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本日は2話連続になります。

「そんじゃ、始めるか!」


 シートベルトを確認してゼロに合図を送ると、ゆっくりとゼロが壁に触れる位置まで進んだ。


「ちょっと待て! さっきも言った通り派手に行動するんだよ」

『はい。この場合、ぶつかるよりも車体を固定し爪で押し飛ばす方が、瓦礫を吹き飛ばせます』

「さいでっか。なら衝撃に備えろってのは?」

『空中にある物は不確定要素が強すぎます。くだらない事で怪我をするわけにはいけません』


 折りたたまれた三本の爪が岩壁の下に突き刺さり、ゼロの車体が一瞬沈みこむと、目の前の岩を持ち上げ放り投げた。

 大きな岩が目の前を転がり落ち、頭くらいの小さな岩が四方八方に投げ飛ばされ、近くの木々にぶつかり鈍い音があちこちで鳴った。

 コクピットから見える横に走る道には、仕事熱心な盗賊が竜車を襲っていたが、こちらを向いて止まっていた。

 盗賊共は、行商人達を挟むように二手に分かれ、竜車がUターンする前に決着をつけようと次々にと矢を放っていたようだった。


「ルイ! やっちゃえ」


 コクピットから素早く出て行ったルイは、一番大きな岩の上に登り、威嚇のように吠えると得意な風邪の魔法が発動し、土埃と一緒に盗賊だけでなく行商人と護衛も襲う。


 戦闘の邪魔をしたのが爪を大きく広げただけのゼロと小型の賢獣ルイ。かなりシュールなのだが、土埃に目をやられた方は戦闘を中断して混乱し始めた。


「頭! 賢獣だ!!」

「クソッ、軍か?! ずらかるぞ!」


 見当違いをした盗賊共に刀を抜いて二人ほど斬り捨てる事が出来た。盗賊共の悲鳴を聞いて護衛のリーダー格が碌に見えていないのに身を守ること優先にしろと指示を出している。


「ゼロ! 前へ」


 指示を出して後方の盗賊を襲う。こっちの方が盗賊が少なく、しかも、遠距離攻撃が少ないからだ。ルイの魔法が頬面に当たらなくなり、ゼロの行く先に集中していく。いくら魔法を使ってもゼロにはルイの魔法が効果が無いのを学習しているからだ。こういう判断が出来るのが賢獣の賢さが出る所だ。


 後方で挟み撃ちしていた盗賊共は、そんなに戦闘力も判断力も高くなかったようで、復帰した護衛に押されていたが、最後の盗賊が前方でゼロに轢かれる仲間を見て、逃げ出すところを後ろから斬りつけた。


「た、助け―――」

「―――ふん。ゼロに轢かれた奴らと一緒に来世に行ってろ」


 トラックではないが、轢かれて死ねばここより弱肉強食の世界に転生するのだろうか?


 物凄くくだらない事を思い付き、あまりのバカらしさに笑ってしまったら、近くにいた護衛の人の顔が引きつったが気にしない。絶対勘違いしているだろうが、しばらくはこのキャラでやり通す。


 戦闘というより災害に近い騒ぎが終わった後、予想以上に重い沈黙が街道を埋め尽くす。

 

 高台の地面から出現し、逃げ出そうとする盗賊にとどめを刺す素顔を見せないリーダーらしき謎の人物。俺が助けられたとしても、どうやって話しかければいいかわからない。


「ルイ、ゼロ、帰るぞ」

「お!お待ちください!」


 スゴイや。よくこんな怪しい奴に声を掛けてくるもんだ。


「何か?」


 振り返ると他の人より装備が良い男と恰幅の良いおじさんが息を切らして走ってきた。首周辺がタプタプしてないので、不健康な太り方じゃないと思う。

 不健康ではないが運動神経はあまりよくないらしく、ゼロはすぐそばに止まり、ルイはゼロの一番高い場所に座ってすまし顔で注目を集めている。


「助けていただきありがとうございます。軍の方……では無さそうですね」

「確かに違うが、何故勘違いしたのか、そして否定されたのか聞いていいか?」


 会話を続けて噂を広めてもらうのが目的。前回の失敗は情報を出さな過ぎた事だ。


 おそらく……と前置きがあったが、巨大な魔道具を持っていて、賢獣を持っている事なんだそうだ。両方とも財力だけでなく、権力を持つ貴族が持ちたがるモノで、二つともそろえた上に武力介入してくるのは、貴族の軍関係者くらいなんだそうだ。護衛のリーダーだけでなく、恰幅の良いおじさんこと代表のセール氏が挨拶に来たのはそのような訳があった。


「失礼ながらなぜ仮面を?」

「喉を守る為だ。他に白い肌は発見されやすい」

「なるほど……。私が貴方を軍に所属していないと思ったのは、その仮面が理由です」


 軍人で貴族なら一人で行動しない。初めはゼロに乗っている人が何人もいるのだろうと思っていたようだが、全てが終わったところで名乗りもせずに帰ろうとするのはあり得ないらしい。

 跡取り以外の領地を受け継ぐことのない貴族は顔や名を売り、領主に迎え入れられようとするのがほとんどなのだそうだ。


 領主と貴族の違いがわからなくて困ったが、功績などで新たに認められた所謂初代以外は王都の貴族院で、法や領地経営を学ばないと貴族に認められない。後継ぎは領主になって、次男三男は補佐として生きるか、新たな土地を開拓して領主になるか、婿に行くのだそうだ。補佐となった場合は本人以外は貴族の遠縁の立場になる。

 まぁ、貴族さん頑張れー。としか思わない。好意的に考えれば、たとえ不正だろうが、能力があるのなら上に立てるというわけだ。


「魔道具に賢獣。顔も名前も売らない俺をセール氏はどう見る?」

「あははは、わけがわかりません。遠回りで言っているのに、本人がどう思う?だなんて……。くっくく、失礼。私もそれなりに成功した人間ですが、ここまで人を食った人はなかなかいません。

 あれだけの岩を吹き飛ばす魔道具。欲しいですけどねー」

「死にたいのか?」


 セール氏が試すような目で見てきたので、こちらも挑発。空気がピンと張りつめたが互いに笑い出すタイミングをうかがっていただけだった。


「よかったな。トンネル(あれ)が完成して気分がいい。さっきのは遊具を欲しがる子供の発言としておく」

「おやおや、流石にそれは酷いのではないですか? とは言っても、商人は人の欲しがるものを集める仕事。もう少し柔らかめの誉め言葉だと嬉しいものです」


 あっ、この人嫌味を受け流した。すごい。物凄く頭いい人だ。……という事は、俺の演技なんて見抜かれる!


「そういうものか、覚えておこう。ではな」

「はい。ご協力ありがとうございました。ですが、あの穴いったい何を? この道を利用している以上、盗賊の住処になるようなものは潰しておきたいと思うので、ハイ」

「……もうすぐ向こうまで穴が開く」

「ご一緒しても?」

「好きにしろ」


 セール氏を置き去りにするように、刀の血をぬぐい、怨念のこもった魔力を散らせてゼロに乗り込む。

 大丈夫か? 焦ったのではなく、鬱陶しいと思っているようにふるまえたか? 

 扉を閉め運転席に座ったらルイが褒めて褒めてと誇らしげに膝の上に乗ってきた。さっきの魔法使っていた面影はなくなって、思わず笑ってしまう。


『おかえりなさい』

「ただいまー。あー、なんか疲れた。岩をどかして慣らしたら、トンネル開通させよう」

『了解しました。ですが、魔力の乱れが大きすぎます。何より悪いのは、その事を自覚していない事です』


 一年前の時に自分の能力が汎用性に欠けると知った後、魔法技術を教わった。

 何というか、泳ぎ方を教えてもらった感じで、最初の何を言っているのかさっぱりわからない。魔法が発動するのだからそこは飛ばしてくれって思っていたが、ゼロの言っている通りにやっていると、ロスが減る。ただ、魔力が見えない分再現するのが難しかった。

 一緒に習っていたルイは魔力感知が高い分、ものすごい勢いで上達してのと大違いだった。


「今は勘弁してー。俺は真面目に考えたりするのは好きなんだけど、少し軽いだろ? 復讐者みたいなキャラじゃないから疲れるんだよ。でも、そっちの方がゼロのトンデモスペック言わなくて済むからねー。もう少し頭良ければ素に近いキャラで通せたんだけど……」


 頬面を外して一息つく態勢になった。岩の除去作業はゼロの方が予測計算などして任せられる。


 セール氏がどんな事聞いてくるのかシュミレートしながら、護衛達が盗賊共を片付けてるのを何とはなしに見ていた。





今回、護衛と盗賊の戦力があるのに思考が女性化していなかった理由は、活動報告にて書きます。


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