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THE GAME  作者: 井上達也
物事のはじまりはいつだって突然
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 【真夏の暗い真夜中。等間隔に置かれた街灯の周りを、蛾や小さなコバエが飛んでいた。彼らは、時々街頭にぶつかり小さな音を立てる。その音を、何匹かの蛾や小さなコバエが出すと、自然となんらかの音楽のようなものに聞こえてきた。私は、なんだか不思議な街に迷いこんだように錯覚をした。すると、目の前にふと見慣れた物体が姿を現した。電話ボックスである。これを言ってしまうと私の年齢がバレるような気もするが、私が若い頃はよく緑色のケースの上に10円玉を重ねては長いことを電話したものである。電話が切れそうになると鳴るあの重たいブザーは、私の中ではちょっとしたトラウマである。私は懐かしいなと思い、電話ボックスに近づいた。すると、電話が鳴り出しのである。ドラマや映画で公衆電話が鳴るシーンは何度か見たことがあったが、本当に鳴るとは思わなかった。しかし、私が電話の受話器を取るのをためらっていると、電話は静かになった。誰が私に電話をしたのだろうか。出てみるのもおもしろかったかもしれない。このコラムを読んでいる読者はどのような年齢なのかは私には皆目検討がつかない。もしかしたら、公衆電話なんて知らない人もいるかもしれない。電話ボックスの中でどれだけの男女が愛を囁きあったのかなんて想像もできないかもしれない。しかし、これだけは言いたい。電話には出てはいけない。私が見てきた映画やドラマで、突如鳴る公衆電話を出て幸運な目にあった主人公を見たことはない。大体の主人公は辛い目に会い、「なんでおれなんだ」と大体ぼやいているのである。だから、読者の諸君、公衆電話のベルが鳴っていても出てはならない。私は、躊躇したことを後悔していない。それでは次のコラムで】


 やはり、私の目はコラムで長時間止まるように設計されていた。誰がこんなうまい設計を考えたのだろうか。


 立ち読みながら、何回か読み直してしまった。筆者が読み手の年齢がわかっていなかったことは意外な事実であったものの、公衆電話が鳴ることがあることの方が驚いた。


 思えば、電話ボックスに入って公衆電話で電話をかけたことがあまりなかった。私が覚えている電話番号も、家の電話番号だけで友達の電話番号なんて一人も覚えていない。スマートフォンの電話帳の中には入っているが、ほとんどがそのまま記録されている番号をタップするだけでかかる。直接番号を押して相手に電話するなんて、メモで渡された番号くらいだ。今では、飲食店の予約すらインターネットサイトに掲載されている番号をタップするだけだ。


 しかし、筆者は最後に伝えている。


 鳴っている公衆電話には出てはいけないと。


 なんだか、ホラー映画のような話である。夏は過ぎているが、内容的には立派な怪談話であった。内容が秀逸だからこそ編集部の人は掲載に踏み切ったのだろう。面白ければ載る、どこかの週刊漫画雑誌で使いそうなフレーズをなぜかこのファッション雑誌は体現しているのである。



 私は、次のファッション誌の発売日を確認するため、最終ページ付近の目次を確認した。


 次回の発売日の下に書いてある内容に私は衝撃を受けた。


 【コラムニストのアルゴリズム斎藤さんがご病気のため、掲載をしばらく休止いたします】


 まさかの休止である。アルゴリズム斎藤さんは体調が悪いらしい。記事の内容から察するに、大変ご高齢なのかもしれない。仮にご高齢だとして、これだけ若い女の子の心を掴む記事をかけるのであるから相当最近の流行に敏感なのかもしれない。いや、私がおばあちゃんのネタに振り回されていたとも言えるか。。。


 いずれにしても、早く元気になって楽しい記事を掲載してほしいと思いながら私は雑誌を閉じて元の場所にもどした。そして、スマートフォンで時間を確認すると、結構いい時間になっていることに気がついたので私はそのまま家に帰ることにした。



 車のヘッドランプが、私の歩いている左側を行ったりきたりしているときに、少しだけ怖いことを思いついてしまった。


 アルゴリズム斎藤さんは、本当は電話ボックスに呪われたのではないか。


 本当は病気なんかじゃなくて、電話ボックスに呪い殺されたのである。所詮、アルゴリズム斎藤なんてペンネーム。新しいアルゴリズム斎藤を生成することは可能であろう。次のアルゴリズム斎藤が生まれるまでの時間稼ぎのメッセージを次回の発売日の下に記載したのかもしれない。


 私は、顔を横に振った。


 そんなことはない、と頭だけではなく体全体を使って表現した。


 私が体で表現した瞬間、可愛い柴犬を連れたおばちゃんが私の横を通り過ぎた。


 おばちゃんは怪訝そうな目で私を見つめ、ゆっくり歩いている芝犬の首輪についたリードを強く引っ張って私から遠ざかっていった。今日は周りの人から不思議に見られる日なのだろう。心の中にいるであろうもう一人の自分に、強く言い聞かせた。


 

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