醒させる。

 リブラが目を開けた時、視界はぼんやりとしたもので、よく見えなかった。けれどそんな状態でも、目の前にいる者が誰かは分かった。


「クロス!」

「あっ!」


 エックスの肩の上を飛び出す。地上80m以上の高さだが、彼には関係のないことであった。クロスが苦しんでいる。クロスが戦っている。クロスが、クロスとしてそこにいてくれている。それだけで決死のジャンプもなんてことはない。

 ただ周りの人間にはそうもいかない。公平は咄嗟にリブラに魔法を返す。しかし魔法が彼に戻るより先に、クロスが、リブラの事を受け止めた。


「クロス……」

「リ、ブラ……。ううっ!ううううあああああ!」


 明石四恩はそこで自分の見落としに気付いた。

 どうしてこの魔法使いだけは生きているのか。

 どうしてこの魔法使いの魔法は結晶化していないのか。

 どうしてこの魔法使いがここにいるのか。

 クロスはこの魔法使いだけを生かした。魔法を奪うこともしなかった。クロスの意思は残っている。

 そのことに気付けなかったのはクロスが残った力の全てでそれらの情報を秘匿し、認識できないようにしていたせい。

 この魔法使いさえ殺せばクロスの意思は完全に折れる。簡単だ。今この手を握りしめるだけでいい。それだけで。それだけで。それだけで。

 それだけ、なのに。


「く、うううう!ううううううう!お、まえの思い通りには、もう、ならない!」


 クロスの手を動かすことは出来ない。リブラと再会したことが彼女の意思を強くした。ぜいぜいと息切れをしているけれど。酷い痛みが襲うけれど。喧しい声が頭の中で響いているけれど。クロスの身体はもうクロスの自身のものだった。

 クロスは顔を上げた。エックスを見つめて微笑む。


「ねえ。キミにお願いがあるんだけど、いいかな?」


--------------〇--------------


「馬鹿な……。あ、あり得ねえ……」


 『明石四恩』をインストールされたことでクロスの意識・人格は完全に上書きされたはずだった。

 それなのにどうしてクロスの人格が残っているのか。どうして今になって四恩を押しのけて身体の主導権を奪ったのか。外部から見ている一会には理解が追いつかない。


「……ん?」


 目を離しているうちに表示されている映像に変化が起きていた。誰の姿もない。全員どこかへ行ったのか。或いはこれもシミュレータのバグなのか。


「いいや。バグは起きてないんだったな。あの女、世界全部転送だと?滅茶苦茶しやがって……」


 トラブルでも故障でもないのであれば、少なくともエックスたちはどこか別の場所に移動したということになる。彼らが次に向かうところは恐らく一つだ。

 施設が揺れる。「来たか」と一会は呟いた。敵の目的は恐らくシミュレータの破壊。そうなればここに戻ってくるのが道理である。

 出来ればエックスとは戦いたくなかった。勝ち目が見えないからだ。それでもシミュレータの防衛はしなければいけない。


「やってやる……」


 再び一会は戦闘形態へと移行する。巨大な兵器の塊たるその姿が施設の天井を突き抜けて、外へと露出した。

 そこにいた魔女の姿を見て、一会は「なに」と思わず声に出していた。


「四恩」


 名前を呼ぶ。けれどそれはもう明石四恩ではない。明石四恩の支配から抗う、魔女クロスである。


「何故、お前が」

「決まってるでしょ……。シミュレータを壊す……!」

「馬鹿なことを……!四恩!四恩聞こえるか!その魔女どうかしてる!何とか身体の主導権を奪って……」

「それから……!」

「こいつ!……すまねえ四恩!」


 一歩前に足を出すクロスに向けて、一会は全砲門から砲撃する。一会は対異能殲滅生命体。あらゆる異能は一会の弾丸にかき消され、一会の肉体に傷をつけることは出来ない。

 だが魔女の強さの本質は魔法ではない。

 濛々と上がる煙を切り裂いてクロスが現れる。何の魔法も使っていない丸腰の身だ。

 「馬鹿な」と一会は更に砲撃する。当たらないものは無視して。当たるものは腕で払いのけて。足元にあるものを無差別に踏み潰しながらクロスは一会に迫る。

 一会の身体があらゆる異能を無力化するように、魔女の身体はあらゆる兵器による攻撃が通用しない。ヒトの作った兵器に対して魔女が魔法を使う必要はそもそもない。


「それから!」

「く……。止まれ!止まれ止まれ止まれぇ!」

「わ、たしの、リブラを傷つけたお前をぉ!」

「止まれええええ!」


 ずどんと音が響いた。クロスの拳が一会の機械の身体を貫いている。首がかくんと下を向いて、一会はその機能を停止させた。

 「あとは」と息切れしながら言い、クロスは最後の魔法を施設に向けて放つ。光り輝く魔法の弓矢は、施設とその地下にあるシミュレータを、ただの一撃で吹き飛ばした。


--------------〇--------------


「……はあ。はあ……」


 クロスはその場にへたれこんだ。白衣のポケットから出てきたリブラが「終わったのか」と問うてきたので、にこりと微笑んで答える。

 彼らは無事に戻れただろうかと、真っ黒な無へと変わりつつある空を見上げて想う。

 エックスたちにこれ以上の重荷は背負わせない。決着は自分がつける。それがクロスの最後の頼みだった。


「はは……ザマーミロだよ。私の身体を奪った報いってやつかな」


 強がってみるけれど頭痛は収まらない。頭の中で響く声はどんどん大きくなる。

 もう時間がないことをクロスは察した。あと少しで自分はまた明石四恩に乗っ取られる。ランク100の肉体はシミュレータの破壊による滅亡に耐えてしまう。このままでは明石四恩がまた『魔法の連鎖』を襲うのだろう。


「……リブラ、ごめんね」

「謝るのは、俺の方だ。結局俺は、クロスを守ってやれなかった」


 あいつのようにやれなかった。公平のコトを思い出しながらリブラは続けた。

 「そんなことないよ」とクロスは首を横に振る。沢山守ってもらった。そして最期のときも一緒にいてくれる。


「じゃあ。行くよ」

「ああ。始めよう」


 『よせ』とか『やめろ』とかの声が頭の中で響く。

 彼女にも理由があったことを、クロスは理解している。そうするしかなかったことは分かっている。重荷を背負い続けて、選択肢を失い続けたなれの果てが明石四恩なのだ。

 だからこそ、それしか選べなかったこの連鎖は終わらせなくてはいけない。それを選び続けるしなかった明石四恩というシステムを終わらせなくてはいけない。

 ランク100の魔女である自分は生半可なことでは死なない。殺そうと思ったら同じくランク100の魔女の力がいるだろう。つまりはエックスか、或いは自分自身か。

 己の内側で魔法を暴走させる。無限に迫る熱量を体内で燃やす。いずれはその力が、クロスの肉体を突き破り、全部を燃やす。

 そこから先はただの炎だ。シミュレータの破壊による滅亡に巻き込まれて、きっと勝手に消えてくれる。

 誰にも迷惑をかけずに終わる。


『考え直せ!今ならまだ止まれるだろう!だから──』

「遅いよ」

『──!』


 視線を落とす。太ももにいるリブラが自分を見上げている。

 リブラがいる。だからかっこ悪い姿は見せられない。

 リブラが一緒にいてくれる。だから燃えるのも怖くないのだ。

 そっとリブラを拾い上げて、キスをする。全部が解決する奇跡を少し期待してしまったけれど、当然そんなものは起こらない。

 まあいいやとクロスは呟いた。こうして最期にキスが出来ただけで、奇跡的なのだから。


--------------〇--------------


「……見つけた!」


 思わず相沢一はガッツポーズをした。ガッツポーズしてかららしくないなと恥ずかしくなる。

 WWのメンバーは優秀である。魔法が使えずとも仕事の出来る者たちばかりだ。

 世界中に散らばったメンバーは大きく二つに役割分担をした。避難を促す役。事態の引き起こした犯人を捜す役。

 果たして彼らは容疑者を捕らえた。『UTOPIA』の影響を何故か受けていない男。カルマン。かつて吾我レイジが逃がしてしまった武装組織のリーダーである。

 この状況で彼だけが魔法を受けていないのは明らかにおかしいが、仮に彼が『機巧』と通じているのであれば筋が通る。指輪も結晶も『機巧』の技術で作られたもの。指輪になった『UTOPIA』の対処法を用意しておいてもおかしくはない。

 発見者には待機を命じ、公平から渡されたトポロジアの力で空間の裂け目を開けて、現地へと向かう。


「カルマン!」


 名を呼ぶ声に男が振り返った。トポロジアの銃口を向けられて、固まっている。


「キミはこの事態について何か知っているね。まあ知らなくても捕まえるわけだけど」

「く……そ。ええい!機械天使降りてこい!魔女でもいい!こいつを殺せ!」

「無駄だ。あれらは魔法で幻覚を見て宇宙空間に向かっている。こっちには来ない」

「~~!畜生!」


 カルマンが懐から出した拳銃を向ける。相沢はその瞬間に引き金を引いて、拳銃を弾き飛ばした。


「うう……!」

「諦めろ。あれらを止めろ!さもないと──」


 そこまで言ったところで空から弾けるような音が響いた。相沢とカルマンは同時に顔を上げる。あちらこちらで爆発が起こっている。

 同時に。念のためにと持ってきていた魔法の結晶が相沢の中に溶けるように戻る。予知の魔法が再び使えるようになったことを感じて、なにが起こったか理解した。


「そうか。終わったらしいね」

「終わっただと……?」

「お前の後ろ盾は、要するに滅んだってことさ」


 がくりとカルマンのひげ面が力なく項垂れた。

 空では流星のように輝く魔女が機械天使を破壊し、武装魔女の武装を解除している。

 エックスたちが戻ってきたことを、相沢は察した。

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