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THE GAME  作者: 井上達也
物事のはじまりはいつだって突然
6/21

6

 道路を流れる光を見ながら歩いていると目の前に電話ボックスが現れた。


 いつもこの道を通って帰るのだけれど、こんなところに電話ボックスがあるなんて気づいたこともなかった。


 暗い夜道の中で、電話ボックスは煌々と光っている。電話ボックスの周りには蛾や小蝿が光に誘われて飛んでいる。電話ボックスの中には、緑色の個体と分厚い黄色い冊子。もはやこんなものを見ながら誰が電話番号を検索するのだろうと思ったが、この質感がとてつもたまらなく好きな人がいるのだろう。もしくは、有事の際はデジタルではなくアナログなのだろう。


 私はさすがにさっきのさっきに読んだ雑誌の記事が気になった。


 アルゴリズム斎藤さんが書いた記事。もう秋も終わるかもしれない時期に書かれた怪談のような話。そして、謎の急病による今後の休載。


 もし、本当に電話ボックスが鳴ったらどうしよう。


 私は出るべきなのだろうか。誰がかけてきたかもわからないのに。


 もし、電話に出たら私はどうなるのだろうか。


 「モシモシ、キミハエラバレタ」


 こんな感じで、電子音で細工された声で喋りかけてくる性別不明な人が受話器越しに現れたらどうしようか。怖く鳴って電話を切った瞬間に、後ろに白いホッケーマスクを被った大男が現れて、長い包丁を持っていたらどうしようか。逃げ場はない。分厚い電話帳だけが私の武器になるに違いない。


 頭の中でシミュレーションを重ねて、相手に決死の一撃を与えられる可能性を考える。しかし、どう考えても部が悪い。なぜなら私は女性だからである。あんな狭い密閉空間の前に立たれえてしまったら、私にはどうすることもできない。ただただ死を受け入れるしかないだろう。


 

 私は悲惨な結末を頭に描きつつ、電話ボックスに向かって歩き続けた。なぜなら、私の家はこの電話ボックスをすぎてすぐの場所にあるからである。


 気がつくと、道路を走る車は一台もいなくなっていた。さっきまであんなに走っていたのに。エンジン音ともに光が揺れ動く景色が私の前から消えた。


 私は息を止めて、電話ボックスの横を通った。なぜ、息を止めたのかはわからない。でもこういう時はなぜか息を止めたくなるのである。


 

 結局公衆電話は鳴らなかった。私の備えは杞憂に終わったのである。しかし杞憂に終わるのはいいことである。決して悪いことではない。


 しかし、考えすぎな部分もあっただろう。たかがファッション誌の記事である。しかも変なペンネームの人が書いている記事だ。本当に実在するはずもない。ネタに困って空想の話をとりあえず提出したのだろう。そして、代役を見つける時間もなかった雑誌の編集者がとりあえず載せてしまったのである。


 いやはや高校生にもなると、こじらせてしまうみたいだ。女の子といえど中二病のようなものは発病する。

私は、まだ中二病の完治は遠いのだろう。早く治ることを祈るばかりである。


 私は大きい道路か一歩小道に入った自宅についた。


 「ただいま」


 玄関のドアを引いて開けて、大きな声を出して入った。


 「おかえり」


 お母さんが、優しい声で迎えてくれた。家に入った瞬間の匂いから察する限り今日はカレーだろう。おかあさんのカレーは本当に美味しい。本場のインド人が食べたら「これはカレーではない」と言われてしまいそうだが、日本カレーとしては本当に絶品である。今日の夕食が楽しみだ。





 

 道路のから車が消え、あたりの住宅の電気も落ち始めた頃。


 電話ボックスの明かりだけが付いていたが、誰かが利用する気配はなかった。


 そして誰もいない電話ボックスの空間で、緑色の個体から呼び出しのベルが鳴りつづいていた。誰かを呼ぶかのように。

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