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 フードを深く被るとルイはお腹のところに潜り込んでくる。少しは大きくなった事を覚えて欲しいが、そのまま外に出る。すぐさまソルトの街の冒険者ギルドの職員が建物内へと誘導する。前回より警備は強固になっている。

 確かにセール氏の話題(報酬)には丁度いいかもしれない。


『なるほど……。確かに美談だ。それで、アンタの利益は何だ?』

『話題だけで十分ですよ。行商人で一番難しいのは、話を始める場を作る事なんですよ。誰かから受け継いだり、奪ったりとね。

 私が助けた。これだけで商人ギルドが伝手を頼って話を聞きに来るのに十分すぎるだけの報酬です』

『詳しくは話さないぞ』

『構いませんよ。フラッといなくなったと思ったら、あんなことやっていた。下手に主張すると誰もが使う道を私がやらせた事になり、利権が絡むと面倒です。恩や好意で作ってもらって美談で終わらせましょう』

『なるほどな。確かにその方がいい。もう少し話しを煮詰めよう。それ次第で追加の報酬もあると思ってくれ』

『いいですねー。口先だけで報酬が変わるのですか……。実に私好みです』


 かなりの期間ゼロと共にいて、あの大きさとそれが動く迫力に慣れ過ぎたようだ。かなりの人がこちらを見ている。手を使って大体の大きさを計ろうとしている商人風の人もいた。


 建物に入ってそのまま会議室のような所へ。当然ながら、セール氏と護衛さん達にギルド職員3人が揃っていた。そのうち一人は一年前にあっている人だ。


「君があれの持ち主か?」

「そうだが……。なんだ? 近所のガキじゃあるまいし、欲しいよ~とでも言うのか?」

「!!」


 冒険者ギルドのお偉いさんらしき人にいきなり喧嘩を売る。ギルド側は眉をしかめているが構わない。

 一年前の事でソルトのギルドは信用できない。何より筋肉で威圧しているようでムカつく。ただの嫉妬だろうが、こっちは種族柄筋肉がつきにくいんじゃい。


「……少し前に二件ほどあの姿を見たと報告があるが、お前か?」


 セール氏の非難の目が向けられたが、話すの忘れていたんだって。


「サービスだ。討伐の報酬はいらないぞ。人の成果をかっさらう奴らはムカつくんだ」


 商人にしたら盗賊。俺からすればあの時のヘラヘラ野郎。おお、あの時逃げてる護衛からすれば、俺もかっさろうとする奴になるのか? なかなか上手い事言うだろ?


「そんな事より美味い店紹介してくれるんだろ? ソルトでの名物料理が何なのかぐらい教えてくれよ」

「いえいえ。この後、商人ギルドにも行かなくてはならないのですよ。もう少し待って下さい。流石にあの道は冒険者ギルドにも把握してもらわないといけませんからね」

「なら、俺は戻ってる」

「待て!」


 ギルド側の中央にいるこの場での代表の静止に驚いたのか、ルイが隙間から顔をのぞかせる。それを見て思い出したようで、俺の顔を正面から見ようとお茶の準備をしながら少し移動している。真面目な話ほど茶化したくなるので、とりあえず逆方向を向く。


「何か?」

「あれは何だ?」

「うむ、この場合『あれとはどのあれの事だ?』と聞くべきなんだろうが、答えてあげよう。ただの運搬車だぞ」

「ふざけるなよ、このガキ。あの戦闘能力は何だ!」

「あれに戦闘能力は無いぞ。セール氏、すまんが詰めてくれ。この年上の子供が教えて欲しいの~って言ってるんだ。答えてやるのが世の情けというやつだ」


 セール氏が動いたところで、後半を嫌味満載に言うのがコツだ。偉そうな人は余裕を持とうとして他人を邪魔しない。


「さて、何が聞きたい? 基本的な事は答えるが、調べればわかる物は聞かないでくれよ」

「お前は何者だ」

「ギルドのお偉いさんだろ? 上の連中は個室で仕事するから下なんか見ないのか? 登録してあるぞ。いきなりくだらない事聞かないでくれよ。まぁ、俺だって部屋に引きこもっているアンタを知らんけどさ」


 座ったせいか、抱き着きから膝の上に移動したルイが顔を出してきたので、首のところをかいてあげる。

 ここまでやったら顔を隠していても流石に気が付いたようで、女性ギルド職員は資料を取りに行こうとしたのか動こうとするが、目の前の筋肉さんが動くのを制した。


「頼むから、期待を裏切らせないで下さいよー。ギルドのお偉いさんから、現場を見ない引きこもりにランクダウンしちゃったじゃないですかー。まぁ、部下に聞かなきゃ仕事できないってのだけは避けたようですけど……」


 煽ってやる。最初の一言目がマシだったなら、もう少し協力していたんだろうけど、信用できない上にあんな態度だから、いい様に裏切り者にギルドが使われるんだよ。


「トレジャーハンターでこのソルトにも遺物を届けたんだけど、引きこもりのお偉いさんじゃ仕方ないし、話が進まないから名乗るけど、クリスだよ。さぁ、次はどんな質問をするんだい?

「……クリス? このソルトで遺物だ…と」

「流石にここまで言えば気が付くはずだよな。一年前ここに情報提供した次の日襲われたクリスだよ。壊れていたあれ(・・)の事聞かれても、そっちの方が詳しいはずでしょ? そうそう、代金はまだもらってないから、所有権はまだ俺になるのか? まさか見積に必要な事以上調べてないよね? 人命救助で忙しかったんだ」

「くっ……」

「そりゃ、冒険者ギルドに所属しているから、強制依頼のこと知ってるよ。アレは人命救助なんだから、強制は仕方がない。徴発だって人命にかかわる事なんだから仕方ないと思うんだけど、あれが無くても命にかかわらないだろうしね」


 途中から不満が止まらなくなった。何とかする為にセール氏を見ると、意図が通じたのか頷いて話に入ってくれそうだ。


「クリスさんと連絡が取れない以上ギルドとしても仕方が無かったのでは? そう思いますよね、ギルドマスター?」

「……ああ。しかも道中に戦闘跡が残っていた」

「失礼ながら、一見クリスさんは戦闘が得意そうに見えませんですし、現に私が保護したときは傷だらけでした。技術の発展のためには見つからない人を闇雲に探すより、調べた方が建設的ですよ。

 ただ、クリスさんが生きている以上、現状ではそれなりのトラブル回避の為に報酬が必要です。調べがついたのかもしれないサンプルの見積もりでは、たとえ正確な金額でも不満が残る物。どうでしょう?ここは商人ギルドも一つ巻き込んで金額を出してみては? それにクリスさんは冒険者ギルドの翌日に襲われたと不信感もあるようなので、二つのギルドで出した答えなら納得がいくのではないでしょうか?」


 偉そうだと思ったら、ギルドマスターだった。ゼロが世に出た以上仕方が無いが、商人ギルドの名前が出た時に嫌な顔しやがった。商人ギルドはイメージ通り金にがめつそうだしな。

 それにしても、全部話してはいなかった事は謝るけど、商人ギルドも咬ませるつもりだよ。これで、セール氏は両ギルドに貸しを作った事になるのか?


「俺はあれの事はそれでいい。動く方はここに回収してんだろ?」

「お前を襲った奴が持って行ったという線は?」

「ありえない。俺が今乗っているゼロは、あれの上位版だ。この距離だからか、建物内部に確認できた。襲った奴が持って行ったのならギルドが俺を襲った事になるんだが?」


 運搬車は鍵などない。起動にいくつか手順があるだけだ。遺跡や遺物も扱っている冒険者ギルドだから、回収できたと考えられる。俺の意識が無かったために直接の監視はしていなかったが、夕方ごろに運搬車が動いたのをゼロが確認していた。

 元々はゼロを乗り回す為のギルドへの餌だったので、惜しくは無いがタダでくれてやるほど太っ腹でない。


「どうせ聞きたかったのはゼロの事だろ? アレは無理。把握できん。

 それよりどういうことだ? ただでさえ怪しいと思われてるのに、うかつな事言って自分の首を絞めてる。本当にギルドマスターなのか? それともただのお飾りか?」






冒険者ギルドへの不信。今回いいところが無いですが、次回挽回予定。

流石にギルドマスターが無能ではない事にする予定です。



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