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そんな詐欺まがいの事認められるか! と思っていたが、話を聞くにある程度は仕方がないという事は知った。
知ったが、納得は出来ない。
「広域調査車両は複数あって、一般人には公開できない事を調べていた。
その後、後継車両が専門家と共に調査する計画まではゼロが把握している。……って事だな?」
『一部規制の対象になっているので返答は避けます』
とりあえず、落ち着くためにコクピットに搭乗者の遺体は無いのか?と聞こうとしたら、そもそも無人広域調査車両に必要のない装備が多い。貨物室もあったが途中破棄したらしいが、今あるミーティングルームもゼロには必要なかった。それなのにあるという事は、装備する必要があるとなる。互換性を高める為に装備しているらしい。他にも05の名の通り、それ以前のナンバー車両がある。よほど特殊な場所でない限り調査をするのに一台ではないだろう。とすぐに思いつく。
もちろんこの情報を得る為には、「調査車両は何台あったか?」『機密です』「05って事は調査の試作実験や耐久試験が通ったって事?」『ハイ。環境に合わされた量産型です』「じゃあ、壊れた場合は何処かで修理?」『貴方を情報取得者と認めます。破損の状況によっては兄弟機からの交換や換装が可能です』との事実だけを並べるやり取りが必要だった。
「公開できないって言っても、こっちでは何かから逃げてきた。って話が伝わってるから、人が住めるかどうかの調査だろうね」
『回答を拒否します』
これはキーワードになるモノが揃ってないって事だな。
「まぁ、仕方ないか。それでなんでこんなところに水没していたんだ?」
『水害です』
「やっぱりかー。50年に一回は何処かの地方で水害が起きてるらしいから、それに当たったみたいだね」
『その情報は確実ですか?』
「全世界を範囲にしたら、もっと短い間隔だと思う。この国が支援するから穀物の値段が上がったんだーとか、間接的に関わるくらい近場なると、50年周期らしいよ。近いって言っても、隣の国かその隣の国くらい離れてるから実感ないけど」
その後はいくつかの質問をしたが、混乱を与える情報に当たる為に答えられないとの答えがほとんどだった。当時の人の話を聞いても、避難中だった以上の情報を持っていないそうだ。
ほとんど収穫は無かったが、ゼロにとってそのやり取りが俺の思考方向を知る手段らしく、話を切らないので有意義な会話らしい。
「ゼロがいたから知りたくなった事が全滅したってのを知ったよ。いつもと違う方向に頭使って、ちょっと疲れてきたから、原点に戻る。ゼロは走行可能か?」
『走行する能力はあります。ですが、車体が倒れているので出来ません。あと数ヵ所固定すれば脱出可能です』
「了解。ああ、大切な事忘れていた。元々この車両が動くんなら欲しかったんだ。俺の指示に従うか?」
『通信機器の故障により送信は出来ているはずですが、受信が出来ていません。機密回線の為、兄弟機に接触する必要があります。協力を頂けるのなら、任務に支障が出ない程度ならば指示に従います』
「自動修復とかないの?」
『機器は製造可能ですが、識別コードが破損しました。兄弟機に接触し、データを更新する必要があります』
通信機器は沈んでいる間に少なくなった材料で作ったが、時間などによって変化する識別コードがリセットされた状態になるらしく、送信だけやっていたらしい。それと、自動修復にも限界があり、小さなヒビなら負荷がかからないならなんとか修復できるそうだ。
「ふーん。そこまで厳重なら任務優先じゃないの?」
『貴方がいる時点で計画も完了しています。ですが、確認する必要があります』
他にも状況次第で公開できる情報があるのだとか……。人がいる時点で完了ってのと調査で、住居可能地域を探していたんだろうが、もう少し詳しく話があるのだろうか? そう思いながら、車体を動かし今度は湖底側のドアから出る事になった。
数ヵ所って言われ頑張ったが、2日も掛った。
固定する角度が大切で、何度もやり直しさせられた。いや、理屈は理解できるんだが、その方向にちょうど良い木が無くて、何度か話し合う為に潜る必要があった。
一人だったら、固定して動かして失敗を何度も繰り返す羽目になって、時間がかかるどころか、脱出できなくなる事もあるだろう。それを回避する為には必要なのだろうけど、少しはこっちの苦労も労わってほしいよ! 理不尽な事言ってるって知ってるけど、湖面から出るのだって何度もやってるとくたくたになるんだよ。
「行けるか?」
『はい。ですが、外で待機した方が安全ですよ?』
「休止していたのが、復活するのを中から見るのは浪漫だろ」
『待機状態です。それと、万が一の可能性で貴方が出られなくなってしまいますよ?』
この2日間で少しずつ否定の言葉でなく、ツッコミのような訂正を言うようになってきたゼロ。笑えるようなボケは出来ない俺だが、許しておくれ。
浮いている前足をゆっくり引っ張って、斜めのコクピットからでも起き上がっていくのがわかる。この後は湖底の前足を押して、車体を元に戻せばいいのだが、長い時間に積み重なった堆積物に何か影響が出るのかすべてを把握していない。
『クリス。お願いします』
「ほいよ」
ゼロの計算上、斜めになった状態から1日掛けて起き上がらせれば問題はないはずだが、ここにもう一人手が空いている人がいる。しかも無駄に凝るタイプの魔法を使う人間が……。
コクピットから通路を通りながらも天井になった壁を触りながら魔法を発動させる。車体に振れている部分の堆積物を球状にする魔法だ。
火や水などのいくつかの攻撃魔法では、形の無いものを礫のようにしなければ飛ばすことも出来ない。特に火は物質ではなく、現象なので魔力で核となる物を作り礫となる。
攻撃魔法の仕組みを分解し、模型なんかを作るのに慣れていたからこそ、すぐに提案できた事だ。
これによって堆積物と車体の間の摩擦が減り、沈んでいる木や岩も流れ落ちていった。
「ゼロ~。終わったよー」
『だいぶお疲れのようですね』
「魔法もそうだけど、集中して仕事するなんて一時間もやってりゃ疲れるよ。って言ってもゼロにはわからんか。下手すりゃ千年二千年単位でここにいるんだろ?」
『司令部が移動したとしても、後を追えるような情報を出すことは出来ません』
愚痴を言いながらゼロを作った人物達の情報収集。いまだ成功したためしがない。複数の人がいて、職人の他に調査に必要な様々な学者達が関わったくらいの、当たり前の事しか話さない。
クリスはゼロを手に入れ戦力を強化し、どこへ行っても男でありたいと思っている。それと同時に魔法の仕組みを分解したりと、知りたがりの性質を持っている。
非常食なんかが残っていれば、当時の食習慣から切り崩せるのだが、ゼロは第一弾の無人広域調査車両で必要とされなかったので、これも出来ない。とにかく当たればめっけ物の精神でゼロにちょっかいを掛け続けていた。
生きるのに賢い方法ではないのだが、前世の知識を引き出せるクリスが怖がらずに情緒不安定にならなかったのも、諸々の恐怖心より好奇心の方が高かったからでもあった。
『席にお座りください。脱出します』
運転席に座りベルトで体を固定して「発進!」などと言っても、『まずは車体を正常にします』との連れない返答。
障害物もなくほぼ横向きになった今ならよほどのことが起きない限り失敗はなく、事実水中が濁るだけでゼロは湖底を進み、無事地上へと上がる事が出来た。
「なんか、音楽がないと思った以上に感動が少ない」
『……』