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THE GAME  作者: 井上達也
物事のはじまりはいつだって突然
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 「伏せろ!」


 男が大きな声で叫んだ次の瞬間、目の前のドアが爆発ともに吹っ飛んだ。


 吹き飛んだドアの周りは煙が充満し、視界が奪われているように見えた。

 ドアのとなりの部屋の壁際に座って別の男が一人、息を潜めて誰かが来るのを待っていた。


 木っ端微塵になったドアの上を、ブーツでゆっくりと歩いてくる音が部屋の中に響いた。


 ドアのとなりの部屋の男は時折、ドアの方を壁際から誰かが来ることを確認した。


 一瞬の静寂が訪れる。無音である。


 そして、煙の中から一人の大きな大男が現れた。大男は、そのままゆっくりと前を向いて歩いていく。


 大きな声で叫んだ男は、その大男の前で拳銃を構えて立っている。


 「動くな」


 男は、大男に対して静止と促した。


 しかし、その忠告とは裏腹に大男は進み続ける。


 「動くな!撃つぞ!」


 男は、再度忠告をした。しかし、大男は止まる気配はなかった。


 そして、男は大きな声を上げながら拳銃の引き金を引いた。部屋の中に、大きな銃声が鳴り響いた。しかし、大男に銃弾は命中をしているものの、大男に銃弾が効いているようには感じられなかった。


 それでも、男は撃ち続けた。


 しかし、すぐに全ての弾を撃ち尽くしてしまった。男の拳銃に弾を込めようとポケットから弾を取り出そうとしていた時、大男は大きな右手を握りしめて拳を作り、弾を込めようとしている男を勢いよく殴った。


 男の顔面に拳は命中し、男はそのまま壁に突き刺さった。


 大男が、殴った体勢から元に戻そうとした瞬間、ドアの横に隠れていた男が大男の背後に現れた。男は大きな声で叫びながら出しながら大男に向かって走っていき、持っていたグレネードとともに体当たりをして爆発した。


 爆発の瞬間、映像は建物の外に切り替わり大きな爆炎の映像になった。


 山奥の中にあったであろう一軒家は、大きな爆発とともに木っ端微塵となった。


 そして、爆発の後はその場に残っていた木片に火が燃えうつり、瞬く間に火の海となった。


 火の海の中で、膝をついている巨大な影の方へとカメラは移っていく。


 巨大な影が立ち上がり、カメラの映像は引いていき画面が暗くなった。暗くなった瞬間、画面の右下に「To Be Continue」と映し出された。



 僕は無くなりのポップコーンの入った容器に右手を突っ込んでポップコーンを探した。


 探し当てたポップコーンを右手でつかんで、口に放り投げた。そして、最後の一口であるコーラをストローで口に入れ、ポップコーンを胃の中に流し込んだ。


 流れているエンドロールを見ながら、頭の中で映画の内容を頭の中で整理した。最後、主人公でもなんでもない男がラスボスにタックルして死んだ瞬間がラストになるとは思ってもいなかった。これが、アメリカで大人であるというのが不思議であった。アメリカ人の感覚も鈍くなったのであろうか。


 エンドロールも終盤に差し掛かり、クラシック音楽の音も消えた。


 字幕を製作した人の名前がスクリーンに表示されてからしばらくして、映画は終了した。


 僕は一気に現実世界に戻された。映画館が明るくなると、見終わった人たちが立ち上がって出口を目指して劇場内の階段を降りていった。僕も、その流れに乗って出口を目指した。


 カップルであろう男女の男が見終わった映画のウンチクを語り、女が頷きなら相槌を打っている横を通り、僕は空になったポップコーンの容器とドリンクの容器を映画館の係員に渡した。


 映画館の係員さんが「またお越しください」と笑顔で声をかけてきたので、僕は軽く会釈をしてその場を後にした。


 映画館から出た僕は、両腕を空に向かって軽く伸ばした。


 「さて、帰るか」


 

 映画館の中の熱気が嘘のように、外は涼しかった。夏はとっくに終わり秋も過ぎたということを実感した。


 歩きはじめると、何人か人とすれ違った。終わったのは夜とはいえまだ21時。繁華街であるから人はまだまだたくさん街にいるようだ。


 僕の住んでいる家は、映画館からそれほど遠くは無い。これといった趣味がない僕は、家でやることがない時は、時々映画館に足を運んでいた。別に誰かと映画を見たいとは思わない。劇場を出る時は一人で映画のことを考えたい。出た瞬間に感想を共有したいと思う女性の気持ちは僕にはよくわからないし、逆にうんちくを垂れる男の気持ちもよくわからない。


 帰り道は、一人でゆっくり帰る時間がとてつもなく好きである。なんとなく映画の世界に足を踏み入れたような気がするからである。映画の世界の続きがそこにあるのだ。


 

 僕は鼻歌まじりに容器に歩いていると、電話が鳴る音が聞こえてきた。


 最初は、誰かのスマートフォンがなっているのかと思った。スマートフォンでも黒電話の音を設定する人がいるからである。


 しかし、しばらくして僕の予想は外れた。家に向かっていると、だんだんその音に近づいていくのである。流石に少し気になり始めた僕は辺りを見回して音の鳴る方向を探した。


 音の鳴る方向を検討がついた僕は、また再び歩き始めた。


 3分と経たないうちに、僕は目的の場所にたどり着いた。


 住宅街の路地の真ん中に、該当で照らされている電話ボックスがそこにはあったのである。


 僕は久しぶりに電話ボックスを見た気がした。


 赤い天井に、ガラス張りのボックスの中に緑色の公衆電話が置いてあった。僕が小さい頃に置いてはあったものの既に携帯電話が普及していて僕自身は使ったことがなかった。


 映画のワンシーンで主人公が恋人に電話をするときに、十円玉を緑色の公衆電話の上に置いて長電話をしているシーンを見たことがあるくらいである。


 公衆電話があること自体も驚きであったが、その公衆電話が鳴ることも驚きであった。誰かがこの公衆電話に電話をかけているということであろう。


 僕はあたりを見回し、誰もいないことを確認した。そして、電話ボックスの中へ入り電話の受話器をとった。


「もしもし」


 僕が受話器を取って声を発したが、音は何も聞こえなかった。受話器の向こう側には誰かが居そうな気配はあるものなにも音がしなかった。もちろん僕に対する返答などない。


 30秒間ほど待った瞬間、一瞬ノイズが聞こえた。ノイズが聞こえた瞬間、僕は驚いて受話器を耳から離してしまった。慌てて受話器を耳に戻すと、ツーツーツーと電話が切られた音がそのままなっていた。僕はそのまま受話器を戻して電話ボックスから外へ出た。


 僕は、時間を確認するためポケットから自分のスマートフォンを取り出した。


 液晶画面で時間を確認すると、23時を回っている。


 僕は歩きながらスマートフォンを操作して帰っていたが、ホーム画面の中に見知らぬアプリケーションが入っていることに気がついた。


 僕の使っているスマートフォンはセキュリティは良い方だと思っていたが、勝手にアプリケーションがダウンロードできるとは。次に買い換えるなら、違うスマートフォンを買おうと思った。


 僕はアプリケーションを消そうとしたが、消えなかった。何度も挑戦をしたが消えなかった。


 何回か消そうと挑戦している最中にアプリが起動してしまった。アプリの容量はとても軽いのかすぐに起動した。


 画面には、白い背景に4人の名前と緑色のバー、そして「0/50」という表示がされていた。名前、緑色のバー、0/50の順番である。


 4人の名前はローマ字で記載されているが、その中に見慣れた名前が書いてあることに気がついた。


「僕じゃん」


 これは、悪戯だろうか。別にアプリの中で僕の名前が表示されていたとしも僕に危害が及ばないのであれば単なる悪戯で解決できるだろう。だから僕は特に気にしないという選択肢を取ることも考えられる。でも、これが悪戯を超える犯罪だったらどうしようか。


 この表示されている四人が命を狙われているのだとしたら。この緑色のバーは怪しい。なんとなくライフポイントに見えなくもない。0/50はなんだ。何かのチェックポイントの数だろうか。こなすべきミッションの数だろうか。


 この辺りは日頃からテレビゲームをやっているせいか、想像が捗った。

 

 僕はこのアプリがダウンロードされた経緯を考えた。

 アプリがランダムに送られてきて勝手にダウンロードされたのか。しかし、その場合スマホを大して使わない人間にダウンロードされた場合、気づかない可能性もある。そもそもこれが何かのゲームだとしたら、そのゲームに参加してもらわないといけない。


 つまり、ランダムに見えて選ばれているに違いない。僕は選ばれたのである。何者かの手によって。


 このまま電話ボックスの前で立ち止まっても仕方ないと思い、僕は家に帰ることにした。



 静かな住宅街を抜け、いくつかの大通りの横断歩道を渡ると僕の住んでいるアパートについた。


 アパートの錆びついた手すりのついた階段を登り、2階の3部屋のうち、一番奥の部屋の扉の鍵を開けて僕は中に入った。 


 いつもの所定の位置に鍵を置いて、僕はいつもの定位置のベンチソファーの上に座った。


 ベンチソファーはだいぶヨレてきているが、まだまだ使える。大学生の頃に通販で買った安物のソファーだが、形が気に入っている。


 僕はもう一度スマートフォンからさっきダウンロードされたアプリを起動した。


 お馴染みの白い背景にローマ字表記の名前と緑色のバーが表示されていた。さっきと変わっているのが、1番したの名前の人が、1/50となっていることである。僕が数字から0から1に変わっていると気づいた瞬間に、今度は1から2に変わった。

 

 そんな簡単に数字が変わるのだろうか?少しだけ拍子抜けである。


 しばらくスマートフォンの液晶画面を見つめていたが、画面に表示される内容が変わることはなかった。


 スマートフォンの電源が自動で消え、黒い液晶画面に眠そうな僕の顔が映った。


 普通の人間は、このような状況になったら怖がるのだろうか。しかし、僕の感情に変化はない。むしろ、落ち着いている。落ち着いているのはなぜだろう。それは失うものがないからである。僕は自慢じゃないが働いてはいない。アルバイトを転々としているので、正確には働いていないわけではないが定職にはついてないフリーターである。


 スマートフォンは、皮肉にも最新型である。この国の販売方式を利用すれば僕のようなフリーターでも最新型の高価なスマートフォンが手に入る。でも結局は定価で支払うよりも高価な値段を支払っていることも知っている。知っていながら、僕は買っているのだ。安そうに説明しているのに、払っている金額は割高なのだ。

 

 黒い液晶画面に映る自分の顔を見つめて、スマートフォンの販売方法について考えていた時に急に画面が明るくなった。


「一人脱落しました」


 メッセージの送信元が「THE」となっている。よくわからなかったが、メッセージをタップしている見ると、先ほどの白い画面が液晶に表示された。


 一度ホーム画面に戻ってアプリの名前を確認すると「THE」と記載がされていることに気がついた。今の今まで気がつかなかった自分が恐ろしい。


 今度はアプリを開き直した。開きなおすと、2/50と表示されていた人の名前が赤くなっている。そして、緑色のバーが表示されていた箇所が、真っ白になっていることに気がついた。


 やはり緑色のバーはライフポイントなのだろうと確信した。そして、2/50から10/50まで進んでいるようだった。


 しかし一番気になるのはこの脱落した人の状態である。


 液晶画面上は、名前が赤字になり、緑色のバーが真っ白になっている。ゲーム的な発想で行くと死んでいる状態だろう。


 現実世界でも死んでしまったのだろうか?それとも単純にゲームから脱落しただけなのだろうか。



 いくつかの思いつく案を考えてはみたが、ベンチソファーの上で思いつくことに限界はある。結局のところ、ゲームに本格的に参加してみないとわからないのだろう。


 今日は、もう夜が遅い。明日のアルバイトの時間までに考えれば良いと思い、スマートフォンを机の上に置いた。

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