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Q&A

「何度も言っているだろ!なにも喋らねえよ!」

「ええっ」


 帰ってきたのは予想外の返答であった。元の大きさから240分の1、約40cmの大きさに縮んでなおこの態度。

 流石にエックスも困ってしまった。縮めたのはあくまでも精神攻撃の意味である。そこから物理的に何かをするというつもりはなかった。何かをすれば潰してしまうから。この期に及んでもなお、口を割らないと宣言された時点で、エックスに打つ手はない。

 思わずため息が零れた。それは突風になってガンズ・マリアを吹き飛ばす。


「うおおっ!?」

「あ。ごめん」


 ぱちん。指を鳴らす。同時にエックスの魔法が解ける。マリアは人間大のサイズに戻り、机の上をころころと転がった。起き上がった彼女は自分の身体と、こちらを見下ろしているエックスの顔を交互に見る。


「……戻った?どういうつもりだ?」

「どうもこうも。手詰まりだよ。ボクにはこれ以上の手はない」


 言いながらエックスはマリアをひょいっと摘まみあげた。手のひらの上に載せると、顔を近付けてじいっと彼女を見つめる。


「……それで?アタシが口を割らないって分かったら次はどうするよ。そのまま手を握って握り潰すかい?」

「そうしたいのは山々だけどね。これでもキミに対しては結構怒ってる」


 微かにエックスの手が動く。マリアがごくっと唾を飲み込んだ。


「……けど。生憎ボクはそもそもそういうのは嫌いだ。ボクの目の前では自殺だってさせるもんか。それに情報を知るだけなら他に手がある。あんまりやりたくない手だけどね」

「……なに?」

「ボクは全ての魔法が使える。キミの心に入りこんだユートピアの魔法もだ。その気になれば、キミに喋ってもらわなくても色々知ることができる」

「……!」


 マリアの表情が僅かに強張った。


「話せること。絶対に話したくないこと。知られてもいいこと。知られたくないこと。命よりも大事な秘密。そういうものがキミにもあるはずだ。ボクはそれを無理に聞くつもりはない。けど心に侵入してしまえば、何もかもボクは見聞きすることになる」

「……ち」

「話した方がいいと思うけど?」

「はあ……仕方ねえか」


 エックスの手の上に腰を落とす。そうして胡坐をかいて、こちらを見つめている巨人の顔に目を向ける。諦めるしかない。あまりにも不利益なことは黙っておけばいい。話しても問題なさそうな質問だけは答えてもいい。それを許してしまうくらいに彼女は甘いのだから、それでいい。


「なにが知りたい。話せないことは話さねえぞ」

「そう?それでいいよ。まずはそうね。公平の記憶。ボクについての記憶は誰が持ってるの?」

「さあな」

「おいっ。いきなりかっ!知らないわけないだろ!?お前が盗っていったんだから!」

「知らねえよ、本当に。アタシは全部をルファーに託した。分割して、他の聖女に渡したのはアイツの仕事だ」

「ぐぐぐ……まあ多分ルファーが持っているんだろうけど」


 何しろ公平の記憶は向こうにとっては最大の切札だ。自身に関する彼の記憶は、エックスが一番取り戻したいもの。追い詰められてもそれを盾にすれば逆転の可能性がある。そんな大事なものだ。木っ端な聖女に託すとは思えない。自分で管理するのが一番安全だ。


「なら二つ目の質問だ。ルファーは他の連鎖の世界を奪って何をしようとしてるわけ?」

「……他の連鎖の力を削ぐためだろ」

「ウソだ。ルファーにそんな必要があるとは思えない」


 彼女は一人で他のあらゆる連鎖全てに匹敵する戦力である。他の連鎖の力を削ぐ必要性がない。何か他の理由がある。エックスはそう考えている。世界そのものをエネルギー源とした、途轍もない破壊兵器を作ろうとしている、とか。エックスの問いかけに、マリアは一度ため息をつくと、どこか遠い目をして口を開いた。


「ルファーにとって大事なヤツを生き返らせるためだ」

「え?大事なヤツ?」

「タンザナイトだよ。知ってるだろう?」

「……知ってるけど」

「アイツは何百年も前に死んでいる。人間だからな。大往生だったよ。ルファーはアイツを生き返らせるために、あらゆる連鎖からエネルギーを集めていたんだ」

「ま、待って待って」


 手を前に出して一度マリアの話を中断させる。タンザナイト。『心錬の連鎖』にてギドウを殺害し、公平を追い詰めた『聖技』の使い手。彼女は一度死んでいる。それが本当ならば。


「なら今のタンザナイトは?あそこにいる彼女は一体?」

「決まっている。生き返ったんだよ。あの女は」

「……それで他の世界を使ったって?ルファーだけで十分に足りるエネルギーじゃないのか?」


 そもそも死者の蘇生であれば『魔法の連鎖』には実績がある。エックスはちらっと部屋の奥に在る扉を見た。ウィッチの部屋。彼女は一度死んでいる。あらゆる場所からキャンバスを集めて自分のものに変換する『箱』を生前にあちこちの世界にばら撒き、その『箱』の力で蘇生したのだ。裏を返せば『魔法の連鎖』一つ分のエネルギーでも死者蘇生は可能である。数多の連鎖から税金みたいに世界を徴収して使う必要があるとは思えない。

 マリアは少しだけ黙って、エックスの質問に答える。


「アイツにはもう生き返る意志がなかった。未練とかそういうモノがなにも残っていなかった。本当に満足して逝ったんだ。確かにルファー一人でも生きた身体を創ることは出来たよ。けどそれは器だけ。中身は空っぽだった」

「中身……」


 エックスはマリアを軽く握り締めると立ち上がり、つかつかのウィッチの部屋の扉の前にまで歩いていき、どんどんとノックをする。


「ウィッチ!ウィッチ起きて!聞きたいことがあるんだけど!」


 返答はない。むうっと扉を睨む。きっと寝ているのだ。勝手に開けて入り込むのは流石に相手がウィッチとは言っても悪い。

 死者蘇生の魔法。エックスはそれを試してみたことがない。だから、もしかしたらエックスがやった場合でもルファーの時と同様に、肉体だけが戻ってくるのではないか。肝心の心が入っていないのではないか。ウィッチはそれを知っていて、死の直前に自らの精神のバックアップをどこかに残したのではないか。聞いておきたかったが、これでは無理だ。


「……それで?ルファーだけでは取り戻せなかったタンザナイトの心を他の連鎖の力で呼び戻したって?」

「いいや。他の連鎖はタンザナイトの肉体が死ぬ度に蘇生させる自動装置のエネルギー源だよ。ルファーもそれにかかりっきりで『聖技』の管理が二の次になっていたからな。それじゃあ流石に困る」

「……なるほどね。そういう目的で他の連鎖が必要だったわけか」


 ウィッチの部屋の前からテーブルの前にまで戻っていく。エックスの手の中で、彼女が一歩進む度に起こる揺れをマリアは感じていた。そうして再び椅子に腰かけて、手を広げる。


「ならどうやってルファーはタンザナイトの心を取り戻したの?もう失われてしまった心を」

「さあな。それはアタシも知らねえよ」

「……そう。じゃあ三つ目の質問だ」


 次の質問は『聖技』に関するものではない。しかし確認しておかなければいけない内容である。


「少し前に飛行機が落ちた。お前の動きをボクたちが認識するちょっと前だ。殆どの乗客は助けられたけど、何人かは銀髪の巨人に握り潰されたらしい」

「へえ」

「アレはキミの仕業?」

「ああ」

「やっぱりか。なんでそんなことを?」

「別に。そこにおもしろそーなモンが飛んでたからだよ」

「そう」


 分かっていたことだった。彼女が人を傷つけるのに理由はない。気まぐれで人を殺す怪物なのだ。

 分かっていても。一瞬だけ、この手を思い切り握り締めてやりたくなる衝動に駆られる。エックスはそれを理性で抑え込んだ。それをすれば、彼女と同じになってしまう。


「じゃあ次。桑野クンって覚えてる?」

「クワノ?……ああ。あの店の店員か。覚えているよ。良いヤツだったな。なんでアイツのことを知ってるんだ?」


 この反応を見るに、彼女は桑野が『虹翼の連鎖』に来ていたことに気付いていない。ならば、ちょっとしたウソをついてもバレないはずだ。


「あの街はボクの拠点だからね。桑野クンのことも知っているよ、当然ね。……彼もキミの氷のせいで凍ってしまったね。無事だといいけど」

「そうだな。それでなんだよ質問って。桑野を知ってるかどうかって話か?」

「……何か思うところはない?キミのせいで死んでしまったかもしれないんだよ?」

「弱っちいムシケラの小人だからなあ。まあ死ぬこともあるだろ」

「……そう」


 ダメだこりゃ。エックスは心の中で呟いた。結局マリアが桑野と仲良くしたのも気まぐれだったわけだ。予想通りの結果過ぎて最早笑えない。桑野が彼女と会話をしたところで何かいい結果が待っているとは思えない。ただ彼が傷つくだけに思える。


「……はあ。じゃあ最後。キミ何か不満とかあったわけ?」

「あ?なんでだよ」

「別に。そんな気がしたから」


 そんな気がしたのはユートピアだが。彼女曰くガンズ・マリアはソードのような不満を抱えているとか。別にそれを聞いたところでどうなるわけではないが、何となく気になったのだった。


「……答える気はない。どうだっていいだろ。そんなこと」

「え。マジ?」


 ここまで色々教えてくれたのにおかしな話だ。。エックスはまじまじとマリアの表情を見つめる。敵意を抱いた表情が向けられる。これ以上踏み込むなと言っている表情が向けられる。ここが彼女のウィークポイントだとは思わなかった。


「なんだよ!」

「うわっ」


 見つめられているのに苛立ったマリアがエックスの瞳を殴りつけた。痛くはないがちょっとだけびっくりした。咄嗟にエックスはマリアから顔を離す。


「話したくないことは聞かないんだろう?これ以上は何も喋らないぞ」

「分かったよ。もう……」


 ぱちんと指を鳴らす。鳥かごのような檻が魔法によって作られる。その扉を開けると、中にマリアを入れて、魔法で施錠する。


「な、おい!出せ!」

「出さない」


 一言言うとエックスは檻を棚の上、公平の家の隣に置いた。『出せー出せー』と喚く声を聞きながら、果たして彼女を桑野に会わせていいものかと頭を悩ませる。

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