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本日は2話連続になります。
面頬を外してフードを深くかぶり、ソルトの街を歩いていく。
あきらかに怪しい人物なんだけど、戦闘を仕事とする人達はこういったブラフも必要なので話しかけてくる人はない。
「この格好でも騒がれないって事は、噂になってないのか?」
「ぎゅ?」
「一応演技中なんだ。可愛いんだけど、ルイに覗き込まれると間抜けに見えるからやめてね」
「ぎゅ」
肩に乗ってるのならいい。百歩譲って頭の上にいるのなら……、よくはないが許容範囲。だがな、横から覗き込なれると、迷子を心配されてるようで間抜けなんだよ! 可愛いんだけどさ。
襲っている盗賊を計2回ほど野晒しにして、食料入手ついでに噂が広まっているか調べに来た。7日で2回と多いんだか少ないんだかわからんが、戦闘跡はそのままにしていたし、持っていた小銭くらいしか漁っていない。ゼロの事と、手を出したらヤバい事が広まらないといけない。
噂や情報収集と言えばギルドや酒場なんだろうが、話しに出るエルフと同じくらい華者な体型。しかも、男女どちらにでもなるギノス種族とわかれば大体絡まれる。なので、趣味と実益を兼ねた店へと入る。
「いらっしゃ……い」
「ロープと解体用ナイフに塩と香りの強い酒」
「……酒の容器は?」
「何がある?」
冒険者は基本カッコつけたがりで面倒くさがりだ。だから、こういった野外活動用の道具屋に癖のある酒が置いてある。
店主が奥からカウンターに荷物を並べる。大きいのは革袋や小さな樽から、小さく装飾の施されたスキットルまで種類があった。
「この地方で手に入る酒は?」
「香り高いとなると、果実酒と肉酒だな」
「うーん。肉酒をこのスキットルと樽で」
「ロープはそこにある。ナイフは肉厚なのと薄いのどちらだ?」
「肉厚で大き目のを」
手ごろなロープをカウンターに持って行っても、肉酒を注いだりしているようなので、店内に並んでいる方の商品を眺めて時間を潰すことにした。
革手袋に銅鍋、マントや布。それに、鞣し用の薬品や傷薬。ここら辺は地元と一緒だが、ツルハシやタガネの金属製品と整備の油が多くあるのがソルトの街の特徴のようだ。
「店主、最近変わった事はあるか?」
「ん? そりゃ、アンタぐらいだろうな。ここはソルトだぜ。鉱脈見つけるのにも、ガラ運びにしても、そんなほっそい体じゃ役に立たねえ。しかも買うのが野外用品? 普通ソルトで買うのはツルハシだろ? アンタ何しに来た?」
「今日は確認。これからどう動くか?ってやつだ」
いや……。2回くらいの盗賊退治で噂は広まらないのは仕方ないんだけどさ……。頑張ったし、ソルトの為になるんだから、少しくらい反応しても良いんじゃない? 流石に虚しいもんだよ。
それとも何か? 目立った方がいいのか?? 盗賊殺さずに、裸にして木にぶら下げるか!? ついでに盗賊の服縫い合わせて、大漁旗みたいに立てるぞコラ! 人間努力しても評価されないどころか、反応しないのが一番キツイんだぞ。
物悲しくなって、代金払ってソルトからさっさと出る。話題になっていると思って恥かしくなっていたのは顔に出さないようにしていたのだが、ルイにはお見通しだったようで、しきりに顔を覗き込んでいた。
「大丈夫だ。ただ、無名の俺はあっと驚くような事しないと、影響って無いんだってことがわかった。俺達しかできない事やるから、一旦戻って作業に入るよ」
なんでだろう? 一度始めると無駄なところばっかり凝ってしまう人間の習性は? もちろん俺も標準装備している。
『準備はいいですか? シートベルトをして、準備をして下さい』
「やっとかよ。ルイもこっちに来な」
「ぎゅっ」
中央からソルトへ行く道にある高台の一つに迂回路が危険な場所がある。そこを掘削機とゼロの爪でまっすぐに掘り進めた。今いるところは、道が迂回する場所の土の中。中央―ソルト間の出入口は両方とも開いていないが、俺達が使っている出入口は、万が一にも2か所同時土砂崩れがあっても大丈夫なように高低差が出るように作ってある。後は、盗賊が襲っているところに出現ッ!と、出来過ぎだというタイミングで開通させれば、ゼロの能力を疑う者はいないだろう。
ちょっとばかりヤケ酒を飲んで、世間一般では自分が主人公ではないと拗らせた時に計画した結果だ。途中で中止しようにも、仮拠点から掘削機と運搬車を移動させて、引っ込みがつかなかったのもある。
ついでだからと、刀もゼロに用意してもらった。
俺の腕では魔物相手に役に立たなそうだが、盗賊相手にはよく効く。乱戦に入る前にこっちがハンドアックスだとわかると間合いを取られたりと、一歩出遅れる。
剣でもいいんだろうが、動作が包丁のように引いて斬る動作になってしまうし、ハンドアックスで攻撃を捌いたり避けたりするので、刀にしてもらった。
筋肉もつきにくいし、攻撃を受け止めて反撃するタイプじゃない。ただ「ふっははは、そんな攻撃効かぬは!」というのにも憧れはちょっとある。
「それじゃゼロは設定通りに俺がマイクに命令しないと基本は動かないふりして。マイクの有効範囲は10m。停車してれば油断するだろうし、俺が離れない理由になって安全になるから」
本来なら通信機が欲しかったが、残念ながらその分の材料が足りなかった。ゼロの新装備の爪のような機械的なのは採れたが、電子部品のような役割の材料が足りなくて止まっている。大きな鉢金もゴーグル型出力装置を連動させる予定になっている。……忘れなければ。
「ルイはゼロがぶち破った後、真っ先にコクピットから出て魔法をぶっ放せ。威力よりも派手さを重視。その後、俺が殲滅する。
いいか? ゼロのパワーで驚かせ、ルイの魔法で賢獣の希少性で注目させ、俺の冷酷さで手を出すのをためらわらせる。前回襲われたのは、誰かに欲しいと思われたからだ。欲しいと思われるよりも、手を出したらヤバい。関係性を悪化させたくないって思わせるのが目的だ。派手にやろうぜ」
作戦だ作戦。
ゼロはともかく、ルイがすべてを理解しているようには見えない。盗賊共を何人もヤったが、殺す事に慣れたわけじゃない。逃げと言われようが理由を作る必要がある。
一年前にギルドへ出した壊れかけと、俺から奪った運搬車。誰がやったなんて関係ない。誰かが奪った事が全てだ。どんなに警戒しても泥棒がいなくなっていないのと同じで、同じ事を考えるのは一人や二人じゃない。
だから、それぞれが色々な立場の人から必要とされる状態で、牽制しあっている状態が望ましい。
とにかく、俺個人は立場の弱い人間だから、盗賊を絶対許さない人間としてアピールすれば、行商人など街を移動する人からの支持を獲得したい。
相手が悪人だろうが、屁理屈が無いと人を殺すのに理由が無いと躊躇ってしまう。これがギノス種族の種を守るのか侵略するのか、それとも種族なんか関係なく俺個人の躊躇いなのか判断がつかない。せめてどの部分が悩んでいるのかわかれば受け入れられるのに……。
「そんじゃ、始めるか!」
肉酒は私が書いている他のに登場させた物です。
そちらでは、ハイファンタジーなんだから肉をアルコールみたいなのに変える菌がいてもいいじゃない!というノリで出しましたが、
こちらでは、ウツボカズラの大きいヤツに魔物が捕らえられると、中の酵素で肉酒になります。
だから、作中で革袋じゃなく金属製のスキットルと木製の樽に入れました。
ただ、酒の名前になっていますが、アルコールではなく飲むとアルコールと同じ作用を持つ別のモノです。
なんてったって現実世界基準のローファンタジーじゃなくハイファンタジーなんですからw
ちなみに味は結構まろやかで、好みによって香辛料を入れて飲む。
脂身も酵素によって酒になるので、原材料や部位によって味が変わる。胃酸などで酵素?の働きが止まり、飲む分には問題なし。皮膚についても1時間後にヒリヒリするくらいの酵素です。
今回はゼロのいない所で肉酒のやりとりがあったので、後書きにて大雑把な説明です。




