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エックスのウソ

 『神は自分の出自とは異なる連鎖で生まれた神ではない者に攻撃することが出来ない』。全ての連鎖に於いて定義されている強力なルールだ。強引にこれを破棄しようとすれば、その攻撃の余波で世界が崩壊するほどのエネルギーを撃ちだす必要がある。それが出来ないから苦戦したシーンがエックスには多々あった。


「けれど物事には例外というものがある」


 ルータが聖剣を天に掲げた。暗い雲が妖しく輝いたかと思うと、一瞬だけ空が僅かに罅割れた。物理的に空間を裂くほどの電気エネルギーは、稲妻になってエックスに向かって次々と落ちていく。


「例外?」


 漆黒の刃を横一文字に大きく振り抜く。雷が空間ごと物理的に両断された。公平が開発した魔法、『最強の刃・レベル4』である。

 ルータは小さく舌打ちをして聖剣を掲げた。落雷が彼女の聖剣に落ちて、稲妻の刃を形作る。そうして一気に加速してエックスに向かって行く。

 何度来ても無駄だとばかりにエックスは『レベル4』を用いて、幾度となく空間を切り裂いた。が、その度に特級影楼バースの能力が産み出した巨大な影楼が邪魔をして、肝心のルータには届かない。『レベル4』の弱点。目標の前に障害物があれば斬撃はその障害物を切断してしまう。


(『レベル4』の弱点にこのスピードで気付くなんて。コイツ結構戦いの勘がいいな。……なら!)


 これ以上の小細工は無駄だ。エックスもまた勢いを上げて、ルータとの距離を縮める。やがて、互いの剣が間合いに入り。


「はあっ!」

「やあっ!」


 がきんと音を立てて、空間切り裂く黒色の刃と空を割る稲妻の刃が交じり合った。互いに互いを切断しようとする力が働く。だが切断する力は相手の切断する力によって切断される。同系統の力同士がぶつかり合い相殺されているのだ。結果的に残ったのは両者の剣が鍔迫り合いをする初めての瞬間であった。


「なかなかやるね、デイン・ルータ!けど勝負はここからだ!最後にはボクたちが勝つ!」


 強気のエックスの発言。ルータはそれを鼻で笑った。


「何が可笑しい!」

「余裕の顔をしても私には分かる。貴女は焦っている。そんなに仲間のところに行きたいのかしら」

「……っ!」

「マリアと戦っている仲間がそんなに心配?でもそれも当然。このクラスの神同士の衝突は、訓練を積んでいない人間や聖女……或いは魔女ですら耐えられない」


 エックスの表情が僅かに強張った。

 神の器たる巨人の身体と神の力の両方を手にした者は、存在するだけで世界に著しい影響を与えてしまう。それこそただそこにいるだけで世界を崩壊させてしまうほどである。だからエックスは普段は自身の力に何重かの封印を施していた。

 普通の人間ではリミッターを外したエックスやルータの存在そのものが放つ力を受け止めることは出来ない。それだけで気を失ってしまう。故にエックスは仲間たちを鍛えた。自身の全力、その片鱗を見せ、ルータと対決している時、仲間たちが力の余波を受けても耐えられるように。


「向こうでは魔法使いがそれなりに戦えていた。私と貴女、二人の神がぶつかり合うことが最初から分かっていたなら、そこまでは当然調整する。──けれど、貴女は見落とした。マリアも今は神の領域に入った」


 これで器と力を手にした神が三体。


「と、なれば。この時点で貴女の連れてきた仲間は軒並み動けなくなるのではなくて?」


 そうなればマリアは一切攻撃ことなく『魔法の連鎖』の仲間を倒せることになる。殺すことは出来ずとも気絶させることが出来ればそれらを人質にとることが出来るのだ。そうなればエックスは反撃できない。『聖技の連鎖』の勝利である。


「……さあて。それはどうかな?」


 エックスは小さく笑って更に続ける。まだ勝負の行方は、分からないよ。


--------------〇--------------


「……ちっ。どうなっていやがる」


 アルル=キリル。最強の『守護者』にして『守護者の連鎖』の神。契約者を喰らって顕現し、あらゆる連鎖をその腹に収めた怪物の力は弱っていてもなお強力だった。ガンズ・マリアは彼女に乗っ取られるリスクを承知の上で契約し、遂には彼女を捻じ伏せ、支配できるようになった。ただ存在するだけで『魔法の連鎖』を下し、エックスとの対決で勝利するために。

 今この世界を包んでいるのは、マリアの力だけではない。ルータとエックスによる強大なプレッシャーも世界全体に影響を与えているのだ。実際、数分前まで鬱陶しいくらいに飛び回っていた虹翼も今ではその姿を一切見ない。皆、三人の神の巨大な力を受けてしまって気絶し、墜落してしまったのである。今や弱い神ですら倒れてしまうほどの過酷な環境だ。


「はああああっ!」

「おおおおお!」

「ちぃ……!」


 だが魔法使いたちは止まらない。気絶する気配はない。身体がすくみ上って動きが鈍くなるといった兆候もない。アルル=キリルの力を開放する前と何も変わらない。絶好調だ。平気で黄金に輝く剣を振るい、茨の鞭を振り回し、虹翼よりも小さな──それこそ虫のような大きなの生き物は、聖女でさえ焼かれる炎の魔法を撃ち込んできている。

 一方でこちらは神の力を開放したせいで敵に攻撃が届かなくなった。神が異連鎖人を傷つけることが出来ないというルールの生である。唯一攻撃が効くキリツネの姿も今はない。


「……やるな『魔法の連鎖』。まさかアタシもどこぞの神の力を奪ってくることを予想していたなんてな」


 『魔法の連鎖』を称えるマリア。一方で公平たちはやはり疑問を覚えていた。エックスの特訓では彼女を加えて二体分の強力な神の力に耐えられるようになるのが目的だった。実際にはそこにガンズ・マリアを加えた三人分でも問題なく戦えている。というよりもこれくらいが特訓の時の負荷と丁度同じくらいで、慣れているぶん戦いやすい。


(なんでだ……。なんでこれでちょうどいいんだ)

(まさかね……アイツまさか。いや、そんなはずは……)

(いやでもこれはもうそう考えるしか……)


 ガンズ・マリアと戦いながら、魔法使いと魔人、そして魔女たちはアイコンタクトで互いの想いを訴える。やがて、彼らは一つの結論に辿り着いた。同時にエックスに対して『あンのウソツキめ!』と心の中で憤慨する。


(アイツ最初から神三体分を二体分だってウソついて特訓してたんだ!)


 だがそもそもの話、エックスはどうしてマリアまでもが神の力を用意してくるのが分かったのか。彼らはまだその答えを知らない。


--------------〇--------------


「……ん?」


 気が付いたのはある違和感が切っ掛けだった。『虹翼の連鎖』に来る数日前のことである。

 初めは無視してもいい些細なものだと思っていた。だが考えれば考えるほど、その釈然としない感じが気にかかる。魚の骨が喉に刺さったような感じ、とはこのことを言うのだろう。エックス自身、魔女である自分の身体に刺さるような骨を持った魚にな未だ会ったことはないが。


(ルファーの力の一部を使えばそれだけで神さま級の力が手に入るのに。なんでルータはわざわざ影楼の力を奪ったんだ?)


 本来ならばそもそも必要のない力だ。聖女はルファーが持つ無限の力の一部を拝受することで、連鎖の神と同等の力を得ることができる。どうして一つ無駄なプロセスを踏んだのか。


(いやでも……)


 その答えを出すヒントは自らの異能、『魔法』にあった。

 ソードという魔女がいる。彼女は遥か昔に5分割されたエックスのキャンバスを持っていて、その力で襲い掛かってきたことがある。だがそのキャンバスを用いて発動させた魔法は彼女が得意とする『断罪の剣』ではない。エックスの魔法、『星の剣』だ。

 本来ならば慣れない魔法を使うよりも他人のものと合わせることで拡大したキャンバスによって得意の魔法を撃った方が一見いいように思える。だがそれはソードには出来なかった。エックスのキャンバスは奪われていてもエックスのもの。ソードの魔法を描くのには向いていない。

 この制約を克服したのは今のところウィッチだけである。その彼女もあちこちから集めたキャンバスを自身の魔法で作った『箱』に詰めて、長い時間をかけながらその性質をじっくりと変えることでようやく自分のキャンバスに作り替えたのだ。普通の魔女が力を得る手段としては現実的ではない。

 もしも聖女も同じだとしたら。他人から借り受けた力は本当の意味で自分のものにはできないとしたら。つまりルファーの力を借りている時点でルファーや、或いはそれと同格のエックスには絶対に勝てないことが決まってしまうとしたら。だからこそ他の連鎖の神の力を手にすることでその確定事項を覆そうとしているのだとしたら。


(もしもそうだとしたら……。アイツもきっと)


 『虹翼の連鎖』で決着をつけると息巻いているガンズ・マリアもきっと。ルファーから借り受けたものとは違う、別の連鎖の神の力を手にしてくるはずだ。


「?どうしたの?」


 公平が不思議そうな顔をしている。


「んー。いや。なんでもない。って言うか大したことじゃなかった」


 何故ならエックスはその可能性に気付いたのだから。そうなれば初めから自分を含めて三人の神の力を公平たちが受けることを前提で特訓をするまでである。逆転はきっと、この気付きから始まるのだ。

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