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俺もウォルター爺さんも泥田魚を捌いた経験が少なすぎたのだが、思ったより泥田魚が大きかった為に遅い昼食になった。締めた後、調理しにくかったので屋敷の調理場に移動したのが英断だった。
白くブニブニとした身は火を入れると身が締まりかなり美味しいのだが、内臓を少しでも傷つけると洗っても臭みが取れない事は有名なので二人で協力しても時間がかかった。
内臓を取り出した後、背中から開いて肋骨に沿って刃を入れるのも、この泥田魚の特徴で、これで骨抜きなどをしなくても食べられる。
身の薄いところは、包丁で叩いてツミレにし、香味野菜と豆を一緒にスープ。厚いところはブツ切りにして、多めの油で揚げ焼きにしてナンの中に詰め込みバジルソースをかけて昼食になった。
ウォルター爺さんは、調理中の食材を見て、果物の甘味の強い白ワインを用意してくれた。
「バジルソースだけではなく、ライムも絞ればよかったのかのう?」
「あるのなら、今からかけてもいいんじゃないか?」
「こんないい天気なのに、今から戻るのも面倒じゃよ」
こういった粗野な料理は野外で食べるに限る。そう言ってはいたが、どう見てもゼロを仲間外れにさせないよう気を使ってくれてる。
ちなみにルイは、揚げ焼きにした後の旨味が混じった油で小魚を上げたのを頭からバリバリ食べてご満悦だ。
「それで、さっきの話を聞いてどうするんじゃ?」
さっきの話しとは、この湖の伝説と言うには大雑把すぎる話。
荒々しい山の神が眠りについて数百年。眠っているうちに悪戯好きの妖精たちが種を運び森が生まれ、生き物も移り住んだ。山の神が目覚める頃には、眠っている間に生まれた精霊たちが住み着いていた。いくら荒々しい山の神でも、傍で生まれた精霊達の住処を奪うような気持になる訳にはならず、精霊たちが集まっている場所を見ながら立ち去るまでは寝たふりをする事にした。との事。
簡単に言うと火山が治まった。その後はファンタジー要素で解釈すると、龍脈みたいなもんかな?
「強い魔力があったって聞いたから、何かあるんじゃないかなって思ったんだけど……」
「あるぞ~。巨大な水晶や魔結晶。誰が沈めたのか金の斧や剣。嘘か本当かシェイクの立ち上げの資金は、この湖の底から拾った物なんだとか」
「底をさらったんでしょ? さすがにもう無いんじゃ……」
「いいや。不思議な事にいつの間にかあるんじゃ。この一帯の畑の水源になるか調査したとき、水が湧いて出ている場所で宝石を見つけたらしいのじゃが、何十年も経った後に同じ場所で剣を見つけたと記録が残ってるんじゃ」
その時も、剣があったのなら他のも……となったのだが、結局大した物は見つからなかったそうだ。今では潜りたい人がいたら、水守のウォルター爺さんが湖の様子を見て許可している。
「そんな事より、糸巻きを売ってくれんかの?」
「構わないですけど、中が削れる前提で作っているので壊れやすいですよ。他にも似たような部品じゃなくて、同じ部品じゃなかったら、動くどころか蓋もはまらないです」
「う……うむ。何とかならんか?」
「あー。ゼロ、急ぎだったら何個くらい作れる?」
『材料さえあれば50でも100でも作れますよ。ただ、形や負荷の調整などしていないので、大量に作ると不満があっても直せませんよ』
午前中にウォルター爺さんが何回かやっていたのを思い出しながら、こっそり前世の釣りの事を思い出しながら織り交ぜていく。
「じゃから、ワシは右利きで右手の方が感覚が鋭いんじゃ。右手で竿を持てば、左手でハンドルを巻くのにちょうどよかろう!」
「いいや。それなら普段は竿を右手で持って、魚を掛けたら左手に持ち替えた方が良い」
「そんな無駄な事やるつもりはない」
「はっ、そりゃウォルター爺さんみたいに小物ばかり釣ってたらそうなるけどな、大物相手だと巻いてる腕の方が辛いんだよ。利き腕は魚との勝負、左手は竿を抑えるだけって考えれば妥当だろ」
「ぬぅ、言ってはならん事を……。だがそりゃ、糸巻きだけで勝負出来たらの話しじゃろ? 竿のしなりが無ければバラされて終わりじゃ! 結局重要なのは竿じゃわい」
改良点の話をした時には敵対していた……。俺より釣りに慣れているだろうウォルター爺さんに竿の長さだとかを聞こうとしていたのに、リールのハンドルを左右どちらにするかで意見の対立が起こった。
結局ゼロが、送り出されるのを調節する蓋の絞めを細かく設定して、大物だろうが小物の数釣りだろうがどちらでも対応したのを左右両方で決着がついた。
後から思ったんだが、左右両方作るのと、大物小物の関係はないのだが、俺とウォルター爺さんの主張が大きさに偏った為にそういう事になっただけだった。
この他にも竿の話になったのだが、木工関係は二人ともダメだった。せいぜい弓に使われる木材がいいのかもしれない。そんな程度だった。
……うん。実はこの後の会話は酔っぱらって気が大きくなった同士の会話が多かったらしい。塩分と木の実などの植物や動物の油脂がある食品があれば、酒は体が受け付けなくなるまで飲めるらしい。
成人の腕輪を貰ってから、ここまで羽目を外したのは初めてなのかもしれない。
体調は悪い癖に記憶を失う前の楽しさだけは覚えているという複雑な目覚めを現在進行形で味わっている。
一応は屋敷の中に入って休んでいたようで、屋敷の外の空は薄暗くなり、今夜は眠れるかちょっと不安になったんだが、まだ頭が働かなくて全てがどうでもいい気がする。
「何かあったりした?」
『特に何も……。ただ、新しく判明した事はありますが、事態が変わるような問題でもないです』
「なんだそれ? ちなみに何がわかったんだよ」
外に出て年中無休のゼロに寝ている間の事を聞いたが、特に気にするようなことは無かったが、変な言い回しが酔っぱらっていた俺への嫌味のように感じた。
『先日から私の中にいる魂と呼ぶべき存在ですが、この湖の出身のようです』
「あー、うん。そりゃ確かにどうしようもないわ」
衝撃の事実!とは行かないまでも、アレが生まれた原因は何処かにあるはずだとは思っていたが、此処だったとは……。どうやら本格的にパワースポットだったみたいだ。
動いたら余計胃の調子が悪いのを実感したので、結構重要な場所なんだけど、元から水源は重要な場所だったんだと思い直して胃が落ち着く物をウォルター爺さんにもと思い、屋敷に戻る。
調理場でお湯を沸かし、生姜をおろしてハチミツと一緒にカップに入れる。両方とも肉料理に使われるだけあってストックは十分ある。流石に持ち主に許可を得ないでこれ以上勝手に消費するわけにもいかない。
「爺さん。これ飲んでベットで休みなよ。風邪ひくよ」
「ん、ああ。すまんのぅ」
寝起きにいきなり熱いのをそのまま渡すわけがなく、ちょっと熱めの生姜湯を渡した。
「ふう。温かい。ついでじゃから何か作ってくれんか? 生姜の匂いで胃が動き出してしまってのう。食材庫にあるのだったら何でも使ってよいぞ」
「何でもって言われても、ハイそうですかとは言わないから、一旦確認してくれよ。そうじゃなきゃ、気持ちよく料理できないって」
面倒がるウォルター爺さんを尻を叩いて調理室に追い込んで、腕をまくる。兵を泊める施設でもある為、ここの調理場は広くて設備もそろっているから、ゼロの中の簡易キッチンより使いやすくて楽しい。使っていいと言ってくれてものすごい助かるし、さっきの生姜湯を作っている間に食材を覗いていたのは内緒だ。
調理場には銅製の物が多く家庭らしい調理製品が多い。これは精錬の具合にもよるが、鉄に比べて銅の方が重く柔らかい為、過酷な使用をする旅には向かないのと、高い熱伝導率によるものだと個人的に思っている。他に武器や防具に鉄が使われているせいでもある。
酢塩で手頃な銅鍋とフライパンを洗い綺麗にしておく。これも銅製品が旅の調理器具に合わない理由の一つだし、ご家庭でも長時間煮る物に銅製の鍋は使ってはいけないと言われている生活の知恵だ。
食材庫にあった肉を一口大に切って塩を振って馴染ませている間に、タマネギを刻んで火の通りにくい人参はすりおろして準備。
フライパンに肉の角がカリカリになるまで炒め、肉を鍋に移し替えてから、そのままの油が残ったフライパンにニンニクと細かくした野菜を炒める。
「ふむ。材料の場所を知っているのは気になるところじゃが、手際がいいのう」
「アハハハハ。御免なさい。食べる事が趣味なんで、気になっちゃって……」
怒りの無いツッコミが入った事で、ついでだから水で戻した豆も使っていいか聞いたところ、美味しくなるなら構わないとの許可が出た。
根菜類と穀物は保存が効くからよっぽどの家庭以外は非常食として置いてある。それに豆はほとんどの土地で育てやすく、保存しやすさもあるので二・三日分戻しておくのが普通だ。
昼に飲んだ白ワインでフライパンの底にこびり付いた旨味をこそげ落し、炒めた野菜と一緒に鍋に入れ豆も一緒に四・五十分煮詰められる量の水と臭い消しのローズマリーを入れて終わりだ。
ついでだからと、いくつか正体不明の容器について聞いてみたところ、売り切れなかったトマトを十分の一になるまで煮詰めたペーストにオイルで蓋をした物らしい……。味を決める前にその情報欲しかったよ。水少な目でトマトペーストにチーズ乗っけて窯で焼いても美味しそうだし……。
「しっかし、楽しそうに料理するのう。旨い物が出来ればそれでいいんじゃが、何をそんなに楽しむのじゃ?」
「うん? あー、地方によって文化が違うってよくあるでしょ? アレが面白くってね。燃料とか気候に農業や狩猟だとか、隠す事が出来ないし全部に関わってくるから、面白いんだよ。ほとんど同じ料理なのに名前の由来が全く違って論争が起きてるって話も聞いた事あるし……。すっごく面白い」
「ほー。ワシは此処しか知らんし、今更他を知ろうとは思わんが……。変る事はちと怖いんだが、確かに面白そうじゃな」
「変る事が怖い? 少し前までこの新しい釣り道具に夢中になってた人がそんな事言っても…… プッ」
わざとらしく笑ってやると、からかった事に怒ったのか、顔を赤くして怒るだけだった。
今回ほとんど料理回でした。仕方なかったんです。日曜にざっくり書いたのですが、その前にストレス発散の為に料理した結果がこれです。
知ってます?野菜メインの皮の厚い水餃子に少量のバターが合うって……。ただ、バターとお酢は分量計算しないと合わないと思います。
因みに、作中での季節は決めなきゃと思っているのですが、今だ決めていません。ある日突然決めるので、保存できそうな食料ばかりで書いています。
作中の料理は豚バラのつもりだったんですが、手羽元でも美味しそう。




