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湖底の前足近くに岩を転がし、浮いてる足もロープを括り付けて、動いたら車体が起き上がるんじゃないかなー?と期待を込めて車体に乗り込む事にした。
結局王道の車体の横のドアから入ることにしたが、泳いでからドアを開けた時に水が入らないようにするのが出来なかった。
近くにある木を伐り、二本の丸太で筏もどきを浮かべて水を退かしながら飛び降りた。
着地で滑りそうになったけど、なんとか踏ん張って中に入る。
水の層を通した柔らかい光に一瞬車内が入り、備え付けの家具を照らす。
心臓がきゅっと絞めつけられたような感覚に襲われたが、絞め付けられる原因を思いつくのを後回しにして、扉を閉めると水に押されて扉が軋む。
「あっぶねぇー。これ以上魔力が持たなそうだったわー。それにこのトレーラー…… あれ?カーゴだっけ? どっちでもいっか、意外と人が住める造りなんだな」
薄ぼんやりとする室内は、少しでもバランスを崩したら逆さまになりそうなミーティングルームらしき造りで、あちこち手を伸ばしながら運転席に向かう。
狭い通路を通り運転室の扉を開くと、窓からの明かりでホッとする。やはり他人の手で作られた暗い人工物内部は予想より恐怖心を高めるようだ。
『こちらは無人広域調査装甲車両05です。貴方の情報を欲しています』
「お、おぅ」
いやいや、待って……。普通は鍵的な物差したりしてから、起動するもんじゃないの?
「情報というのは私の個人情報でしょうか? それとも現在、ここにたどり着くまでの状況を説明してほしいと言ってるのでしょうか?」
車内の運転席で見つけ出したマニュアル読んで、苦労しながらもこの広域調査車両ってのを手に入れる想像を勝手にしてたので、予想と違い混乱したせいか口から出た言葉は他人のように思える。
『貴方個人の事になります』
「……理由は?」
『貴方が長寿命種特有の特徴がみられません。それにより、こちらの求めている情報を持たない。又は、不正確な情報を得る事になります。現在、単独での情報収集に限界がある為、検証出来ません。故に貴方以外の情報は必要ありません」
「……」
『その他では―――』
「―――あっ!ちょっと考えてただけだから、もういいから!」
『では、貴方の思考を話してください。それも含めて情報になります』
それくらいなら……。と思ったところで、腰を下ろす場所がない。どこか適当な場所は無いかと聞くと、部屋自体がゆっくりと回転し可動限界になったら、運転席もゆっくり動き座れるようになる。
『何か問題が?』
「……うん。座れるんだけど、部屋が斜めだから変な感じ」
『これ以上操縦室を回転させることはできません』
そういう意味じゃないんだけどね。との言葉は飲み込んで、席に座った。
両足の位置にそれぞれペダルがあり、左右の肘掛けにもレバーがある。
『足元は無限軌道の操作ペダルです。ハンドルは外付け装置の操縦桿です』
「なるほどね。ところで、アンタの事なんて呼べいい? 情報を欲しがる判断。少しの間で相手の思考を読むところ。もはや一人の人格だろ? 俺のことはクリスと呼んでくれ」
『了解しましたクリス。無人広域調査車両05です。別称や個称は確認されておりません。呼びやすさと特定しやすさから、05が妥当だと判断します。
また、そのような判断を下すのは人工精霊で、人格とは呼べません』
人格があるって事を全否定ですか……。
『少しでも情報が欲しいので、ため息の理由も話してほしいのですが?』
独り言を意識してやってても、高難易度の要求を突き付けてきた。作業の手順とかならスラスラと言えるんだが、返事が返ってくるとなると流石に恥ずかしい。そう言ってるのに、それでも口に出してくれだなんて……。
「まっさらの状態で名前なんて、そう簡単に思いつかないのを見越して提案してるだろ? そういう気配りができる事が人格がありそうだと思ったのに、否定されちゃうと結構クルもんあるよ。
それとアンタのことは、ゼロって呼ぶよ。ゼロゴって呼ぶと、ゼロ号ッぽくなるからね」
『了解しました。ゼロで登録します。以降、ゼロやん・ゼロちゃん・ゼロ先生なども範囲に入ります又ゼロさんだけは別機体と混同する恐れ―――』
「―――! 待て待て待て、なぜそうなる」
『広域調査車両05の05は製造番号です。同時期に製造された03も現存し―――』
「―――そっちじゃなくて、人格じゃないって言ったのに『ちゃん』とか『先生』つけるんだよ!!」
『過去に開発担当者がそのように呼んでいました。貴方が私に固有の人格を求めているので形から入った方が効率が上がります』
出来の良すぎる人工知能だったから、情報得る為に人扱いしたら否定され納得できなかったが、受け入れたとたんに人扱いを受け入れるなんて気遣いされる……。
しかも名前呼びされたがってるって、変だろ。
「なんか色々納得したくないんだけど、諸々の事を置いといて話を進めるぞ。
ゼロは何の目的で生まれて、何故ここにいるんだ?」
『貴方に任務を伝える事は、禁止されています』
なんでや!