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だよな/だよね

 これがきっと最後になる。二人ともそれを理解して激突する。神速を誇るタンザナイトに対し、公平は超高効率となった魔法のエンジンを全開で回して応戦する。そして。その結果として。


「ぐっ──!」


 公平の手にあった『灼炎剣』は一瞬にして砕け散った。同時にタンザナイトは確信をする。勝った、と。


(コイツはもう限界だ。剣もガタがきてる。私の攻撃を千も受け切れていない)


 この剣は万を超える斬撃でようやく破壊出来た鎧が変化したものだ。一つ前の激突の際には、剣の強度は鎧に匹敵するだけのものがあった。

 だが今はどうだろう。たったの千回弱で砕け散っている。理由は明白。剣に力を回しきれていないせいだ。ここまでの対決の中で体力を消耗し、もはや剣の耐久を維持するだけの力を、公平は喪失している。見れば腕や両脚を包む炎も勢いがない。そして何よりも──。


(さっきまでよりも遥かに遅い!)

「く……そっ……!」


 それでも公平は避けている。しかしぎりぎりで致命傷を避けているだけだ。急所となる首筋。一撃で死に至る頭蓋。かつて風穴を開けられた左胸。それらへの攻撃へだけ意識を集中し、腕や脚で攻撃を受け止めることでどうにか生きているだけだ。捨て身の防御の末に左肩は裂けかけている。左腕に続いて右腕も切断寸前。


(ならばあと一手!)


 タンザナイトが剣を大きく引き、打突の構えをとる。その大仰な動作に隙を見出した公平は残る力を振り絞り、薄皮一枚で繋がっている腕を全身で振り回して、炎の手刀で斬らんとする。


「おおおおっ!」


 だがそれはタンザナイトの罠。左腕はなく。脚はほぼ動かせないとあれば、残った死に体の右腕に全てをかけるしかない。だが縦の運動は今の公平には困難だ。大きな上下運動はどうしても跳躍か屈伸の必要がある。脚が使えない状態で出来る動きではない。即ち腰を使った横一閃以外の選択肢はない。そこまで分かっていれば。速度はこちらの方が上なのだから。


「そう。屈んでしまえばいい」

「──!」

「ふっ!」


 屈んだ状態で放つ打突。貫くは公平の左脚。透明な刃が骨を断ち、肉を裂く。


「が……あ……!」


 これで公平の動きは完全に封じられた。剣を引き抜いて、刃と視線を斜め上に向ける。このまま真っ直ぐに腕を伸ばせば、公平の頭に刃が突き刺さる。


「これで──!」


 とどめを刺さんと腕を伸ばす。刃が公平の額に迫っていく。ただ真っ直ぐに突き刺せばそれで勝ちの状況。


「お、わ……」


 だのに。タンザナイトの刃を公平の頭のすぐ真横を突いた。


「……え?」


 そこで初めて、自分が倒れていることに気付く。くらくらして、立ちあがることができない。突然の不調は当然のこととして、彼女の『レベル5』を解除させる。それを目ざとく見ていた公平は、発動させていた魔法を解除し、回復魔法で傷を回復させる。が、血を失い過ぎたせいか疲労の為か、左腕は戻らない。これだけはエックスに頼まなければならない。


「なにが……」


 なにがなんだか分からないと言ったタンザナイトに公平は語りかける。


「俺だけに集中し過ぎだ」

「な、に……?」


 その言葉の意味がタンザナイトには一瞬分からなかった。しかし、すぐに理解をする。


「……ねつ」


 砕いた『灼炎剣』は生きていた。空気中を漂って、公平とタンザナイトの周囲の温度を爆発的に上げ続けていた。その熱が原因となってタンザナイトは不調を起こした。早い話が熱中症に罹ったのである。力が弱かったのもそれが原因である。部屋の温度を上げるために、公平は自分自身に回す力を多少落とさざるを得なかった。

 本来ならば公平も倒れていないと辻褄が合わない。『灼炎剣』の欠片はただ熱を上げていただけ。その中にいた公平も熱中症で倒れているはずだった。しかし彼はぴんぴんしている。タンザナイトはその理由を理解していた。


「お前……!私の力、を……!」

「ああ」


 公平はコクリと頷いた。


--------------〇--------------


「お前の『聖技』は、時間操作。俺にとっての一秒が、お前には十秒にも百秒にも、千にも万にも変わる」


 それ故にタンザナイトは速い。次元が違うと錯覚するほどに速い。必然的に、怪我の治り方も公平とはスピードが違ってくる。同じタイミングで怪我をしても、ただ速いだけの公平よりも、一秒を何万秒にも引き延ばしているタンザナイトの方が、第三者の観測者の視点では早く治癒が為される。同時に、超高温の中にいて熱中症になる時間も彼女の方が上だ。


「お前はちゃんと呼吸をして。重力や光の影響を受けている。多分、生きる事に必要な外的要因は、お前と同じ時間が流れてる。……空気がお前の『聖技』の影響を受けないなら、気温もそうだろうって思ったけど、予想通りだったよ」

「……まだ、よ……!」


 タンザナイトは聖剣を杖の代わりにして、ふらつく足取りで立ち上がる。


「……よせよ。俺の傷は、もう治った。今のまま俺と戦っても、お前に勝ち目は」

「ある。だってまだ、私は負けていない……!」


 今にも倒れそうな身体で剣を構える。最早『聖技』の発動さえできない。それでも戦う理由を公平は知っていた。


「だよな。負けられないよな」


 言いながら公平は、『裁きの剣』を発動させて、構える。


「こいよ」


 公平の言葉に、タンザナイトはにいっと笑って。


「やあああああッ!」


 剣を振り上げてきて、そして。


「あ──」


 公平の剣を受けて、その場に倒れた。


--------------〇--------------


 気絶しているのかタンザナイトはピクリとも動かない。公平は彼女を暫くの間ジッと見下ろしていたが、やがて安堵の息を吐いた。


「……おいおい。この部屋調べるの大変だぞ」


 戦いに集中し過ぎていて気が付かなかったのだろう。とはいえ彼の言葉は当然のことだった。この塔は本来聖女の使うためのもの。人間のサイズでは前にも後ろにも、右にも左にも、腕にだって果てしなく大きすぎてどこから調べたらいいのか分からなくなる。


「エックスのところに行きたいのに……。まあゆっくり探すか……。取り敢えずどこから見るかな」


 公平は呑気に言った。今まで勝てなかった宿敵に勝てたことですっかり安心しきっている。


(……ここだ)


 タンザナイトは既に立ち上がっていた。これが見苦しい行為だと自分が一番分かっている。力を看破され、逆に利用され、最後には手加減までされて敗れた。完璧な負けだ。


(でもそれは。諦める理由にはならないから)


 死んだふりをして。油断している背中を刺し貫くという卑怯をしてでも勝たなければいけない。


(私はルファーの騎士だ。弱いナイトは必要ないんだ)


 残念だが『聖技』は使えない。まだ最後のダメージと熱中症による不調が残っている。この状態で『聖技』を使えばそれだけでまた倒れてしまう。


(いいよ。十分だ)


 音を立てないように。ゆっくりと近付いていく。


(『聖技』は使えなくてもいい。使えない方が都合がいい)


 力を全力で抑えて、公平に気配を悟られないようにしながら、更に距離を縮める。


(そうだ。簡単なことだ。もうあと一歩近付いたところで──)


 首を断つイメージをして。足を前に出そうとして。


「だよな」


 公平の声が聞こえた。思わず出るはずの『えっ?』の言葉よりも先に、彼が振り返ってタンザナイトの丹田の位置に向けて手を前に出す。


「『メダヒード』」


 そして火球が。タンザナイトの腹部に直撃し、彼女の身体を数十m向こうにまで吹っ飛ばした。そこで本当に、終わりだった。

 公平には分かっていた。勝ったと思った時こそ、危険なのだと。何故ならタンザナイトの感情を定義しているのは彼の記憶なのだから。エックスのためにならどんな手段を使ってでも勝とうとしていた、自分が彼女の中にいるのだから。


「悪いな。色んな人が言ってたからさ。分かるんだよ。多分、お前はそうするって」


 意識を失ったタンザナイトに告げるようにして、公平は呟いた。


--------------〇--------------


「……決着はついた」

「……」

 

 最後の不意打ちさえ不発に終わった。これ以上の戦闘続行は不可能だ。誰の目にも明らかなその結末だったが、ルファーは答えない。構わずにエックスは立ち上がる。そうしてルファーに背を向けて、手を挙げて、公平の元に繋がる空間の裂け目を開こうとする。タンザナイトの中から記憶を回収し、公平に返すためだ。


「約束だ。もう二度と『魔法の連鎖』にちょっかいを──」


 そこで。エックスは振り返りながら『未知なる一矢』を発動させる。がきんと音がした。弓は神々しく輝く刃を受け止めている。顔を上げれば、憎悪と怒りで満ちた表情がそこに在る。


「……だよね」


 分かっていたことだ。公平がタンザナイトと必然的に似ているのと同じである。エックスとルファーは運命的に似ているのだ。だからその思考も予想が出来た。もしも公平が勝てば、ルファーは約束を反故にして襲い掛かってくる。何故なら、自分が同じ立場ならばきっとそうするからだ。


「いいさ。分かっていたとも。最初からそのつもりだ」


 約束など関係ない。初めからこうなる運命だった。運命的に似ていて、絶対的に分かり合うことのできない二人なのだから。

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