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リフレッシュをしよう:エックス祭り②

 もくもくとタコ焼きを頬張る。とろとろで熱々。しかして魔女の口内はタコ焼きごときの熱さには負けず、平気な顔で二つ三つと口の中に入れていく。

時々神輿の外に出ては出店で売っている品物を貰い、一言二言会話をして、神輿に戻って食べるのを繰り返す。そうしてエックスを乗せた神輿は進んでいくのだった。


「なんか別に悪いトコじゃないかもなあ」


 口ではこう言いつつも内心では疑っている。何か違和感がある。しかし違和感の生み出す大本となる原因が何かまでは、まだ分からない。


--------------〇--------------


 神輿は街中にある社に順番に入って行く。そして一つ鳥居をくぐる度に儀式のようなものが始まるのだった。まず神輿と一緒についてきた女性陣が歌を歌い、舞を踊る。この間男性陣は微動だにせず、ただひたすらにエックスが乗った神輿を支える。

一通り舞が終わったら神輿から出てくるように促される。


「これ何の意味があるんだろう……」


 神輿を降りて神社の前に立ったエックスは、神社を背にしてその場でしゃがみこむ。そうして足元で自分を見上げる女性陣のうち一人を適当に選んで指先で撫でる。その間撫でられている女性が何事か言ってくる。挨拶だったりお礼だったり。そうして少しの会話をしてから指を離すのだ。立ち上がったエックスに向かって女性たちが二度手を叩き、おじぎをする。こうして儀式が終わる。

 儀式が終わったら再びエックスは神輿に乗り込む。次の社につくまで屋台が並ぶ大通りを進んでいき、時々止まっては屋台の売り物を貰うのだ。

 神輿に揺られている間、エックスの肩の上で公平が障子戸の隙間から外を見つめていた。


「どうかした?」

「いや……変な町だなあって」

「そう?どこが変?」

「だってさ。この神輿百人くらいで持ち上げてるだろ」

「うん」

「で、他に屋台とかも並んでるわけで、男の人が店番やってる店もあるんだけど。その割に家少なくない?」

「えー?」


 公平に言われてエックスも外の景色を覗いてみる。

 言われてみれば町の殆どは畑や田んぼ、それから異様に大きな社である。家はその狭間にぽつぽつある程度。言葉を選ばずに言うと田舎だ。


「言われてみればそうだね」

「だろ?こんなにいっぱい人が住んでるとは思えないんだよなあ」

「うーん……」


 出店はともかく。こちらは他所の町から来たということも考えられるから置いておくとして、町に見える家の数に対して神輿を担ぐ男性百人は多すぎる。


「それならボクも気付いたことが一個あるんだけど」

「え?なに?」

「この町に在る家、どれもこれも一人だって人がいない。魔力やキャンバスの気配を感じない」

「……それの何が変なんだ?祭りだから出てるんじゃ……」

「お祭りだからってどの家にも人っ子一人いないってことあるかな。みんながみんな参加する?具合が悪い人とか怪我してる人とか……あと単純に人が多い環境が苦手な人とか色々いると思うんだけど」

「……おかしいね、言われてみれば」

「だろ?このお神輿もやたら新しいのが気になるというか……。あ、止まった」


 またどこかの社についた。エックスはため息をつくと、公平が落ちないようにとそっと手を添えて神輿を出る。今の自分は寝間着姿。本当はすごく恥ずかしい。外に出るなんて気乗りしない。出来れば神輿の中に引きこもっていたかった。


--------------〇--------------


 夜。町中を回った神輿は最初の神社へと戻っていた。いつのまにやら境内にも屋台が出ていて賑やかである。その暖かい騒がしさを、エックスは少し狭い本殿の中で聞いていた。


『ここが女神様のお泊りする場所になります。お休みになる時はこちらで。夜宮もありまから、どうぞお楽しみください』


 最初に舞を仕切っていた着物のおばさんが言った。しかしエックスは断って本殿に籠ることにした。思いのほか人が多い。外に出たら大騒ぎになりそうで不安だからである。

 本殿の中をきょろきょろと見回す。奥の方には古ぼけた絵があった。光の魔法で照らしてみれば、大きな白蛇を刀で斬り倒すヒトが描かれている。そのヒトは必要最低限の情報しか描かれていない。顔や手足があるだけである。その足下では非常に小さなヒトがひれ伏している姿が描かれていた。


「ふーん。もしかしてこの蛇をやっつけているヒトがこの神社に祀られてる神様なのかな。……え。もしかしてこれってボクのつもりだったりする?」


 まじまじと絵を見てみる。顔は落書きのような目鼻だけが描かれていた。へのへのもへじよりは少し書き込みがある程度である。髪の毛はない。省略しただけなのか或いは最初から着ていないのかは定かでないが服は描かれていない。傍目に見るとだいぶ野蛮に見える。もしもこれが自分のつもりだったらしっかり抗議をしたい。自分はこんなんじゃあない。服だって着ているし髪の毛だってちゃんと生えている。なによりこの絵よりは多分可愛いという自負があった。

 そうこうしていると、きいという音を立てて本殿の戸が開いた。外の賑やかな声が入ってきて、戸が閉じると同時に少しだけ静かになる。


「ただいま」

「あ。おかえりー」


 公平だった。外から洩れる灯りが、薄暗くも彼の姿を映し出している。屋台で色々食べ物を貰って来たらしい。四つん這いになって彼の元へと近付いていく。


「おお……迫力あるな」


 闇の奥から四つん這いで巨人が出てくると、それがエックスであっても少しの威圧感がある。ただでさえ巨大な彼女の手や顔が普段よりも近くにあって一層大きく感じる上に、暗闇がその巨大感を強調しているからだろうかと思う。

 エックスは悪戯っぽい笑みを浮かべて尋ねる。


「ふふふ。恐い?」

「いや別に恐かぁないけど……」

「……あ、そう?えへへ」

「しっかしエックス効果はすごいな。俺にもタダで色々くれたよ」

「へー。なんかフクザツだなあ……。ボク別に神様じゃないのに」


 ぶつぶつと言いながら公平がもらってきてくれた食べ物を順番に大きくしていく。やがては左手にトウモロコシ、右手にわたあめ、そしてイカ焼きを咥えているという食いしん坊スタイルへと変化するのだった。


「一個ずつにしなさいって」

「もごもごもご」

「だから喋れなくなるから一個ずつにしろっての!」

「むー……」


 ジトっとした目で公平を見下ろすと。取り急ぎデザートになるわたあめを魔法で浮かせておくことにし、イカは普通に右手に持つことにする。


「あ、そうだ。なんか絵が描いてあったよ」

「絵?」

「うん」


 イカ焼きで暗い本殿の奥を指す。魔法の光が先ほど見ていた大蛇と巨人の絵を照らし出した。


「なんだろコレ……神さまの絵?この蛇はなんだ?」

「うーん……分かんないなあ。外の人なら知ってるかもしれないけど」

「まあそうだよな……お前イカはどうした?」


 絵から振り返った公平がエックスの右手を見て言った。さっきまで身体が丸ごとあったはずのイカ。今では刺さっていた串しか残っていない。


「もう食べちゃったの!?」

「だ、だって美味しかったし」

「す、すごいな……。なんか久々に実感した」

「な、なんかフクザツ……。こんなんで尊敬されるなんて……」

「尊敬はしてない」

「むう……」


 少し気落ちした様子でトウモロコシをむしゃむしゃと食べ出す。自分も何かを食べようかと公平は焼きそばを啜った。


「……ん?」

「え?どうかした?」

「いや……。……ねえ公平。かき氷って売ってた?」

「かき氷?売ってたよ?」

「何味があった?」

「アレ色と匂い違うだけで味全部同じだろ」

「ってことは色々色があったわけ?」

「うん。イチゴとメロンとレモンとブドウと、あとはブルーハワイ」

「……ふうん」


 むしゃりむしゃり。トウモロコシはエックスの硬く強靭な歯によってで順次削り取られて生き、瞬く間に芯だけを残した無惨な姿となった。ぺろりと舌なめずりをして、魔法で浮かせているわたあめを手にする。


「……どうかした?」

「焼きそばのソースを見てやっと気付いたんだけどさ。この世界って今、近代から現代くらいなんだなーって」

「あー。言われてみれば」


 明らかに日本の景色。一方で焼きそばのソースだとかかき氷のシロップだとかどれもこれも比較的新しい時代のものに思える。


「朝食べてたタコ焼きもソースがかかってたのに。気付かなかったよ」

「そうだな。……ちなみにそれが何か気になるの?」

「ぐちゃぐちゃだなって」

「ぐちゃぐちゃ?」

「うん」


 白い雲のようなわたあめを毟り取り、口に運ぶ。甘さが口の中に一気に広がった。


「この世界車がどこにもない。家もなんだか少ないし古めかしいものだった。それから電線がないのも気になる。地下に埋まってるのかもしれないけどね」

「……ああ。言われてみれば電線なかったな」

「焼きそばのソースとかかき氷のシロップとか、あとはこのわたあめだってさ、作るのにはザラメを溶かす機械が必要だろう?その程度には近代化されてるのに、町並みにはそういう気配が全然ない。ぐちゃぐちゃだ」


 公平は自分が食べている焼きそばに視線を落とした。これは本当に食べていいものなのだろうか。1/3を食べたところで急に怖くなる。


「大丈夫。毒が入っててもボクが解毒してあげるよ」


 そう言ったエックスは余裕の表情でわたあめを完食していた。手を合わせて『ごちそうさま』とまで言っている。公平は再び焼きそばを見つめた。お腹は空いている。エックスは魔女だからかもしれないが、取り敢えず屋台の売り物を食べても平気だった。第一もしも変なものが入っていたら彼女は気付くはずである。それに仮に焼きそばだけに何か入っていたとしても、万が一の時は助けてくれるらしい。


「……南無三!」

「南無三なんて本当に言う人ボク初めて見たよ」


 エックスがくすくすっと笑いながら言う。

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