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履帯を発見してから5日ほど過ぎた頃、ようやく引き上げる前の調査が出来るようになった。
かなり遅れたのは、日も落ちる頃に三日月湖に使ったまま何が必要かわ考え、対象の大きさや湖底を見て可能か不可能かを考えていたら体調を崩したからだ。
計画を立てる時と現場での状況判断する時などで『必要とする思考』は違うのだが、2つ同時にやれるほど得意じゃないみたいだ。おそらく前世の知識がある分、決定のメリット・デメリットが瞬時に浮かび複数の視点を同時に持つからだろう。……決して頭の切り替えが遅いわけではないと信じたい。
「こういう時って、人手欲しいけど下手に入れるよりは一人の方がましなんだよな」
どちらかと言えば暖かい季節。それでも前回は体調を崩したのだ。今回は拠点からテント代わりになりそうな布を何枚も用意して風除けと、すぐに火に当たれるように種火と燃料の薪を準備して片手鍬などを持って三日月湖へと入る。
履帯まで潜り、陸からでも場所がわかるように紐を括り付けて、ウキがわりの木片を水面に浮かぶよう調整する。
その後、片手鍬を使い水草を刈ると堆積した物が水中に舞い上がって完全に視界が悪くなった頃に湖を出て火にあたりに行く。
これが正しい調査方法か知らないが、予想以上に冷えた体を温めつつウキ近くの岸を軽く見る。
目標の位置は三日月湖の曲がった所で、三日月の中央からちょっとだけ外側に向かった場所。少し深くなっていく場所だ。
この渓谷は注目されていない。そしてこの場所より下流には平地が広がり、上流に少ないながらも古代文明の跡がある。この地方の古代人は水害を避けるために居を置き、何かしらの災いから逃げたのではないか?と言われている。だから、こんな下流の三日月湖にはトレジャーハンターは調査していなかった。
だが、川の流れを変えるほどの……、三日月湖が出来るほどの水害があったのなら……。そう考えると、腑に落ちた。
「ここに履帯があって、上流に細かいパーツが発掘……。もしかしたらもしかするかも?」
履帯の場所から車体があるはずの辺りは水草はあまり育ってはなく、湖底も盛り上がっていた。ありえないとは思いつつも戦車がそのまま残っていたとしたら……? 都合よすぎる想像、もはや自分でも妄想と言ってもいいほどワクワクした。
結局は履帯を発見したのではなく、履帯の一部を発見しただけだった。どう違うのか?と聞かれても、何となくだ!
とにかく、車体らしきものが横倒しになり、動けなくなって放棄された物の様だった。
「形としてはスノーモービル? ただ接地面が全部駆動系の履帯があるってところか?」
重量感のある車体は全体的に後部にあり、それを履帯が二本左右についていて、犬が伏せをした状態の前足の部分にも履帯が左右についている。
しかも本体が倒れた後に前足を動かしたようで、今湖底にある方の前足だけが犬が立ち上がるような形のまま放置されているのだから、変形する戦車というロマンあふれる物なのだ。
水中でまだ細かいところまでは見れないが、伏せた犬のようである。前足の間の高い位置にある運転席がちょうど犬の顔のようであり、体がトレーラーのような作りで、上部と側面に出入り口があった。
今でこそ大体の形が判明しているが、初日は「ありえないけど……」と思いながらも水草を刈っていた。
二日目は履帯周辺を発掘し、短すぎる履帯に絶望したが、水面側の瓦礫をどかしたら、ただの前足部分だと知ってからは「高速機動の戦車か!」と操縦している姿を想像した。
三日目は雨で一度だけ潜り、車体の上の汚れをどかして終了。、四日目に湖底の方が少し見えた。という感じだ。
「ありゃ確かに動けないなー。どうせ変形するなら足だけじゃなく手もあればいいのに……。戦闘用じゃなくて輸送用かな?」
焚火に当たりながら見ているのは魔法で作った現場の模型。こんなの作らなくても頭の中で出来ている。出来ているのだが、雰囲気と見落とし防止に魔法技術のスキルアップと一石三鳥。
水中で正確な距離を一人でなんて計れないけど、魔法だったら融通が利くから便利だ。どうも全体を一気に作るのではなく、パーツごとに作って組み合わせる方が得意なんだ。これは魔法の構成にも言える事で、一つずつ魔法を作るのではなく、『属性変化』『形状』『制御』など分けて考えるから汎用性が高い分、すぐに真似される可能性が高い。
近くで見ると大きくて不安になるんだが、模型で見ると運転席の高さも前足が邪魔にならない高さになっている。元々は全体の3分の2は軽い堆積物だったのをここまで一人で発掘した自分を褒めたい。ただ、車体が転がっている場所が凹んでいる場所にすっぽりと嵌っている為に、前足を動かしても宙を蹴っているので動けなくなったようだ。
「でも、なんで引き上げなかったんだ? ってその後も水害が続いたからか……。まだ動くかな? 動かないとちょっと辛い」
古代文明の遺物はまともに使えば今でも使えるのが多い。普通耐久年数超えるだろ。と思うが、魔法工学と呼べばいいのか?燃料となる魔法系の技術と、動作作業の機械部分とセンサーなどの電子工学と魔法技術が合わさってある程度自動メンテナンスをしている。
前の知識では、魔法の概念が祟りや何かが噛み合ったぐらいにしか認識していなかったようで、そこら辺は役に立たない。
厳密には少しばかり違うが、金属疲労と呼ばれるものがきちんとした魔法工学を使えば起きないのだが、ギルドなどの話をまとめると、その技術も古代文明に比べればだいぶ落ちているとの事。古代人スゲーと思ってしまうが、植物や魔物に関しては今の方が上なんだそうだ。
「動くと仮定してー……ってか、遺物なのに動かなかったら泣きそう。入るときは水退かせばなんとかなりそうだけど、車体戻すのは魔法でもキツそう。一度入るしかないな」
魔法は便利だ。万能ではないがとても便利だ。
個人差はあるが、常温で人の力で形を変えられる水などは短時間なら動かしやすい。これが形を制御するとなると、途端に困難になる。
ちなみにちょっと魔力がある人が使う攻撃魔法で一番使われているのが、石礫だ。
後は技術職で、礫を自在に操る、所謂魔法使いタイプ。
罠のように条件を設定して動かす、魔道具職人タイプ。
物質の特性を強化する、魔法薬師や強化魔法使いタイプに分かれる。
まぁ、畑を耕している人が剣を持つ事もあるように、ほとんどの人は魔法は使えるが目に見えて効果があるというのは少なく、魔法を使わない方がマシな人が多い。
俺は残念ながら、魔法使いタイプほど自由に動かせないが、猫じゃらし位の精度なら動かせる魔道具職人タイプだ。ものすごく鋭角に動かせるが、必ずしも当てられない。だけど、相手の態勢崩せるからそれでいいと思っている。
「調査計画を練る為の調査がサルベージに変わっちゃったよ。まっ、元からそのつもりだったんだけどね」
魔力が枯渇しないわずかな時間に何処から入るべきか? ある意味潜入ミッションの計画で頭がいっぱいになっていた。