第3話 僕の正体
旧校舎は懐かしかった。一年生の時はここで授業を受けていたのだ。
谷口さんがどこにいるかわからなくなってしまったので僕の一年生の時の教室へと向かう。
ドアは空いていて中には何も無かった。だから隠れる場所なんてないのに隅っこで谷口さんは自分の体を大きな羽で覆っていた。
小さな迷子の子供みたいだな。
「谷口さん?」
僕が声をかけると谷口さんはゆっくりと顔を上げて不安そうな顔を僕に見せた。
「……ねぇ、私、もう人間じゃないのかな」
その声は僕が知っている谷口さんじゃなかった。僕の知っている谷口さんは無邪気な子供のような人だった。いつも静かに教室の隅っこにいる僕にはまぶしいぐらい。
「君が自分で言ったんじゃないか。ただ羽が付いてるだけだって」
「だって、あんな、弓。山下くんが本当にゆりの事好きじゃなかったかもしれない。人の気持ちを変えるなんて。それに君を悲しくさせた」
言葉に詰まってしまった。その一瞬がひどく彼女を傷つけてしまった。あまりにも無防備に傷つくから僕も思わず感情を出してしまう。
「それを考えなかったわけじゃない。けど叶わない恋だっんだ。僕が岡野さんが山下くんを好きなことなんて一番知ってる!その上で僕は何もしなかった。だから自業自得なんだよ」
「ごめん」
僕が声を荒げてもただ谷口さんは項垂れて謝るだけだった。
なんて声をかければ分からない。それにもしかしたら谷口さんは本当は僕と同じなのかもしれない。あまり考えないようにしてたけど。
しばらく無言の時間が流れた。沈黙はもしかしたらいつもいろんな声や音に囲われてる谷口さんには我慢出来なかったのかもしれない。ゆっくりと話始めた。
「三日前、私は交通事故にあったの。でも本物の天使がね、私は良い行いをしてきたから三日間だけ天使の羽と共に私を生きさせてあげるって言ったの」
「違っ!!それは多分」
僕は全て理解した。やっぱり谷口さんは僕と同じだった。同時に怒りが込み上げてくる。あいつらは本当に。
「頭がいかれてるって思ってるんでしよ!でも本当なの。私、今日の夜死んじゃうの。もういっそ、さっさと殺してくれれば良かったのに。そうすれば親の顔とか友達の顔を見るたびあんな悲しい思いしなくてすんだのに。羽を出してるときの誰にも気付かれないあんな虚しい思い知らなくてすんだのに。自分がどんどん人じゃ無いことを認識されて、もう、嫌だ」
「だったら今すぐにでもこの世から消してあげましょう」
アルトの美しい声がした。