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「イラッシャイマテー」
僕は、ハンバーガーショップに移動した。
近頃のファーストフードは、外国人の店員さんが立っているのをよく見る。コンビニもそうだ。一時期は、中国人や韓国人が主流だったから顔も近くてなんとなく違和感がなかった。
そして、もはやいまはアジア系ではない。東南アジアやアフリカ系など、人種の大渋滞が起こっている。時代の流れなのだろう。僕は時々どの国にいるのかよくわからなくなる。
僕はホットコーヒーとハンバーガーセットを買い、席に移動した。
僕はホットコーヒーを白いプラスチックの蓋を通して飲むのが非常に苦手だ。
狭い飲み口から、熱い黒い液体が一点集中でベロに向かってやってくるからである。熱すぎて飲めないし、高確率でこぼす。
そんなことを繰り返した僕は、いつの頃か忘れたがホットコーヒーを飲む時はプラスチックの蓋を外すようにしている。
プラスチックの蓋の中に溜まった白い湯気が、プラスチックの蓋を外すと同時に空気中に舞った。この辺の科学的な理屈はよく知らないが、蒸気は蒸発するらしい。
「あつっ」
蓋を外したとはいえ、そこは淹れたてのコーヒーである。まだまだ熱かった。
僕は塩がかかったフライドポテトを口に入れながら、スマートフォンをいじり始めた。
電話ボックスの前でちらっと見た、ゲームのルール。
気がつけば、アプリのトップ画面も少しアップデートされているようだ。ゲームの内容が進行すると、アプリの中身もアップデートされる仕組みなのだろうか?
名前の表示だけではなく、画面の下方部に3つのアイコンが追加された。
左から、手紙のマーク、ターゲットのマーク、そしてメモ帳のマークである。
手紙のマークは、このゲームを運営?しているところから届くメッセージが現時点では格納されている。今後、ゲームの参加者通しでメッセージの交換ができるようになるのだろうか。
次にターゲットのマーク。これを押すと位置情報がわかるように鳴っている。しかし、普通の地図アプリのようながめんではない。真っ黒い画面に緑色の線で、地図のようなものが書かれている。そして、その中に丸いアイコンがゆっくりと点滅しているものと点滅していないものが表示されている。点滅しているものが、まだアクセスしていない公衆電話で、点滅しているものがアクセス済みの公衆電話らしい。
そして、最後にメモ帳である。これは一般的なメモ機能であるらしい。写真をつけて文字を書いたりもできる。必要になる機会が今後現れるのだろうか。どういう意図で、メモ機能がアプリに追加されているのかは僕にはわからなかった。
ハンバーガーにかぶりついている時、僕はふたたびルールを見返した。
【このゲームにおけるルールは以下の通りである。
1.マウスネットワークにアクセスできるのは1日10回まで。10回を超えると失格となる。
2.他のプレイヤーを殺してはならない。暴力等も禁止である。仲良くすること。公序良俗に反する行為をした場合、失格になる。
3.なお、参加者は常時4人とする。4人以上は増えない。退場者が出て欠員が出た場合は参加者を追加し、常に4人でゲームが行われる。そして、5人目の参加者としてジャッジメントが参加する。ジャッチメントはこのゲームを常に監視し、ゲームに適切に参加していないと判断したプレイヤーに対して裁きを下すことができる。
4.参加者1人につき、コンシェルジュが付く。公衆電話から電話をかけることが可能である。彼ら、彼女らはきっと君の役に立つはずである。禁則事項多くあるが、回答できないことはその場で回答をしてくれるだろう。ただし彼女らに電話をできる時間は限られているため、長電話はできないことに留意してほしい。
最後に、このゲームの勝者には1億円の賞金を用意している。幸運を祈る。表彰台でまた会おう】
シンプルなルールである。ルールは決められているようで決められていない感じである。ジャッジメントという存在は気になった。ジャッジメントに嫌われたら、独断と偏見で裁きを下されるような気がしないでもない。裁きとはなんだ?デコピン程度なら恐れるに足らないが、最悪のケースとして、この世から抹消されることも想定できる気がする。
いずれにしても、ジャッジメントの存在はこのメッセージで知った。どうせなら、あの時の電話で教えて欲しかったものである。コンシェルジュはいまいち信用ができない。
フライドポテトを口にいれ、紙ナプキンで指を拭く動作を何回から繰り返したのち、ホットコーヒーを口に含んだ。年を重ねるごとに薄くなっていくファーストフードのコーヒーであるが、僕の人生も年を重ねるごとに薄くなってきていはずなのに、ここにきて一気に濃くなった気がした。
しかし、本当にこのゲームをクリアしないといけないのだろうか。なんとなく億劫になってきている自分もいる。自分はフリーターだから時間の制約はないが、時間の制約のありそうなサラリーマンとかが参加したりしているのだろうか。テレビに出ているような有名人が参加していても面白い。
動画配信者なんて飛びつきそうなネタである。そもそもこのゲームの主催者が動画配信者なんてことはないだろうか。彼らの広告収入は結構すごいと聞く。余りに余ったお金で、ゲームを企画し動画のネタにする。そして、動画制作にかかった経費として処理して、税負担を軽くするに違いない。動画配信者による動画配信の仕組みを解説している動画を昔にみたことを思い出した。
僕はあたりをキョロキョロと見回した。
ビデオカメラを回している奴がいるのではないか。
それらしい人は、見当たらなかった。すごく太った女性が、胸元をパックリ開けたゴスロリファッションには色んな意味で目がいってしまったが、特段変わった人物はいなかった。