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派手に行こう!

「よっし。充電終わったよ、ロロン」


 ソラがそう言うので、ロロンは吾我に宛がわれたホテルの置時計を確認する。時刻は12時半。予定通りにコトは進んでいた。連鎖を超える『機巧』の技術は相当量のエネルギーを必要とする。こうして拠点を得られたのは彼らにとって好都合だった。こそこそと隠れて盗電をしなくてはいけないところだった。


「これでようやく、あの女に手が届く」

「うん……ようやく……」


 ソラには奪われたものがある。連鎖を渡り歩く怪物が相手であっても、諦めることなく追いかけて、手を伸ばし続ける程に大切なものを、彼女は奪われていた。そしてそれ故にヒビノたちはソラを助けた。ソラが奪われたものは、彼らにとっても大切なものだったからだ。

 だが、目の前に迫ったゴールに対して、ソラが抱いた想いは万感ではなかった。


「ごめんね。迷惑かけてさ。これは私の問題だったのに。ヒビノにも辛いことをさせて……」


 それは自責。多くの人を巻き込んだことに対する申し訳なさである。俯くソラの手に、ロロンは自らの手を重ねて頭を振る。


「気にしないで。私たちは自分でこうすることを選んだんだから」


 敵が『聖技の連鎖』に潜んでいることを知った時点で、彼らは手段を選ぶことを捨てた。真正面からぶつかれば、連鎖ごと間違いなく磨り潰される相手である。手段を選ぶ余地は彼らにはなく、故にどんな手を使ってでも取り戻すと決めていた。


「今日で終わりにしよう。全部。それで帰ろう。みんなで」

「……うん」


--------------〇--------------


「あっちいなあ……」


 昼過ぎから日差しが強くなっていた。真夏日並みの気温。太陽に焼かれて汗がだらだらと流れる。


「待ち合わせ場所ってここだよな……」


 住所の書かれたメモ書きと目の前の建物とを見比べる。そこは大型のホテルだった。55階建ての超高層ビルである。目測だが普段のエックスよりも大きいかもしれない。


「こんないいホテルである必要性あるのかな……」


グレードを下げてヒビノたちに小遣いでもやった方がよかったのではないかと思う。少なくともそうすればヒビノに集られることは無かった。


「まあいいけど……。エックスはまだかな……」

「うりゃっ!」

「うわっ!?」


 突然に後ろから抱きつかれる。ぎょっとして振り返るとそこにはいつのまにやらエックスが立っていた。


「びっくりしたあ……」

「ごめんごめん。ガンズ・マリアの身柄を預かるのに時間がかかってさ。待たせちゃった?」

「待っては……いない。今来たとこだし……、アイツどうかしたの?」

「交渉材料になるくらいならここで死ぬ―って大騒ぎしたから」

「うん」

「気絶させて連れてきた」

「強引……」

「とにかく待たせてないみたいでよかったっ!じゃあ行こうか?」

「あ、うん……。暑くないの?」


 エックスの格好は愛用しているお気に入りの服装だ。ワインレッドの上着にデニムのズボン。長袖長ズボンはこの真夏日には暑苦しい。一方でエックスの表情は涼しいものだった。汗の一筋さえ流れていない。 


「ふふん。魔女が太陽如きに負けると思うかい?」


 エックスは得意げに言った。それもそうかと公平は納得する。高々40度にも満たない気温と、それの素となる太陽光線など魔女を参らせるには力不足だ。


「とはいえキミは魔法が使えるだけのただの人間だ。暑いだろうから早く中に入ろうね」

「そうだな……。俺もう暑くて暑くて……」


 自動ドアを超えてホテルの中に入る涼しい風が公平の火照った身体をクールダウンさせてくれる。

 ロビーで迎えが来るのを待つ間、公平は気になっていた質問をエックスにぶつけてみた。


「……ところで女子会メンバーはどうした?」

「ああ……うん……。まあ、ね。来てはいるよ。来ては」

「どういうこと?」

「大した話じゃないんだけどさ……」


 女子会の結果起こったことをエックスは話す。まずよかったこととして、ワールドとウィッチの二人が思いのほか意気投合したことだ。両者共に抱えている人間に対する殺意が切っ掛けになったのである。


「ろくでもねえな……。Wから始まる名前の魔女……」

「ワールドが魔女には優しいのも良かったんだろうけどさ。うん……ここまではいいんだけど」


 その後が問題だった。いざ人間世界に行こうとした時である。流石に魔女四人で外に出るわけにはいかないので、一度人間サイズに縮めることを話したのだが、ワールドとウィッチが強く抗議をした。


「二対一になったからか気が大きくなったみたいなんだ……。『どうして自分たちが人間に配慮しなきゃいけないんだー!』とかなんとか言って……。ユートピアはどっちの味方するでもなくにやにやして見てるだけだったし……」

「……それで?」

「もう面倒になったから全員縮めてポケットの中に入れてきた」

「強引……」


 そういうわけで今、エックスの上着の右ポケットにはガンズ・マリアがいて、左のポケットには魔女が三人いる。


「ユートピア滅茶苦茶とばっちりじゃないか」

「た、助けてくれなかったアイツが悪い」

「それにしたって……」

「そ、それより!ボクも気になってたことがあるんだけど!」


 無理やり誤魔化すみたいにエックスが公平の持ってきた箱を指差した。


「それ何?」

「ん?ケーキ。帰ったら食べようと思ってさ。エックスの分もある」


 人目を避けて空間の裂け目を開き、腕を突っ込んでエックスの部屋の台所へと置いておく。冷気の魔法のおかげで常に冷蔵庫に入っているのと同じ状態を維持できる。

 無事にケーキを片付けた公平はからかうような笑みを浮かべてエックスに向き直った。


「それで話を戻すけど……」

「も、戻すの……?」

「誤魔化そうとしても無駄だ」

「ううう……。そりゃあボクも今回は強引だったと思うけど……」


 と、そこまで呟いたところで。エックスは『あっ』と言いながら顔を上げた。公平はエックスの見つめる先に振り返る。エレベーターが開いて、中からリードが降りてきた。


「おっ。来たのか」

「よ、よしっ!よし行こう公平!」

「誤魔化せてラッキーとか思ってんな……」


--------------〇--------------


 エレベーターの中。エックスと公平に背を向けていたリードが口を開いた。


「本当に、ごめんね」

「え?ああ。さっきのこと?いいよ別に。ヒビノってああいうヤツだろ」


 エックスが不思議そうに目をぱちぱちさせて公平に尋ねる。


「さっきのことって……?」

「ああ。さっきこいつらに会って……」


 ヒビノの買い物のお金を払わされた挙句に昼食に誘ったのを断って一人置いてけぼりにさせられたことを話す。


「うわっ。ひどっ」

「別にいいんだけどさ。暇だったし」

「さっきのことだけじゃないんだよ。僕たちはキミたちに、色々と申し訳ないことをしているんだ」

「え?」

「……本当は言うべきじゃないんだろうな。僕はズルい奴だよ。でも、多分ここでちゃんと言っておかないないとみんなが後悔する」


 リードはそう前置きをして話を始めた。ヒビノが公平がタンザナイトと戦うことを了承した理由。公平のことをタンザナイトの体力を削るために利用しようとしていたということ。


「はっきり言うと。捨て駒扱いだ。最終的に僕たちは目的を達成できればいい。そう思ってやってきた。……けど。こういうやり方は続けているときっと大事なものを損なう。だから……」

「なんだ。そんなことか」

「ねー。もっと酷いこと企んでるかと思ってた」

「え?」


 リードは思わず振り返る。けらけら笑っている二人を見つめる。


「実は『聖技』と組んで嵌めようとしてるんじゃないかって思ってた」

「捨て駒くらいなら一応味方ってことだし別に……。勝てばいいだけだし」


 暫く言葉を失っていたリードだったが、やがて小さく噴き出して、『なんだ』と呟く。


「思ってたよりずっとタフだね。この連鎖」


--------------〇--------------


「チェインゲートの準備は出来てます」


 ヒビノたちの使っているホテルの部屋では人の背丈くらいの直径の光の球が浮かんでいた。この光が連鎖を超える『機功』のテクノロジー──チェインゲートである。


「入るといきなり『聖技の連鎖』だ。こいつは試作機だから、どこの世界に飛ぶのか本当は分からないんだけど……『聖技』に関して言えば間違いなくルファーのいる世界に行ける」

「え?なんで?」


 公平の問いかけにヒビノはニッと笑って答える。


「行けば分かるさ」


 そう言ってヒビノが手を差し出してきた。


「手を取ってくれ。こうして何かの形でソラと繋がっていないと、チェインゲートは使えない」


 鎖のように。列になって手を繋ぎ合う。ソラを先頭にしてロロン・リード・ヒビノの順番。


「手をつなぐだけでいいのか……」


 言いながら公平はヒビノの手を掴んで。


「じゃあ行こう!」


 エックスに手を差し出す。


「うん」


 彼女が公平の手を握ったところで、ソラが一歩踏み出した。そうして、彼らは光の中へと歩を進めていく──。


--------------〇--------------


 公平が目を開けると。


「うわっ!?」


 いきなり目の前に巨大な靴が落ちてきた。やってきて早々聖女の足に踏み潰されるところだった。一行は慌てて物陰に隠れる。


「……これが『聖技の連鎖』か」


 エックスがぽつりと呟く。あらゆる建物が黄金に輝いている。それでいて品が悪いわけでもない。煌びやかで神々しい景色だ。

 道行く者は皆聖女。純白の翼を持つ巨人だ。まるで神話の中の世界のような光景である。


「眩しいなあ……」

「……さて。こんなコソコソしてても仕方ない。こんなに派手な世界なんだ。こっちも派手に行こうじゃあないか」


 言うや否や。エックスは一気に元の大きさに戻った。手には公平たちを載せている。

 突然現れたエックスの姿に聖女たちは動揺した。それに構うことなく更に巨大化を続ける。建物の大きさを超えて、聖女さえ踏み潰せるほどになったところで浮かび上がった。

 足元で自分を見上げる聖女も、勇敢な聖女の攻撃もエックスは気に留めない。地平線の先までを一望できるほどに大きくなったところで、ようやく巨大化を止め、巨大な力──ルファーの力を感じる先に向けて指をさす。


「ルファー!出て来い!『魔法の連鎖』からはるばる来てやったぞ!」


 手の上にいる公平たちも足元の聖女たちも茫然と自分を見つめていた。『ふふん』と得意げな笑みを浮かべる。派手に行くと決めたなら、いきなり宣戦布告するくらいにド派手が過ぎるくらいでちょうどいい。

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