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THE GAME  作者: 井上達也
物事のはじまりはいつだって突然
9/21

9

 俺は、人混みが嫌いだ。


 ジャーナリストという職業柄、人混みに入っていかないといけない場面は多数ある。あまり、その機会が無いように記事にする題材は個人的には選んでいるつもりである(もちろん、ゼロとまではいかない)。


 そんな俺がどうしてジャーナリストになったのか。それは、簡単だ。働き口がなかったからである。



 大学を卒業するとき、周りの友人たちは就職活動を行っていた。


 同じようなダークスーツ、同じような髪型、同じような白いシャツに、同じようなネクタイ。


 俺は、あそこまで没個性に徹してまで就職活動を行うほどの勇気がなかった。そこまでして働くことに意味を見出せなかったのである。


 しかし、大学を卒業し、フリーター1年目。


 俺はあまりの暇さに嫌気がさした。なんだか言って、毎日決まった時間に働いている友人たちが羨ましくなったのである。就職をしなかったことは、今思うと若気の至りであった。


 まず正社員として就職することを考えたが、周りに友人たちから1年遅れて就職するのはなんとなくカッコ悪いと思った。

 

 すぐに正社員になることを諦めた俺は、何か楽しいことが無いかと探した。

 

 たまたま見ていたドラマが、起業して成功するまで努力する人を題材としていたため、少しだけ起業に興味を持った。周りの友人で起業したやつは見たことがなかったし、周りと同じことをすることが俺には苦痛だった。そして、起業は面白そうだと思った。


 しかしである。残念ながら俺には何か起業するためアイデアはなかった。当時の流行りといえばプログラミングであったが、俺にはそんなスキルはなかった。高価なパソコンを買うお金もない。電気工学やらなんやもよくわからなかった俺はブログを書き始めることしかできなかった。


 収入化にも繋がらずブログも早々にネタが尽きたが、そこで記事を書くことが好きだということに気がついた。


 そしてネットの世界から少し飛び出して、実世界でフリーライターになった。なったきっかけは覚えていないが、誰かの誘いだったような気もする。


 最初はしょうもない芸能人のパパラッチをやった。芸能界なんて縁がないと思っていたし、何より興味がなかった。テレビに出ているか出てないかくらいの違いである。それ以外では一般人と変わらない。そんな人たちのプライベートの写真を週間誌で買ってもらえた。


 情報は価値がある。俺が、フリーライターになった得た真理のようなものである。


 情報を取得する方法は大きく分けて二つだろう。自分で入手するか、他人から入手するか。多くの人が、後者を選択するだろう。知らずのうちに、人は情報を買っている。情報はお金になるのである。


 

 フリーターと思われる青年にインタビューをして、少しだけ昔の自分を思い出してしまった。彼も、いつかは俺のように何かに気がついて、自分で行動を起こしてほしい。


 人混みを掻き分けてベンチにたどり着いた。隣には、営業マンだろうか。営業先に行って商談を終えたのか、缶コーヒーを飲みながら休憩をしている。

 

 俺は、その人の隣の空いているスペースに座らせてもらった。営業マンはこちらの方を見ることもなく、缶コーヒーを飲みながら遠くを見ている。


 俺は、ジーンズの後ろポケットからメモ帳を取り出し、いままでの取材の結果を振り返った。


 最近起きた電話ボックスの中で行われた殺人。通り魔なのか私恨によるものなのかは見えてこないが、いずれにしてもここ最近で最も悲惨な事件であることは間違いない。しかし、電話ボックスなんて響きは本当に久しぶりに聞いた。まだ、存在していたのかと思ったくらいだった。公衆電話と言われると、タバコの煙まみれの空港内の公衆電話で主人公が恋人と長電話をしている映画のワンシーンを思い出す。公衆電話の上にコインをタワーのように積み上げている。


 テレホンカードというものあった。よくイベントで配っていたが、いまでも配っているのだろうか。また配ってほしいものである。


 取材の結果を振り返ろうとしたのに、ついつい違うことを考えてしまった。悪い癖である。

 

 殺された年配の女性は、大変人気のあるコラムニストだったらしい。アルゴリズム斎藤という名前で活動していた。主にティーン雑誌に記事を寄稿していたそうだ。最後の記事は、偶然にも電話ボックスにまつわる記事だった。これは、偶然だろうか?


 電話ボックスの公衆電話が突然鳴ったとのことだった。


 公衆電話が鳴ること自体は、俺の世代であれば特段違和感はない。映画のワンシーンで、公衆電話から犯人が主人公に指示を出し犯人自体を当てさせようとするなんてこともあった。


 しかし、アルゴリズム斎藤氏は電話には出なかった。そして、電話に出なかったこと自体は後悔していないとも書いている。


 俺はこの事実がとても引っかかっていた。


 電話に出なかったことまでは、特に違和感はないが、後悔はしていないとはどういうことだろうか。

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