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「準備は?」

『貴方の思考回路以外は問題ありません』

「ひっどいな」

『クリスの格好の方が変です』


 およそ一年前の対人戦での敗走はパニックになりすぎていた。

 左手を貫通した鉄矢に怯え、逃げられる可能性が出てきたら調子に乗り、最後の最後で矢を受けて泣きそうになった。

 狩りでは常に冷静とはいかないまでも、思考停止状態にはならなかったのだが、思考狭窄状態しこうきょうさくじょうたいだった。今になって考えても、周りに何かあったのかすら覚えていない。それだけ追い込まれていた。

 今まで飢えた魔物に狙われる事があったが、クリス個人を対象に狙われる事が無かったせいか、反撃も叩き落とすや押しのける程度の逃げ切る事しか思いつかなかった。

 結局クリスは経験不足過ぎたのである。


 経験不足には経験すればよいだけだったのだが、運搬車ですら僅か一日で厄介事。無人調査車両のゼロという爆弾を抱えている為、安易に人に頼めなかった。それでも一歩目はあるもので、クリスは失敗の少ない方法を選んだ。


「流石に素で歴戦の傭兵みたいな真似は出来ないよ」

『見た目からしてに不審者です』


 全身を茶色で覆うフード付きマントに顔を隠す厳つい黒の面頬(めんぼう)、視線を誤魔化す大きな鉢金。どう見ても怪しい人物だが、クリスの面影を無くせば無くすほど、気分は冷酷な復讐者になる。

 なりきろうとするだけで、一歩後ろから見れる気がするし、演技でも続けて行けば思考パターンが本来の自分と演じている役柄の2パターンを持つ事になる。役に入り込みすぎなければかなり有効だと思っている。

 ついでにと言ってはなんだが、襲われて命からがら逃げだし、ゼロ()を偶然見つけて復讐に走る。なんて事はよくある話だ。

 それらしい事言ってはいるが、途中から変身願望があって、それが強かったのもある。


 ゼロも一年間で鉄を集め、土木工事に使えそうな先端が三つに分かれる巨大な爪を二本、前足の根元に付け加えている。調査が終わり、開拓に使えるよう元々の設計だそうだ。

 今ではその爪である程度出来るようだが、車内に持ち込むなどはいまだ人力()に頼ってる。ゼロの車体の後ろに連結して新しい車両を作れば解決するらしいのだが、材料が無く、代替品も見つかっていない。その為、仮拠点のトンネルにはガワだけが分解されて出番を待っている。


「ルイは俺の後方待機。乗るなら後ろ気にしてて」

「ぎゅ」


 この一年でルイはかなり成長た。残念ながら言葉を話すことは無いが、感情が魔力と共に伝わってくるようになった。体も大きくなり、手を持って吊るすと尾が太腿に当たるくらい伸びる。まるで猫のような柔軟性を持つようになった。

 親バカ入っているが、体を動かす事が好きのわりに言葉をしっかり理解していて頭が良い。たまに魔法を使ってバカな事をして泥だらけになるが、それは好奇心が強いからだろう。


「それじゃ、一年前に盗賊に襲われた男の復讐劇を始めようか」


 ソルトより西南の怪しい廃村。三日間のゼロの調べでは、12人の武装した人間と他に3人の生体反応があるらしい。


『ギノス種族は性別が固定されてないのでは?』

「うっさい」





 制圧はゼロのビーム兵器で簡単だった。

 もっと言えば、俺が直接恨みのない奴らを殺せるかのテストも含めての襲撃だった。


 遠距離から魔法を撃つ時に「絶対に盗賊で間違えではないか?」としばらく悩んだが、ほんの一瞬相手が抜身の剣をもって、怪しく笑っただけで魔法を撃ち出せた。

 不思議なのは、撃ち出す瞬間まで迷ってはいたが、魔法が手元から離れ、相手に着弾する前に次の目標に狙いを定めている自分が少しばかり不気味に思った程度だ。


「何人やった?」

『計15人です。未確認だった3名も武装して襲いかかってきました。気分はどうですか?』

「最悪だよ」


 人相手の戦闘だと何も考える事などできずに、剣を躱しハンドアックスで肋骨を打ち砕いていると、自分が獣になった気がした。魔法なんて使ってる余裕が無かった。

 仮面被ってなりきっていてもコレだ。精神が病む方が、正常なんだろうな。


『戦利品はどうしますか?』

「あー……。そんな気分じゃない。ゼロが欲しいのだけ回収すれば?」


 首に巻き付いたルイと一緒に廃村を出る為に歩くと、ゼロも後に続いた。


『メリットデメリット比べると、持ち帰る必要はないです』


 立ち去る前に死のよどんだ魔力を散らせて死体の魔物化を防ぎ、自然に任せる事にした。盗賊なんて、絶対に人間らしく埋葬するつもりはない。


 襲撃後の夜は何処にガタが来ているのかわからない為、いつもよりも意識して普段通りの生活をなぞり、心を観察したが特に変化が無いのにびっくりした。

 目を閉じると戦闘風景が目に浮かぶとかあるんじゃないかと思ったのが、それが全くなかった。

 どうやら俺は、反省はするが引きずらないタイプのようだ。







 度胸試しと呼んだら不謹慎だとは思うが、もう1・2戦盗賊団とやり合いたかった。だが、金属を産出するソルト周辺は警戒がかなり厳重で、実行犯は居座るよりも素早く逃走するのが多い。先の廃村も外に出なかった3名は、盗品を売りさばく店の関係者じゃないかと疑っていたくらいだ。

 やりにくいなら他の場所で……とは思ったが、今やっているのは、一年前に襲われた復讐者が強力な力を得て来た……というゼロのお披露目の一石二鳥の作戦でもある。食料の交換でソルト以外の場所は運搬車の情報がまったく出てきていないので、ゼロを世間に出すのなら、まだソルトの方が受け入れやすい。


「という事で、しばらく盗賊狩りだ。ヒャッハー!」

「ぎゅー」

『……何ですか? このテンションは』


 一人で黙々と……が信条の俺と、自機と任務以外は真面目なゼロ。ただでさえ気分がだだ下がりの盗賊退治に、辛気臭い状態から始める訳にはいかないと無理をした結果が辛辣な意見……。泣きたくなりそうだ。


『右前方、ソルト方向へ向かっている集団を囲う反応あり』

「どこから来た?」

『主要道路なので、穀物や塩の荷だと思われます』


 ソルト南をしばらく走っていると、怪しい反応を見つけた。


「規模と地形は?」

『盗賊らしき反応は18名。輸送隊は9名。高台を迂回する位置に待機しています』

「道が険しくなる始める所か……。念のため相手が動くまで待機で」


 運転席正面に推定盗賊が潜んでいる地形が立体処理されてアップされた。輸送隊から死角になるよう隠れている。どう見ても盗賊です。

 しばらく眺めていると、盗賊側がぼやけて確認できなくなってしまう。これは、盗賊が魔法を使い始めたからだ。


 科学とは別の魔法学で距離と大きさなどを画面に表示している。ただ、魔法学にも種類があって、魔力の密度だけ計る物・魔力の波長を計る物をゼロが組み合わせて表示してある。

 魔法の訓練で、魔力密度を体感する為に使った物は質の悪いサーモグラフィのような物だった。


「結構まずい状態かな?」

『他が気配を落しているので感度を上げています。荷物を引いている動物に致命的な被害が出ないように力を絞っているので、かなり手馴れているようです。接近しますか?』

「壊滅寸前の方が恩は売れるけど、噂を広げて欲しいから、逃げてる時にちらっと見える程度がいいかも?

 ゼロは逃走を判断した瞬間に遠距離攻撃して。俺はそれに合わせて突っ込む。逃げきれそうって思ったらゼロは出てきてね。ゴシップの方が話は広がる。これで行くよ!」


 方針が決まったので、コクピットから出て、装備の確認。

 杖と山刀と手斧。ゼロが炉を稼働してから新たに作り直した物だが、なかなかいい。

 ゼロは魔法付与させたがっていたのだが、使い方が穴を掘った時に根っこを断ったりと、泥臭い方向の使い方なので勿体無くてやめてもらった。いい物は欲しいが使うのをためらうような物は流石に要らない。


 それと、遠距離攻撃用の銃も欲しかったが、弾丸の生産にゼロが必要になるのと、魔物相手の戦い方がいまいち決まっていないので、保留にしてある。

 思い込みかも知れないが、銃が効果を上げるのは、対集団戦か長距離の狙撃がしっくりくる。結局狙わずに撃つか、台座が必要になる以外は今使える魔法で代用できてしまう。壁に隠れて銃口だけ出して威嚇だったら喉から手が出るほど欲しいが、人間相手ならともかく魔物相手に牽制程度の銃だと心もとないし、他の装備を外す事を考えると躊躇してしまう。


 結局、今やらなくてはいけない事には必要ないという判断になった。


『始めます。準備を』

「応よ! ってか、もう少しカッコいいの無い?」

『……ご希望は?』


 くだらない軽口も、こみ上げる恐怖心や戦闘への高揚感を無理矢理抑えこんで、獣でなく頭を働かせるためだ。


「そこはほらッ『システム戦闘モードに移行します』ウイーン、ガチャって感じ?」

『拒否します。原始の人工知能の真似などしたくはありません』


 平坦な声で言わないでよ。爪の真似している俺がバカみたいじゃないか……。




戦闘描写は無しです。

ただのゼロの虐殺だからです。




ちなみに、前回の襲撃者が言っていた火薬ですが、普通にあります。

ただし、人の目の届かない所で爆発させる以外使用方法がありません。

保管や材料の確保に危険性を考えると、何人かで魔法を使った方がコスト面で安上がりです。

ただ、爆発させるだけでしたら、魔道具でも代用可ですし、魔道具の方が長期保管できますが、コストは高い。

なので、爆発させるのを持っていると勘違いさせられた為、襲撃者は驚きました。



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