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 生まれ育った町の全貌を捉えられるほど歩いたころには、息が苦しくなるほどの切なさは消えていた。希望に満ち溢れる……ほど深い目的は無かった。

 昨日ゼロに戻った後の話し合った結果、ゼロは様々な情報収集をしながら兄弟機に接触する事にした。しかも、俺との契約で重要な事や緊急性がない限りは、ある程度情報収集の場所をこっちが選ぶことも出来る。

 ただ、ゼロの車体は目立つ。物凄く目立つ。

 魔道具が火を出すような現象をさせるのではなく、純粋に動力となっているのは遺跡にあるような物がほとんど。過去の人たちは移動よりも、住みやすく広大な土地に根を張り、身近に生活必需品を集めて輸送を必要としない社会を作り上げていたようだが、水害で移動するような目にあった。一部の物好きが出掛けるくらいで、移動用の出土品は圧倒的に少なく、ゼロは思うように動けないのは火を見るよりも明らかだ。


「ゼロ。偽装を解いて」


 陽の光の下だと違和感まる出しだが、動かなければ野生動物くらいは騙せそうなのっぺりとした風景が消えて、深緑の車体が現れる。反対側の風景を投影しているそうだ。

 操縦室(コクピット)横のドアから入り、荷物を下ろして座席に座った。


『シートベルトを』

「まだ出発しない。行先決めないと」

『町が近いです。危険地帯への移動が望ましいです。人の情報ネットワークは未確認の脅威に対して敏感です』

「安全地帯より危険地帯の方が安心って、なんの冗談だよ」


 紹介状がどの程度有効なのか文面を見ようとしていたが、ゼロの言う事ももっともなのでシートベルトを締めて出発した。

 無人広域調査車両だけあって俺が運転しなくてもいい。人が関わらなければゼロの方が優秀そうだ。


『周辺の勢力図を教えてください』

「勢力図?」

『町や渓谷の名前。風土に栽培している植物などです』

「良いけど、あんまり知らんのだが……」


 通信設備が限られている以上、一般人に情報をあまり公開していない。

 電波自体が今のところ聞いたことない。紙も印刷物もあるが、印刷機は技術を秘匿されているので、もしかしたら電波もあるのかもしれない。衛星通信があるとは思えないけど……。


「まずこの国はシェイク。今いる場所は西北西の端っこで、ここから東南に行くと海に面して交易都市ステア。このステアを足掛かりに建国したらしい。って言っても、今の交易都市は当時の場所とだいぶ違うらしいよ。何でも当時のステアは海に沈んでいるとか……。

 国土の中央付近にフロートがあって、ここが農業の中心らしいよ。北の方にシェイクって都市があって、そこは鉱山とか林業が盛んだって事ぐらいしか話を聞かない。

 ぶっちゃけ今までいた町なんて、ステア北西の町だから、さっきも言ったようにほとんど情報なんて来ない。名前があるような街はもっとあるんだろうけど、話に上がらなくても生活できるって状況だよ」

『では西は?』

「グラスウィルって国。でも興味ない人がほとんどで、どんな国かってのも知らない」


 害が無ければ情報は広まらない。というのがこの世界……いや、商人だったら気にするのかもしてないのだが、俺の家族や近所の人は気にしなかった。……ゼロの事を考えると冒険者より商人になった方がいいのか? どうせ目立つのならトレジャーハントで見つけたから、商人になったと言えば狙われる事はあっても無理に隠す必要はない。一度大きな街で動力持ちの遺産を探してみるか?


『調査を第一とする私には耐えられない情勢ですね』

「俺も早くて半年、安全策を入れれば3年後の予定だったからね。あっ! どうせなら北のシェイクの方に向かって」

『地殻変動で私の知っている地形と違うので方角だけでは予想がつきません。具体的な指示を』

「人に見つからない範囲で北に向かうだけだよ。ちょっと考えたい事があるんだ」


 商人。割と良いかもしれない。店を構えないのなら火力を持っていても問題ないだろうし、一つの場所に居なくてすむってのは俺にとって魅力的だ。ついでに商人情報も拾えてゼロも満足だろう。うん、これで行こう。


「ゼロ。大きな街の情報調べて、輸送業やるかも? それと、移動中に遺跡の場所特定できる? 車を流せばゼロはその分行動しやすくなるだろ?」

『見つけられると思いますが、調査以降発展したのなら数百年後になり、私が認識出来ない可能性があります』

「たぶん大丈夫だと思う。馬車って結局動力を外付けにしたやつでしょ? たまに見かける馬車の形を見ても基本同じだし、そんなに変わってないと思うよ」


 ゼロは無限軌道で移動するが想像していたのよりうるさくない。履帯の張りや凹凸も調整できるので跡がつきにくくすることも可能なそうだ。それでも下草がある林の中を無音というわけにはいかず、夕方と呼べる時間で人の領域外での音は魔物を呼び込むことになる。


『左後方から生命体が迫ってきます。対処法を指示してください』

「武器は!?」


 操縦室の一部が出力装置になっているらしくゼロの車体が立体で投影され、操縦室の上と車体の左右の一部が赤く色づく。


『レーザー兵器が搭載されています。攻撃の意志はありますか?』

「オウ! 移動中に向かってくるのは大抵魔物。たまに腹をすかした猛獣。どうせ襲ってくるんだ。やっちまえ」


 ゼロが停車し、操縦室と左車体からレーザーが時間差でいまだ視認できぬ敵を遮るように走った。外気を遮断するとここまで勘が働かなくなるびっくりした。

 光の残滓が消えていく前に、頭と前足を失った四つ足の胴体が倒れこむように視界に入った。


「鹿の胴体? いや、山羊かな? だとしたら追っかけて来たなら鎚山羊かな? アレの角拾ってきていい? 芯が固いから、上手く加工するとゴムハンマーみたいに傷つけないんだよ」


 ゼロも興味が出たのか傍まで移動して停車してくれる。

 レーザーで切断された鎚山羊の頭は近くに落ちていて、切断面が焼き切れていたが、心肺機能が高いのかいまだに血が流れだしていた。

 鎚山羊は魔物の一種で、胴の長さで2m。角まで入れると3mの雑食。その大きな角を使って突進したり、体を持ち上げて叩きつけて撲殺したりと凶暴な魔物で、複数人で弓矢で機動力を落としてから仕留めるのが一般的である。


「そう言えばなんでレーザー兵器なの? もう少し魔法的なのが……」

『何を言っているのかわかりません』

「機械はロジックがハッキリして、理解は出来なくても仕組みがわかる的な? 魔法は個人の感覚が重要でしょ?」

『……クリスの前世では機械的な仕組みが得意な地域に暮らしていたのですね。高所から物体を落とし、衝撃などの力をあると仮定して計算するように、魔力にも理論上の0が存在して計算されています。ただこの理論上の0は、数種族の出身者でないと人では感知しにくいモノです』

「位置エネルギーみたいに止まっているようでいて内包しているエネルギーがあるって事か? 納得しにくいが利用しているって事はそうなんだろうな。

 あー、ゼロはそれを感知しているって事でいいの?」

『はい。ただし、生命体ほど多角的に感知しているわけではありません。ですので人工精霊と呼ばれています』


 ゼロの話では魔力に敏感な種族を精霊種族と呼んでいたようだ。そして魔力を感知し利用できる機能を持った人工知能を人工精霊と区別したらしい。

 また古代文明では出来ないことを良しとせず、薬など様々な方法で魔力感知が出来るように研究され、精霊種のようなオリジナルには足元にも及ばないが近い感覚を身に付けたそうだ。

 ゼロの仮説だが、精霊種以外にも魔力を感知しやすい個人がいて、研究の結果強化されて今に至るのではないか?との事だ。


『クリス、何をしているのですか!!』


 話の途中で鎚山羊の後ろ脚に紐を括り付け、ゼロの後部に吊るそうとしたら止められた。


「ついでだから血抜きを―――」

『―――やめてください。引っ掛けないで』

「いいじゃん。今日は出来るだけ移動して、中で休めるんだから時間もったいないだろ?」

『車内に持ち込むのは許可します。ですが、血抜きの支え……しかもそのまま走行するなんてありえません』


 ゼロの否定に唖然とした。確かにこの鎚山羊を仕留めたのはゼロだ。角は武器にもなるが土系統の魔法の媒体にもなる。肉は……100人分ぐらいあるんじゃないか? 今やらなきゃ無駄になっちゃう。不味くなるのがわかっていて、放置するバカはいない。


「その方が効率いいじゃん。どちらにしても、人間社会に関わるんなら、お金はあった方がいい。情報仕入れるきっかけにもなるし……」

『正論です。正論ですが、私にも譲れないのもがあるのです。キャンプ中の支柱代わりなら許可しますが、移動中には正規の外部装備以外は付けたくありません』

「あー。一つの仕事に集中したいタイプ? 真面目だなー……って、メカっぽさ(見た目)から効率重視だと思ってたよ」

『それは心外です。出来ない・したくない事はハッキリ拒絶しないと、どこかに負荷がかかり破損の恐れがあります。特に整備されてない道でそのような物を吊るすと衝撃で金属疲労がたまります。それを直すのは時間と魔力のむだです』


 俺と行動するんだから、基本夜は動かないんだ。魔力は減るが時間は余るんだからよっぽどやりたくないんだな。



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