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 壁を崩すとトンネルの中に夕方の優しい光が差し込んだ。


「開通ー、ハイ拍手ー」


 身内以外には見せられないテンションでパチパチやってみた。外向きにはカッコよくしたい。


 ゼロに乗っていると忘れがちだが、馬車や竜車に灯りの魔道具は無く、ゼロはトンネル内で明るく光らせてた。ただ、移動照明車ではなく、デコトラっぽかったのがツボに入った。


「今日はここまでにしよう。これ以上音が出ると、魔物とか寄ってくるから」

『……落石の恐れがある物だけ、処理します』


 偶に優先度というか危険度の基準が違う。金属と生身だからしょうがないのだが、やはり自己保守機能が優先される。しかも、何千年と水底で逆さまになっていから、しっかりした足場だけは確保したいようだ。


「あー。助けた事にも、話題になる事にも自分でやったから納得してるんだけどさー。セール氏が怖い。もう少し人の良さそうなのが良かった」

『商売を生業としている人は頭いいはずでは?』

「ん? もちろんそうだが、んー。情報量と伝達スピードが違うんだよ。どちらかって言うと、頭の良さより人付き合い。警戒心を無くさせる話術が必要なんだ。通行の整っていない今の主流に真っ向から逆らっている……と思う。」

『知識と現状の環境が合わない事を考慮する必要があるようですね。何はともあれ、相手の真意がわからない以上、警戒する必要があります』


 当たり前と思う事は、他の条件も同じでないと通じない。昔に同じ目に合った事があるが、ゼロに指摘できるのが嬉しいと思う俺は性格が悪いか?


 ちょっとばかり暗い感情を胸の奥にしまって、ルイを連れてコクピットから出る。トンネルを進む前は呆然としていた護衛の人達も、暗闇を進んでいく中で現実に目を向けられるようになったのか、周囲を警戒していた。


「ほー。そのようなお顔でしたか。仮面で隠すのはもったい美形ですな」

「やめてくれ。この顔で得したのは……子供の頃にお菓子を少し多く貰ったくらいだ」


 男でも女でも通用する顔は、正直微妙な得。しかも、他にも友達がいて、全員に貰える時のみだけだった。


「私も子供の頃はコロコロして可愛いと言われたのですが……時の流れは残酷ですね」


 少しもそう思って無さげに言うから、余計胡散臭い。「それはともかく」と、視線の先はゼロの車体。


「なんだ?」

「あの明るさはいいですねー。まるで夜も関係なく走る事を考えているようです」

「だからどうした? それよりも、お仲間は忙しそうにしているが?」

「くっくくく、あの者たちは護衛ですよ。私の安全を守るのが仕事です。対して私は商人。人が欲しがるもの、人が必要としているものを仕入れ、恨みを買わないように売るのが仕事ですよ」


 卑下したような言い方だが、目が裏切ってる。しかも、それを隠そうとしないってのが憎たらしい。


「なら俺を売るのか? それとも俺に売るのか?」

「どっちも……ですね。貴方が売りたいのは、この抜け道何でしょうけど、買いたいのがわからない。一方的な売買は何処かで破綻するんですよ」

「話の続きを」


 カッコよく言ってるが、今までの行動は素の俺に言葉使いと雰囲気をそれらしく演出したもんだからね! もし、俺が意識していないのがあったら、アドバイザーに欲しい。


「おやおや、ダメですよ。その発言は興味があると言ってるようなものです。ただ理屈が合わないんですよ。あの魔道具が無ければこの抜け道を用意できないのに、抜け道には無頓着で魔道具には反応。成果は自慢したいが……となると、同じ行動をするのは犯罪者くらいしか思いつかないんですよね」

「面と向かって犯罪者と同じ扱いとはな」

「ですが、基本は同じでしょう? やりたい事をやりますが、隠したい本命があるので全てを明らかにしない。その本命がこの先やる事で今回はただの予行練習なのかもしれませんしね」

「それはアンタが普段から思ってるから、そう考えるんじゃないのか?」

「ええ、その通りですよ。でも、貴方も同じなのでは?」

「精々、やらかした事を誤魔化す為の理由付けくらいだな」


 たぶん同じタイプの人間で、方向性がちょっとダークサイドに寄ってるタイプ。

 同じ目的を目指すなら、イレギュラーが少なく問題を問題と感知する方向も同じなので余計な話し合いも無くて楽だけど、面白味が少なくて張り合いが無くなってしまうのだが……。堅実にと言うか足場をしっかり固めたい。


「では、私から買いませんか?」

「何を?」

「偽装する為の理由付けですよ。世の中困っている人は多くいます。その中から丁度いいのを売りますよ」

「具体的に」

「そうですね。例えば今回は、まず貴方が疑われます」


 まず一つ。と言って指を立てたが、長くなりそうなのでいったん中止。晩御飯の準備をしてからだ。竜車のでっかいトカゲも周りの草をもしゃもしゃ食ってる状況で長話なんてしたくない。


 ゼロに頼んでトンネル側のライトをつけてもらい野営の準備。これで下の平地から光が目立たずに済む。この人数なら撃退が可能だが無理におびき寄せる必要もない。

 車内キッチンで料理をしてもいいけど、楽しく料理をするとなると、失敗も含めて野外料理の方が楽しいしキッチンも汚れない。


 野営は得意だが、拠点などの猟師小屋とゼロありきの生活なので、微妙に違いが出てきて見ている分でも面白い。特に敷物はかなりお金を掛けているようで、一度寝転んでみたい。

 逆に食事には時間を掛けるつもりが無いようで、素早く食べて匂いが出ないような物が多かった。


 丸パンとチーズに干し肉を焚火の明かりでそのまま食べようとしているのを見ると悲しくなった。


「貸せ」


 護衛達よりセール氏の方が話安くなっていたので無理矢理奪い、パンを半分に切って車内からバジルと塩とクルミに油で作ったバジルソースを塗り、チーズと干し肉を挟んでフライパン二つで潰して、焚火の上においてその上に燃えている薪も乗せる。簡易ホットサンドだ。

 ホットサンドメーカーは邪魔になるが、このやり方でもバジルソースの油がパンに浸み込み、フライパンに接しているところは小麦の良い香りが引き出せる。こんなに簡単なのに考え付いた人は天才だと思う。


 焼いている間に俺は俺で小麦粉を練り、生地を焼き似たような物を作る予定だったが、セール氏の「美味しい」という言葉に護衛の人達もフライパンを貸してほしいと声がかかり、二枚のフライパンはフル稼働状態。仕方なく、真っ白になった灰の上に手で伸ばした生地を置いてそのまま焼くことになった。


 行商人は鍋一つでスープを作る事はあっても、焼き物は直火がほとんどなのだそうだ。雑貨屋に置いてあるのも底を平らにした深めの中華鍋にそっくりだと思っていたら、野外で倒れないように、水も掬いやすくて偶に炒めるのにも使えるのが両手で持つ中華鍋になったみたいだ。


「随分と慣れてますね」

「親が猟師だ。護衛と違って獲物をしとめないと何日も山に入る時があった。期間が決められてないから楽しみが無いとな」


 旅をする人でも火の通っていない携帯食で二日が限界。それ以上になると食事が苦痛になる。猟師は移動が仕事でないから、多少の荷物は準備できるので考え方の根本が違うようだ。

 生地を焼いている間に具の準備をしようとすると、バジルソースがほとんど使われていてため息が出たが、セール氏がみんなと同じ具を提供してくれて、結果的に早く食事にありつけた。


「では続きを……。厄介ですね。一度流れを止めると冷静になってしまいます。交渉を受ける側になったら食事前にやる事にしましょう」

「セール氏は持ち込む側しかやってないのか? 意外だな」

「そうでもないですよ。私が欲しい物を交渉する。ですが、売る相手は決まってるのです。そして、今回のように時間のない交渉は私はしません。ただ、もう少し大きくなると交渉を受ける立場になるので今後の課題ですね」


 ……そんなつもりは無かったんだ。ただ、明かりはあってもトンネルの中を通る事が思ったよりストレスになっていて、頭の切り替えが必要なだけだったんだが、そこまで深くはない。


「それより、疑われる理由は?」


 その気は無いのに、純粋な目で悪だくみのヒントを褒められる訳のわからん状況が居心地が悪くて話を元に戻した。


 まず、作業速度。これはゼロしか見せていないが、スピードだけは納得してくれる。

 ただ、ゼロをどうやって手に入れたか?となると、どんなに言葉にしても誰も納得してくれないだろう。ただそれがまかり通るのが遺物の発見者という特権だ。


 何のために? これが問題だった。

 いくら俺が計画しても、周りの理解が無いと自演を疑われてしまう。なんと、一年前の襲撃は広まっていないそうだ。


「どういうことだ?」

「いえ……。噂はあります。ただ、見なくなったと……。大金を手に入れ故郷に戻ったとも話があります。私も今になって情報が歪められたのだと思いますね」


 襲撃の後、運搬車はソルトの街へと移動している。これは遠隔操作ができるゼロによって確認されている。


「今から襲われたと言ったら……?」

「危険ですね。人の噂はどのように動くかわかりません。冒険者ギルドが公表していないのです。報酬を受け取ったがお金が無くなって襲われた事にした……なんて話が出るかもしれません」

「ギルドに一台預けている。報酬はまだもらっていくてもか?」

「襲われたのは知っていても、公表したら届け出る人が居なくなるのを恐れて……と言って迷惑料だけになる可能性もあります。姿を消していたのが悔やまれますね。

 おっと、何もギルドが怪しいなんて言っていませんよ。この方が襲われたのは事実だとして、相手がわからないんです。尻尾をつかむにはギルドも知らないふりをした方がいいと思いますからね」


 後半は護衛達に向かって言っている。護衛達もセール氏の言動に慣れたもので、軽く応じていた。意外といい関係なのかもしれない。

 一応俺からもフォローしとくか。


「世の中どう繋がっているかわからんから、俺の事も下手な事言わない方がいいぞ。噂が広がって無いのを聞くまでは、ギルドが何かしらやってると思ってたくらいだ。

 ただ、ギルドが隠している理由もわかる。ギルドも組織なんだから、怪しい奴がいるかもしれない。しゃべらない方が得策だろうな」

「一台預けているのが判断材料の一つですね。名乗り出て心配されていたら、まだマシですが……」

「ソルトへ行って次の日の帰りに襲撃されたんだ。俺は疑っている。ただ、街中を走り回ったから、その後情報を集めて……の可能性もあるな」


 結局はギルドも疑わしいだけで、何も変わらない。


「不安な事ばかり煽っても仕方がありませんね。一時期私のところにいた事にしませんか?」

「こんな状態で、どうやって利を出すんだ?」

「この先、貴方は自由に動いて構いません。ただ、私のところにいただけで、私に恩を感じているから、過去に魔道具を見つけた場所で発見し、立ち去る前にこの難所を攻略した……。ほら、美談になるでしょ? 幸い私は定期的にソルトへ通っています。逃げ切ったのなら日付がずれても問題ありません」

「……護衛達(あっち)はどうなる?」


 盗賊が出た以上報告の義務があるのか、護衛達も俺達の話に耳を傾けていた。


「みなさんは盗賊に襲われて撃退しただけです。ただ、恩を感じていた彼が先行していただけの話しです。ギルドによからぬ者が潜んでいる可能性があり、その者をあぶり出す為にここに来るまで知らなかったと周囲に話してください。一年前に彼が襲われたように、何らかの手が回ってくるでしょうが、私はすぐに別の街に行きますので私は安全です。できればソルトで接触してきた人の事をこっそり教えてくれると助かります」

「それくらいなら……まぁ」


 知らなかった・聞いていなかっただけでいい。しかも、ギルド内部の悪をあぶり出すだけ。少しの良心があるなら不正をただす物語の登場人物になれる。

 武力があって盗賊にならない選択をした人間にとっては一度や二度は憧れる場面。誰も反対する人はいなかった。



主人公にギャグ的行動をさせたいです(´・ω・`)

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