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吾我の行方。

「気配は、ない。吾我クンの居場所が、特定できない」


 エックスが目を開けて、テーブルの上に座る公平に言う。WWにて宮本から吾我の行方が分からないということを聞いた二人はすぐに帰宅していた。

 エックスの魔法の源──キャンバスは無限の広さを持っている。それは彼女の内からもあふれ出していて、地球を、宇宙を、世界を、『魔法の連鎖』全域をキャンバスの中に収めていた。それ故にエックスの魔法は『魔法の連鎖』の全てに届く。それ故にエックスの魔法探知能力は『魔法の連鎖』の全てを瞬時に把握できるほどに強力だった。少なくともごく一部の超一流さえ凌駕する魔法使いを除けば彼女の探知からは逃れられない。そして吾我は一流の魔法使いではあるが、エックスから逃れられるほどの者ではなかった。


「じゃあ吾我は……」

「……考えられる可能性は三つ。一つは、吾我クンが死んでいるということ」

「……!」

「二つ目は吾我クンが『魔法の連鎖』の外側にいるということ。……まあこの線は薄いかな」


 公平は首肯する。エックスのキャンバスの広さは無限。文字通り際限はない。その気になれば『魔法の連鎖』の外側に対しても探知をすることが可能なはずだ。


「それで、三つ目は?」

「何かの理由で吾我クンの魔法がなくなった、ということだ」


 キャンバスと魔力を失い、何の力も持たない人間になったのであればエックスの探知には引っかからない。


「三つ目だと思いたい。アイツが死んだってのは、考えたくない」


 言いながら吾我に対してそんな言葉が言えるということに公平は内心驚いていた。元々エックスの敵だった吾我のことはあまり好きではないつもりだった。ただ、彼との付き合いも随分と長いものになっている。積み重ねた時間は、少なくとも彼の死を否定したくなる程度には関係性を重くしていた。

 エックスもそのことを理解している。柔らかな笑みを浮かべて頷く。


「取り敢えずだけど、一つ分かっていることがあると思うんだ」

「……なんだろう」

「N市で戦ったボクモドキの機械人形。アレはこの件に間違いなく関わっている」


 吾我の声を最後に聞いたのは公平だ。N市のホテルで電話をかけた時である。その後吾我は姿を消したものと思われる。丁度その同日に謎の機械人形による襲撃があった。同じタイミングで起きた二つの事件。これらを軽々しく偶然と片付けることはできない。


「というか……。そうやってこじつけでも考えていかないと手がかりになるものはなにもない。ちょっと強引な結び付けかもしれないけど、調べてみる価値はあると思うんだ」

「そうだな……。よし。それなら一度N市に行って調べてみようか」

「うん。……ああ。そう考えると記憶を曖昧にしたのはマズかったかもなあ。聞きこみが全然できないことに」


 机の上の公平に顔を近付けて話をする。傍から見れば小さな人形とおしゃべりをしているように見えるかもしれない光景の中で、次の一手を打ち合わせていると、『ピンポーン』と呼び鈴が鳴った。


「ん?誰だ?宅配?」

「えー。なんだろ。何か頼んだかな」


 スッとエックスは立ち上がる。


「だ、大丈夫かよ。このまま行って。運送の人扉を開けたら巨人が出てきてビックリするんじゃ……」

「あー大丈夫。もう慣れたから。この辺の担当の人」

「……そうかい」


 一回目は公平の言うとおり仰天していた。お取り寄せで購入したいくらの醤油漬けを放り出して慌てて逃げ出した姿を思い出す。それがなんだか悔しくて、二回三回といくらを買い続けていたら、いつしか相手も逃げなくなり、普通にサインをして荷物を受け取るというやり取りが成立するようになったのである。

 足音を鳴らしながら玄関へ走るエックスの後ろ姿を公平は見送り、N市でも手がかりが掴めなかったらどうするかと考える。無理やりにでもエックスにN市民の記憶を呼び起こしてもらい、聞き込みをするしかないだろうか、と。


「えーっ!?」

「な、なんだ!?」


 玄関で叫び声が聞こえた。それが知らない誰かの声ならいい。エックスを見て驚いたのだろうから、むしろ当然の反応である。しかし今回は違う。叫び声をあげたのはエックスだ。これは明らかに何かがおかしい。異常事態が起きたのだと察した公平は、魔法で空を飛び、急いで玄関に向かう。


「おい、大丈夫か!?一体何が」

「あ……。公平。それが……」


 複雑な表情でエックスは振り返り、公平の前まで歩いていき、少ししゃがんで手を広げた。


「……あン?」

「よお……」

「吾我クンだったよ」

「えーっ!?」


 それならここまでのやり取りは一体何だったんだ。公平は問いただしたくなった。


--------------〇--------------


 公平は熱い茶の入った湯呑を吾我に手渡す。見れば彼の全身は傷だらけ。服もところどころ破れている。壮絶な戦いの後を想起させる姿だ。

 見た目以外に一つ。見た目以上に大きな変化が吾我にはあった。彼は今、魔力もキャンバスも有していない。力の気配を全く感じない。彼の身に何があったのか、エックスも公平も気になってしまっていた。茶を飲み一息吐く吾我に尋ねる。


「それで。何があったの?」

「……明石さんに会った」

「やっぱりか……」


 予想はしていた。自分に似た姿の人形は機械仕掛け。『魔法』のような特殊な力ではなく、極まった科学技術の末に創られたものだとは何となく分かっていた。そして、それが出来る相手となるとエックスには一つしか心当たりがない。『機功の連鎖』。そしてその連鎖の頂点である明石四恩だ。


「一人で仕事をしていたところに明石さんが来てな。戦闘になった。初めにあの人と一緒に来た男──カルマンと」

「カルマン?どっかで聞いたような……」

「ボクがやっつけた組織のリーダー?」


 吾我は頷く。


「と、言っても。本人じゃあなかった。同じ顔をした、機械人形。お前たちがN市で戦ったって言うエックスモドキの人形と同じだよ」

「じゃあお前は、そのカルマン人形に負けたのか?」

「まさか」


 吾我は公平の目を睨む。自分があの程度の相手にやられるものかと、言っているように見えた。


「じゃ、じゃあなんだよその傷は」

「カルマンの人形を片付けたあと、俺は明石さんに仕掛けていった。……が。あの人が持っていた装置に、魔力もキャンバスも奪われたんだ」

「『魔法』を奪う装置、だって?」

「ああ」


 奪われた斧や弓矢の魔法に吾我は襲われた。見た目の傷はその時に出来たものらしい。


「やむなく俺は逃げ出して。身を隠して。命からがらここまで来たってわけだ」

「なんでWWに匿ってもらわないんだよ」


 公平が尋ねる。エックスも彼と同じ疑問を抱いていたらしい。うんうんと何度も頷いている。吾我は空になった湯呑を机の上に置いた。


「……これはただの予想だ。根拠はない。万が一そうだったらイヤだっていう……勘みたいなものだと思ってくれていい」

「うん」

「WWには、内通者がいる」

「えっ!?」

「……かもしれない」

「なんだよそれ……」

「けどない話じゃあない。明石四恩は魔法研究の第一人者。彼女しか知らない、魔女を生み出すテクノロジーもある。あの人の技術力を手に入れれば、WWという組織も、人間世界もどうとでも自由に出来る」

「だからって、同じ職場の人を疑うの?それは流石にどうかと思うよ?」


 エックスが言うと、吾我は少し俯いて『そうだな』と呟いた。


「俺だってWWは信じたいさ。けど多数の人が構成している組織である以上は考え方も色々と違ってくる。全員の思想を理解できているわけでもない。──それなら。余計なことを考えずに、ただこの世界のために戦ってくれるヤツの方が全面的に信じられると思ったのさ」

「吾我、お前……」

「悪いか?」


 吾我は照れくさそうに言った。エックスはそんな彼の姿を見てニッと笑みを浮かべる。


「──まさか。そこまでボクや公平を信じてくれてるんだ。悪いわけがないよ。それで、どうする?これから」

「魔法を取り返す。明石さんは俺を見つけ出すために、またあの機械人形をけしかけてくるはずだ」

「逆に言えばそいつらをとっちめて行けば……」

「明石四恩に繋がる手がかりになるわけだっ!」


 吾我は頷く。これで少しだが前進した。明石四恩に迫る第一歩を踏み出せた。


「なら、やろう!必ずアイツを追い詰める!」

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