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「ワシはこれだけあれば構わんが、正直勿体無いと思うんじゃ」
ハンドルが左右それぞれのリールが3個ずつ、テーブルの上に並んである。その横でルイは今日も揚げた魚をバリバリと朝ごはんにして食べていた。ちなみに俺達の朝ごはんは昨日のスープだ。
ちなみに俺の横には右手ハンドル、ウォルター爺さんの横には左ハンドルのリールがあるが、竿がへし折られてる。今朝の釣りに行った時に折られたからだ。残念ながら折れた時に負荷がかかって、糸が切られて疑似餌も失ったそうだ。
合計8個のリールは今朝には出来ていた。調査の名目で渡すのはありだと思うが、流石にこの量は無しだろ? 俺はゼロの何とか指揮官だったよな? 物資の無駄遣いになるんだから、これは無しだろー。
「勿体無いって言われても、商売に……それどころか、工房を作る気なんてないよ。やりたい事いっぱいあるし、ゼロとの約束もあるけど、何より俺がいろんなところ行ってみたい。そんな奴が、せっかく移動手段があるのに一つのとこに居るのなんて無理な話でしょ?」
移動手段が多ければ、お金をしっかり稼いでから旅をした方が予算も余裕があって楽しめるのだろうが、そんな物がない今は、体力と潰しが効くうちに色々回りたい。具体的に言うと22・3歳までは旅を続けたい。
「それはそうじゃが、釣り人にはあの糸巻きは広まってほしい。今までの釣りだと、人とが行ける所だけの魚ばかりが釣れて、人のいない所に行こうとして流される子供が多いのじゃ」
「え!」
「ここじゃなくて、街の方でじゃ。漁業権なんてもんがあるが、子供が家に持ち帰る2・3匹なら認められとる。それで生きておる子供もおるんじゃがな……。流石にそれを聞いた事がある身としてはのう……」
いわゆるスラムの人間か……。
一瞬、リールが買えるのか?とは思ったが、裏ギルドの事を思い出して、あそこら辺が秩序を守るなら貸し出すような事しそうだ。
「知らなかったら無視するんだけど、知っちゃったからな……。ゼロ、もっと安く作れるか?」
『可能でしょうが、どの金属が安価な物なのか知りませんね。それと、性能は落ちますが、歯の形状を変えて、鋳造で作るくらいでしょうか?」
市場を知らなかった。と言っても、一般生活に直結していないので、グラム当たりの金属の値段なんて把握している人はいないだろう。
「俺達は早くてあと二日で出るから、出来るだけ安く簡単にってのでお願い。どれくらい時間がかかる?」
『2時間あれば見本は出来ますよ』
「早ッ! そんな早く出来るのもんなの!」
『基本は変わりありませんし、時間はいくらあっても足りません』
ゼロの行動の速さにヤバい状況なのか!と焦りが出てきた。見本作って渡して、「こういう道具があるよ。使ってみれば?」じゃ、ダメみたいだ。
「他にも竿の問題もあるじゃ」
「普通のだと手元が硬くて先が柔らかいけど、ロッドは根元から曲がった方がいいだろうしね」
「うむ。そこは、この糸巻きを持って行って細工師に説明すればいいじゃろ」
「心当たりあるんだ」
「そりゃそうじゃ。細工師から子供の話を聞いたんじゃからな」
疑似餌の話も出て意外と関連物が多くて大変で楽しかったのだが、2時間後ゼロがリールをまとめて作ったらしく、5個出来上がったと言うので、お腹いっぱいになって眠ったルイを車内のベットに寝かせて都市シェイクに向かった。
改良点は、歯を緩やかに変えた事と、糸が巻かれている部分が別の金属になっており、そこは木製でも問題ないとの印らしい。もしかしたらゼロが知らない丈夫な木があったら、他にも木で代用できるかも?との事。
正直「客人の知り合いの商人居ないか?」と聞かれたとき、悪役っぽいセール氏と裏表が少なそうなイメージの獣人の水守を会わせていいのか迷った。だけど、他にいないから仕方がなかった。
あと、どうでも良いけど水守ってやっぱり重要人物だった。門を通るときに徴収されるはずのお金が免除になった。丁寧な態度とは言えなかったが、門しか知らない兵士の嫌味に対して権利を主張できる立場の人だった。ちょっと意外な面を見た。ただ、話は通っていたのか、ゼロはシェイクの中にどさくさに紛れて入れようとしたのに残念だった。
「まったく……。どうせ巻き込むなら、初めからにして欲しいですね。こんな面白い話、導入から経験したかったです」
先日セール氏と利用した宿は商人御用達の宿のようで、小さな談話室が利用できた。荷物の事もあるし冒険者を客層にしている宿とは設備が違うようだ。
その談話室に水守のウォルター爺さんの名前でセール氏を呼び、リールと疑似餌のサンプルのセットを渡した。どんな影響が出るか知らないけど、門兵も顔パスできる水守が出向いて呼び出したとの事実が、耳をそばだてている泊り客の商人達から伝わり、動きやすくするのだそうだ。
セール氏はほぼ最初からなんだが、起承転結の起から関わりたいタイプらしい。だけど、起承転結の起承転には関わりたいらしいが結には興味ないそうだ。生き様や考え方に興味があるらしい。正直ちょっと理解できないのだが、売って役立てた後の使い終わった所謂「こぼれ話」が聞きたくないから結は聞かないそうだ。人はともかく物のこぼれ話は自己犠牲ばかりで商人からしてみれば面白くないどころか悲しいらしい。色々な考え方があってビックリした。
「任せていいかのう?」
「そうですね……。私にも卸してもらいますよ。それと一年ほどはこちらに優先させてもらいたいですねー。何分町々を移動するので広く売るには数が無ければ……」
「うむ。それは仕方がないのじゃが、とあるところにいくつか売ってほしい。此処より面倒な場所もあるじゃろ? こう見えても水守じゃ。約束さえ守ってくれれば同じ水守に手紙を出そう」
「へー。いいんですか?そんな事やっちゃいまして?」
「どの水守も子供の事故だけは見とうない。年を重ねると知り合いばかりになっての。それを紹介するだけじゃ」
「なんでセール氏はいちいち台詞が悪役なんだ?」
呼び出し建前、ウォルター爺さんが経緯を話してくれたのだが、そこは大人の商人。何がしたいのかをセール氏はしっかり把握して動いてくれることになった。
「何言ってるんですか? クリス殿も動かないと間に合いません。一・二日の遅れならば予定に入ってますが、これは無理です。それ以上遅らせると相手に迷惑が掛かります」
「え?」
「そうじゃな。ワシは竿を作ってくれた細工師と水守への繋ぎをやろう」
「わかりました。それなら私は、商人ギルドと鍛冶でしょうね。幸い此処ならソルト近くですので、多少の無茶な要求でも鍛冶師が多いので通るでしょう」
「え? すご……」
「何をボケッとしとる。制作と公共の方は得意なワシらがやるから、子供の方は担当じゃ」
「え?。あっ、ハイハイハイハイ。や~とわかった。闇ギルド連中と仲良くしてスラムに買ってもらう……って事か!」
元がウォルター爺さんのスラムの子供が事故に合ってほしくないから根源の話しだ。ちょっと怖いが書類みたいなの書かされるよりはマシか……。
ついでだからと裏ギルドの繋ぎが取れそうなとこ聞くと、ウォルター爺さんはかなりヤバめの場所で、セール氏は冒険者ギルド近くの屋台街のようだ。
「そういう事じゃ」
「では私は早速動かせていただきます」
「あっ、金属の価格ゼロに言っといてもらえます? 使用に耐えられる安い金属にしたいんで」
「価格を抑える為ですね。確かに私の専門ですね」
夕方の仕込みの為に子供達がすり鉢や薬研やらで、くず肉を潰して棒に巻きつけている。他にも鍋を掛け混ぜている子供もいる。
解体をしている冒険者ギルドの近くではよく見る光景だ。ちなみに猟師の実家だと、脂や筋に膜なんかを取る肉掃除は俺の役目で、冒険者ギルドのように捌く数が大量だと大雑把に廃棄される。その廃棄するのから利用できるのを使っているのがここの屋台達だ。
そんな中一足先に、多くの串を焼けた銅板の上を転がし、たまにヘラで銅板の上のソースを集めて、また串焼きを転がしている店があった。
「はい、いらっしゃい。サッパリののだったらすぐできますよ」
「せっかくだから味見してみたいけど……。肉でサッパリ? 一つ下さい」
「ええ。ウチ等みたいな家業だと、いいお肉は手を出せなくって、焼いてるとねー、パサついちゃっていろいろ工夫してるんですよ」
にかっと笑いながら長い串の一本を壺に浸けて、端にある銅板の敷かれていない炭火の上で炙り焼きをしてくれた。あの壺の中は、匂いからタマネギベースの何かだろう。
「ヤバい。肉の焦げた匂いでお腹が空いて来た」
「奥にあるパン屋で買うのなら、鉄板の煮詰めたソースサービスしますよ」
「ちょっと興味あるけど、内緒で食べちゃうと恨まれそうだし、お仕事頼みたいんだ」
「……へー。俺らに仕事頼むタイプじゃなかったのに、意外だね」
頼んでいた串焼きを渡されたが、つくねのパサついているところがあり、あまり美味しくない。ちょっとした塊が焼けている端っこならよかったのに……。
「保存がきくのでしか味付けできない。まぁ、はした金で買える値段にしちゃ満足できる味だろ?」
「周りの子は?」
「ギルドから貰って来たり、肉と脂分けたり香草潰して合わせたりと、いろんな仕事してもらってる」
「そう。北の水守のウォルター爺さんからの話しなんだが、時間はいいか?」
料理をしながらになったが、ウォルター爺さんが何故子供たちに渡したいのかという事を話した。
「そいつは嬉しいが、何故俺達に?」
「アンタがこの子等のまとめ役なんだろ? 出来るだけ安くするようにするけど、それなりの値段になるだろうから、アンタが買って貸し出してくれ。これの一個前のバージョンだと、1.5mの泥田魚を釣り上げられるほど優秀だぞ」
「へー……。上に話す必要が出てきた。罠を使わないでそれだけのを釣れるとなると、目溢しされていた漁業権持ってる奴らと問題出てきそうだな。ウォルター爺さんには礼を言いに行かないとな。冬になると足が動けなくなって流された奴らは何人もいるんだ」
うへぇ。思ったより重い話だった。
「もしかしたらの話しなんだけど、このリール使うと、今売ってる竿は使い物にならないんだ。その材料と糸の需要が増えると思うぞ」
「そいつはいい話だ。確認するが、これを使えば泥田魚を安全に釣れるんだな?」
何故そんな事を聞くかと確かめると、竿の作りに泥田魚の粘液も使われるそうだ。仕上げ前に粘液を何重にも塗り擦る事で、竿の劣化が起こらないそうだ。
また、罠や網を使わないので、漁業権の問題も無いし、網で獲ると嚙みつかれて大怪我するそうだ。
「糸は変わらないんで気を付けてくださいよ」
「へへ。釣り上げたら、すぐにぶんなぐって気絶させるよう言っとく」
最後には感謝され気持ちよく別れる事が出来た。
今回ちょっと無理矢理に裏ギルドへと関係を持たせました。
いつもなら選択肢の一つに裏ギルドを入れるようにするのですが、今回はちょっと無理矢理感があります。
25話後半で裏ギルド目的がわからないとクリスは言っていましたが、今回みたいに子供でもお金を合法的に稼ぐのが、目的の一つです。
ただのお金持ちじゃなくて、ものすごいお金持ちなら雇用問題を解決できるんじゃ?と、裏ギルドは思ってます。
本編にまったく関係のない設定
子供達が煮込んでいたのは、骨などのガラ出汁。野菜クズからの風味がよいベジブロス。
屋台の人は、子供達からそれらの出汁を買って、移動時の荷物を少なくしてます。
湖のパワースポットの話? ゼロの中で勉強しているスピリットの出身地なだけですよ。




