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「お前何もんだ?」

「一般トレジャーハンターだ」


 無言で値踏みされても困る。セール氏は……こっちも俺を見ている。護衛の皆さんたちは関わりたくなさげで、前に会った女性職員は申し訳なさげに……。もう一人の男の方は睨んでる。


「話が進まないのなら、出て行くぞ。それと商人ギルドに入って貰うのは決定だ。引き渡しの際に元々払うつもりだったんだろ? 問題なしだな。それ―――」


「―――黙れ……お前が仕切るな! 商人ギルドを呼べ。それとすべての資料を持ってこい。誰がどう判断したのか、全てだ。

 護衛のチームはこのまま処理してもらって構わない。ただし、明日は抜け道を案内させてもらう。ギルドからの強制依頼だ。宿を報告するように」


 他に遺物調査の担当者と魔物解体の担当者に洞窟内部の魔物の資料を持って来るよう伝え、明日手の空いている鉱山責任者も手配して休憩を宣言した。


 セール氏の護衛だった者たちは宿へ、二人のギルド職員は割り振られた仕事をしに、その場に留まる事になり、重い空気を換える為に推理クイズをした。


「うーん。指示は的確なんだけど、部下じゃない相手への配慮が足りないかも? 元軍人さんと見るが、セール氏はどう思う?」

「そこで私に振らないで欲しいですね。前に話した通り、軍は貴族の関係者が多いので、ギルドを軽視している事があるので違うでしょうね。私の知っている中では塩などの何どれくらい必要か判断する生活必需品を扱っている商人と被ります。軍や兵よりも法を順守する警ら隊経験者だと思いますよ」

「あー、あり得る。通常業務はそのまま受け継いて、トラブル案件毎にはギルドマスターの判断やってるから、欲しい情報が入って来ないシステムなんじゃない? もったいないなー」


 ダン!


「黙れ」


「すまんな。一人暮らしだった頃、滑舌が悪くならないように考えた事そのまま口に出してた。あそこに魔物が住み着くってのを全く考えてなかったから、そこまで頭が回るのに交渉がお粗末だったのが不思議だったんだ」


 トンネル内の強度はゼロが計算して掘削機が掘ったから問題ないと思っていたから気にしていなかったが、ギルドマスターはテーブルの上の地図を眺めたまま動かなかった。


「おい、抜け道の穴の大きさは?」

「ん? ああ、セロが楽に通れるから幅は5mくらい。高さ4mぐらいか?」

「最大が、それくらいですねー。危険でしたので中央しか走っていませんでしたが、馬車がすれ違う事は出来ると思いますよ」

「かなり大きいな」


 ゼロに爪が付いた分大きくしなくちゃいけなかったんだが、掘削機はゼロと同じ時代の機材。掘削部分最小2mからで、大きくなるようにできている。動かすのなら俺でもできそうだが、トンネル掘りは怖くて出来そうもない。ゼロが居てはじめてできる作業だ。


「どれくらいで出来たんだ?」

「教える必要あるか? アレはムカつく盗賊への嫌がらせと復讐だ。頼まれても二度とごめんだ」


 ゼロが掘削機を2台を使って1か月半。計画段階が一番楽しかったが、5日で飽きた。だけど、それなりに深い穴だから処理にも困る。

 ゼロは年単位で休止していたので根気が良く、続けているうちに後戻りできない長さまでになった。協力しようにも、元が効率化された掘削機以上の事が出来ずに断念。最終的には、俺とルイは開通するまで魔法の練習。目標が無い分辛かった。


 このギルドマスターは意外に細かく、この後掘削土の処理など聞いて来た。魔法の練習に使った後、土砂災害が起きそうな場所にレンガのように固めて放置したり、護岸工事の真似事したりと話をしたらギルドマスターはだけでなくセール氏も喰いついた。

 今まで何となくでやっていた魔法だったが、ゼロと掘削機に組み込まれている壁の強化を人間が使うレベルまで落としたもので、意外と便利。

 掘削土の処理が話に出なかったら手札の一つとして持っておきたかったのだが、災害に関わるので話せざるを得なかった。鉱山でも使っている魔法のようだが、専門家じゃないので詳しい違いも出来上がりも差を調べる事が出来なかったが、互いにサンプルを交換する事になった。これでゼロの小言は回避できる。







 早く終わらないかと思っていた時間が過ぎた後の時間は苦痛だった。冒険者ギルドと商人ギルドの利権争いは見ていて楽しい。解体職人による魔物講座は金を払って受けてみたいし、資料の一部を貰えないか聞いたほどだ。ただ、担当者の責任の押し付け合いだけはつまらなかった。少しは知的に見えたギルドマスターが筋肉で威圧しているおっさんにランクダウンするほど下らなかった。

 最終的に専門家が専門の事だけをやって、誰が持ち込んだ案件かを把握していないで次に進めていたのが問題のようだった。

 複数部署にまたがるような案件の場合、大体が大事になっているのが多くて誰かが指示しているのが普通だが、今回はそれが無くて聞いてもそれぞれの部署にタライ回しになるような体制だったのが今回勝手にやったのを突っ込まれた形になった。今までもなんかしらあったが、一部の情報しか上がってこないギルドマスターが対応したからこんな事になった。


「さてさて、美味しい物でも食べに行きましょうか? 奢りますよ」


 やはりと言うべきか、ゼロが街中を同行するのは混乱を招くのでやめてくれと言われた。従う理由は無いが、大きさの問題もあるので素直に頷く。動く方の運搬車はトラブル回避のために売る事にしてある。両ギルドのいる前で言ったので交渉が面倒だったが、魅力的な条件が無く一旦中断した。最終的には罵り合っていたからね。


「ん? いいのか?」

「せっかくですからね。とりあえず、ソルトと言ったらサウナで汗を流して、香辛料のたっぷり効いた挽肉を分厚い生地で包んだ物を食べるのが名物料理となっています。他に畑にしにくい土地でアブラナや向日葵オイルを作って揚げ物も少しばかりですかね」


 夕方になって仕事を終えてサウナ帰りの鉱夫達が、屋台のスープを持ち寄って今日の成果などで騒いでいる。

 ソード氏が言っている料理はかなり種類が多いようで、スープも透明な物から野菜スープであったり、具もラビオリっぽい物から餃子までバラエティーに富んでいて、期待が持てる。働く鉱夫達は汗をかく為に濃い味を好むようで、別売りのタレも販売されている。

 ただ、流石に揚げ物は屋台では危険らしく、店に買いに行かないといけないのだが、薪代や魔道具などで店舗を持つところはそれなりに高いらしく鉱夫主体の戦闘力が少ない者には揚げ物は高嶺の花らしい。


「悪いが、風呂とかサウナとかは一人で入りたいタイプなんだ」

「おやおや、サウナの醍醐味は中での語らいだというのに……。もったいない」


 魔道具があっても燃料や水の問題もあるから個人所有が少ないが……


「クリス。お前は言ってないのか?」

「やあ、ギルドマスター。仕事はもう終わりかい? 意外だけど、アンタなら種族名をそのまま言うと思っていたよ」

「昔、やってしまった事があってな。それ以来気をつけてる」


 ギルド内ならともかく、周囲に人がいるから少しフランクに声を掛けてみるが、さっきまでのやり取りで今は不信がってるようだ。


「色々聞かれて面倒なんだよ。名前知らない人に言っても、だから何?って感じだからな。ギノス種族なんだ」

「ああ、確かに。有名ですけど、私が知ってるのも噂なのか真実なのかわかりませんからねー」

「今の俺の状態は珍しいんだそうだ。親もよくわかってないらしい。それで、ギルドマスターの方は何かあったのか?」


 ギルドマスターは書類を片手に、


「一年前の件は調査の結果だけが紙で残っていて、誰が主導したのかわからない。ソルトでは落盤による行方不明者の人を早期に把握する為に特殊な依頼以外はギルド職員なら誰でも見れていたのが特定を困難にしているのだ。責任者か許可した者にしか見れないようにするのを試験的にやる事にした。迷惑をかけた」


 まさかの謝罪! しかも、悪い点があった事は残念だが、行方不明者が落盤事故にあっていたというのもあるから全否定とも出来ないか……。


「手続きが増えるのも仕方がないだろうな。ちなみに、なんでそうしてなかったんだ?」

「ソルトでは遺物の発掘など出ないと言われているからだ。人が掘ったモノ以外にも魔物の空けた穴が多くて、遺物などは出尽くしたとの意見と、遺物を発見するより鉱脈を見つける方が割がいい。ここで発掘している奴は研究者ぐらいだ。他に聞くことがないなら帰らせてもらうんだが?」

「そんじゃ、運搬車の引き取り先が決まるのは何時だ?」

「お前が納得すれば終わりだ。ではな」

「了解。お疲れさん」

 

 あの時の罵り合いは、どちらがより良く運用できるか?だったが、途中から「アンタたちに出来るわけないだろ」の応酬が始まったので中断させた。あの手の言い争いでどっちか選ばれると本気で思っているんだろうか? 方向性がずれた交渉を中断させた俺は悪くない……。

 去っていくギルドマスターをセール氏と見送ってから通りを歩いてると、


「クリスさんの今後のご予定は?」

「そうだな……。ゼロといても驚かれないように顔を売って、金を稼ぎながら南に向かう。魚とか食べたくなってきた」


 本当は、ゼロの強化をするのに、この土地にある物では容易に手に入らないであろう素材が大量にある為、心当たりが海の生物だった。

 この一年が自由に暮らす為の準備期間のようだったので、環境を変えたかったのもある。よく考えたら、ほとんどの時間を穴の中で過ごしていれば、その反動が出るのも当たり前だと思う。


「よかったら、荷物運びと護衛の仕事受けてもらえませんか? それなりに顔が利くんで初顔合わせで警戒はされません。騒動が起きたとしても商人の私にとっては商機に繋げるので、私への貸しだと思ってゴタゴタを押し付けてください。悪意ある騒動で無ければ引き受けますよ?」

「ゼロに頼る気満々かよ。もう少しぼかして言うもんじゃないのか?」

「貴方のように恩の貸し借りを嫌がる人には、仕事の振り分けをやって任せた方がいい関係が続くんですよ。どちらかが上に立とうとしたらこの関係は崩れますけど、最初から任せれば競い合うようなことにはならないんです。移動時間が長いですから多少の賃金は出しますが、専門より少ないです」


 商人が武力専門を雇う状況だと、情勢関係なく悪徳商人と用心棒とイメージするのは何故なんだろうな?


 話を詰める為に食堂へ行こうと街を歩いている時に、薬師のオババに出会い、散々怒られた。

 リオンの村での騒動が落ち着きソルトへ帰ると、俺が行方不明になった事を下手に騒ぐと村への協力者が減るという事で調べたりするのを止められてストレスが溜まってたようだった。

 リオンは罪悪感がすごかったようで、ソルトへ来ようと無茶をして体を壊した事もあり、健康になっても1か月間監視されていたそうだ。


  迷惑かかると思っていなくてごめんなさい。



登場人物の大半が男ばかり……

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