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機械人形の目的は?

 食後のお茶。エックスはそれをゆっくりと飲み、一息ついた。


「はあ。今日は疲れたなあ……」

「お疲れ。二時間は大変だったなあ」

「気をきかせて公平がご飯を作ってくれたおかげで楽できたよ。お礼につんつんしてあげよう」

「お礼になってない気がするなあ……」


 取り調べは二時間続いた。杉本の通う高校がある地域は魔女に対する警戒心が強い。以前ワールドが起こした事件のせいである。そしてそれが故にエックスに対する取り調べも厳しいものであった。

 小さな警官相手にどれだけ怒鳴られてもへっちゃらなエックスだが、それでも長時間拘束されると疲れるし、ストレスも溜まる。

 公平もそのことを理解している。だから、彼女が空いた指先で自分をこねくり回そうと怒らない。それでエックスの気持ちが晴れるなら、それでいい。

 二時間かかっても彼女が戻ってこないことを心配した公平がアリスに助けを求めなければもっと取り調べに時間がかかっていたかもしれない。もしかしたらご飯を食べて、のんびり一服するくらいの余裕もなかったかもしれない。下手をしたら今日は帰ってこられなかったかもしれない。その点でも公平には感謝しなくてはならない。公平を弄りながらエックスは思うのだった。


「──さて」


 一服を終えたエックスは机の上の公平をそっと摘まみ上げて肩に乗せた。それから魔法で紙とペンを作り出す。


「それで、だ。今日までで分かったことを整理してみようか」

「ああそうだな」


 まずはとエックスは敵についての情報を記していく。


「最初に。敵は機械である」

「うん」

「ある程度ダメージを与えると、周りにあるものを使って修復しようとしてくる」

「うん」

「他には?何かあるかな」

「うーん……」


 腕組をしながら公平は唸る。エックスの肩の上で紙に書かれた内容をじっと見つめる。


「……ぶっちゃけこれが全てじゃない?今のところはさ」

「まあそうなっちゃうよねー。敵が魔法を奪うところもまだ見られてないし……。修復のパターンも別に定まった何かがあるわけじゃあない。なんていうか、共通項を導き出すのが難しいね」

「あえて言うなら……」

「うん?なんだい?なんでもいいから教えてよ。新しいアイデアっていうのはそういう思い付きから生まれるものだ」

「うん……えっと。俺たちの知り合いを狙ってきてるとか……」

「ああ。そっか。それがあったか。うん。そうだね。ボクたちの知り合いが狙われている。多分だけど魔法使いを狙ってるんだろうな。魔法使いは大体知り合いだから……結果的に知り合いが襲われているみたいになるんだろう」

「はあ……なるほどお」


 と、しばらく紙を見つめていた公平だったが、やがて『あれ?』と呟く。


「ん?なにか気づいた」

「いや……魔法使いを狙うのはいいとして、その目的が分かんねえなって……」

「吾我クンは実験って言っていたけど」

「だとしてもさ……」


 機械人形は決して弱くはない。最大の脅威は魔法に対する強力な防御だ。公平や杉本のような普通の魔法使いであれば苦戦する。

 しかし相手がエックスになると話が別だ。彼女は魔法の発動に魔力を使用せず、任意の力を生み出すことができる。その為魔法に対する防御が意味をなさない。その防御を突破するだけの力を要求すればいいだけだからだ。

 もっと言えば魔法を使わう必要もない。肉弾戦だけでも十分処理ができる。はっきり言って全く相手になっていない。このまま機械人形の実験を重ねたところで結局エックスに潰されるだけだ。


「ボクを倒せる人形を目指す実験なんじゃないのかな?こう……トライアンドエラーを繰り返して……」


 そこまで言ったところでエックスが『ごめん』と言う。


「自分で言っていてなんだけど……それはないわ。明石四恩はバカじゃない。あんな人形をいくら……それこそ無限回ボクと戦って、機能改善とバージョンアップを繰り返したって勝てるわけがない。そんなことは彼女もとっくに気づいてるはずだ」

「だよなあ……圧倒的にエックス勝つもんな……」


 そしてエックスが勝つということは明石四恩に近づくということでもある。

 明石四恩を追う手掛かりは機械人形の残骸だけだ。倒した瞬間に大爆発を起こしてしまう機械人形の残骸は未だ回収できていないが、次の対決では適度に破壊して残骸を必ず手に入れると決めていた。

 機械人形を送り出すだけ明石四恩は不利になる。それでも送り込んでくるのは、合理的ではない。


「じゃあ一体なんで」

「それは今の時点じゃあ分からないかなあ」


 紙に書かれた『機械人形』の文字。エックスはそこに丸を付けて、丸から一本の矢印を伸ばす。矢印の先には『機械人形の目的は?』と書かれていて、さらにその文字から出ている矢印の先には『?』マークがあった。


「一つ言えるのは、まっとうに兵器にランクを上げてボクと戦うつもりは、多分ないってことかなあ

「そうだなあ……」

「……まあ。そのうち分かるさ。明石四恩をとっちめて……直接聞けばいいんだもの」


 エックスのシンプルな発想に公平は思わず小さく噴き出した。


「うん。確かにその通りだ。それが一番話が早い」

「でしょ?」


 笑いながら言うとエックスは公平を摘まみ上げて机の上に戻してあげる。今時点での情報確認はこれで終わりということらしい。


「あっ。そうだ。公平さ。ミサちゃんにも話した?」

「あっ。やべっ忘れてた。……いやでも大丈夫だろ」

「なんでさ」

「だってミサって最近魔女になったんだぞ?明石四恩がミサのことを知ってるとは……」


 そう言うとエックスは呆れたようにため息を吐いた。


「な、なんだよ」

「忘れたの公平?もしかしたらWWに内通者がいるかもしれないって話じゃないか。そうなるとミサちゃんのことだって明石四恩が掴んでてもなにもおかしくないよ?」

「で、電話する!」


 急にミサのことが心配になって、公平は慌てて携帯電話を取り出した。


--------------〇--------------


「えっ?それでチビ先うちに来るの?ヒマだねー」

『ヒマで悪かったな。……とにかくそういうことだから、これから話に行くからな』

「はいはーい。待ってるよー」


 公平との電話を終えたミサは自室を改めて見てみる。少しばかり、散らかっているような気もしないでもない。ゴミやらはないが小物が散乱している。子供が遊びに来た時の遊び道具の代わりになるので、あえて置いてあるのだが、公平が見たらきっとあーだこーだと文句を言うはずだ。偉そうにしている顔が目に浮かぶ。


「ちぇ。アイツの部屋だって大概散らかってそうだけどなあ」


 と、遊びに来た子供がよく登っている本を一冊手にしたところで、玄関の向こう側で魔法の気配がしたのを感じ取る。


「えっ?もう来たの?あっ、そっか。魔法使ったら一瞬か。でもそれにしたって早すぎだって……」


 そっと扉を開ける。ミサの家は扉と外の地面との間に数mの段差がある。その為にミサが戸を開けても訪問者を押し飛ばすことはない。代わりに彼女が招き入れてあげないと入ってこられないが。


「よお」

「よ、よお」


 相手が公平であれば話は別だ。魔力を発動させて肉体を強化し、軽くジャンプをして家の中に入る。


「きゅ、急に来すぎでしょ。まだ掃除とかも全然……」

「ははは。まあ散らかってるけど汚れてはいないし、いいだろ別に」

「デリカシーのないやつだなあ……」


 とはいえ怒られなくてよかったと安堵する。公平をそっと摘まみ上げて、玄関の戸を閉める。それからリビングに入って、机の上に彼を下した。


「それで?話だけだと、なんかよく分かんなかったけど。要するにアタシはどうすればいいの?」

「いや。気を付けてくれればそれでいいんだよ。人間の姿をした魔法を奪う機械の人形が俺たちの周りをうろついてる。決して弱い相手じゃあない。出くわしたら俺かエックスを呼んでほしいんだ」

「ふーん……。分かったけど。どうやって見分けるのよ。特徴とかあるの?」

「特徴?あるよ」


 言うと公平は手のひらを広げてミサに見せる。その手には、赤い球体がくっついていた。


「え?」

「俺たちは、こいつを使って魔法を奪う」


 球体が赤い光を放つ。目がくらんだミサは反射的に目を閉じてしまった。そして、次に目を開けた時には。


「そ、そんな……」

「ふふふふ……!」


 ようやくミサは気付く。目の前にいるのは公平ではない。


「アンタ……なに?」

「さあて。なんだろうなあ」


 それは、見知った顔でにやりと笑った。

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