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持ってきた物が物なだけに個室に通された。そこには女性職員がいたが、二人が話して出て行ってしまった。
ソファーを勧められ、お腹の中に隠れたルイを軽く叩いて出るように合図して胸元まで上がってきたら座る。
あのまま座ってしまったら、潰れないだろうけどルイは苦しくなりそうだ。
「話しはどこで見つけてきたか?って事だけでいいですか?」
「え! いえ、出来れば何故そこへ行って、何をきっかけで見つけたのか……。今後新たに発掘するきっかけになるので、教えて欲しいのですが?」
あー。なんで見つけたのかは決めていたけど、場所のとくていまではしてなかったな……。どうやって誤魔化すか。
「はっきり言って、なんとなく。これが一番正直な感想なんですよ。
ソルト自体が遺跡なんでしょ? だとしたら、ここは中継地点ってのはみんな思ってるでしょ? じゃあ、何で放置する理由がなんなんだ?ってなったら何かがあったんだって定説で、後は逃げにくい場所ならそこにまだあるんじゃないか?って思ったからその場所を重点的に探しました」
「……なるほど、必要な場所に遺物があると考えるのではなく、当時の人が遺物を放棄しても逃げる必要がある場所を探したのですね」
「そうそう。必要なとこってだいたい調べられてるか古代人が逃げやすい場所じゃないですか? 俺が古代人だったら出来るだけ財産持ち逃げするから残ってないんですよね」
偽現場の候補地選んだ時の条件適当に言ったら、なぜか納得された。
「助かります。数多く発掘された人はあまり話さないので……」
「え! 言わなくてもよかったんですか」
てっきり今回みたいに大きい物を発掘したら誰にでも調査するのかと思ってた。くそっ、経験が圧倒的に足りない。
「探す方向性はわかりましたが、どうしてその場所を特定したのですか?」
「ノーコメントで」
「え!」
「今の流れで話すと思いますか? 強制じゃないって言ってくれたら話していたかもしれませんけど」
呆れてものも言えないと肩を竦めると、ルイが首元まで出てきて鎖骨辺りを舐めだした。
「ちょっ、ダメ! 待てだよ」
ルイはお腹がすくと舐める。報せてくれるのは嬉しいんだが、朝の耳舐めは勘弁してほしい。
「ちょうど話の区切りもついたし、調子の悪い方買い取ってくれます?」
「発見された場所の話がまだですが?」
「規則とか、テクニックなのか知らないですけど、信用できないんですって。もう少し自分一人で調べてみますよ」
あれ? もしかして要求突っ張っていた方が襲われたとき有利になるんじゃ? ここで情報を上げてないのを知っているのは、ギルド側と俺だけ。いや、襲われなくても襲われた形跡残すだけでも疑惑は残るし、犯人を無理に作る必要はない。自業自得だろうが犯人を犯罪者に仕立て上げない方が俺の精神衛生上いい。
ギルドだって痛いところが無ければ堂々としてればいいだけだし……。うん、基本はこれで行こう。もう一台埋まってるのも回収……俺には必要ないんだけど、回収した方がいいかな? いや、わざと偽現場に置いといてエサにし、拠点の発見を遅らせる方法もあるな。
ルイのご飯を手渡している間に、考えがまとまったので、この降ってわいた時間は丁度よかった。
ギルド職員の方もルイに構ってる間にお茶を淹れ終えて、今度は二人体制で俺と話し合うようになった。
「さてと、改めてあの走らない方のですが、ギルドで買い取りますか? 買わないのなら、俺も分解して調べたりしたいんですけど」
「なるほど。ですが、失礼ながら設備が足りないのでは?」
「でしょうね。でも、調べている間は無事な方を貸し出してお金を借りるって手もありますよ」
にっこり笑って牽制する。実際、ゼロが居なかったらバラしたりとやってると思う。
この答えを聞いた後から入ってきた女性職員が男性職員を軽く睨んで、
「出来れば私達ギルドに売ってほしいです。買い取ってから『動いていたのにギルドが壊した』などと言って、法外な請求を求める人もいますが、貴方……クリスさんは初めから動かない事、違いますね、走行出来るほどの状態でない事を明言されています」
交渉はこっちの女性か……。しかも、資料で俺の名前を知ってる。なかなか手ごわそうだ。
「俺も遺物には興味があるんですけど、それは生活が安定しているのが前提ですからね。アレを売ってもう一つでお金を稼ぎ、余裕が出たら色々やりたい事やる予定です」
「それでしたら、ギルドの遺物部を紹介できますが? もちろん能力次第ですが……」
「止めときます。『何々を調べよ』とか言われそうですので、そういうの嫌いなんですよね。どうせだったら、これ何かに使えるかな~って考えながらやるのが好きなんです」
この手の仕組みって、どんなのが干渉して役目を負ってるのかわからない事ある。
例えば走る機能だけ調べても、どこかに安全装置の役目を持ってるのがあったりする。それなのに、他が機密扱いで走る機能だけの資料しか手渡されないなんて事もありそうだ。
どうも偏った見方だが、これも前世の生活の知識のようだから困る。
「残念です。では、全て現金に変えますか? それとも調査機材などギルドで販売している物もありますが?」
「んー。現金でお願いします。道具とかそろえるのも楽しみの一つですから……。どうしても、というのならピッケルとか発掘に使える道具一式と、丈夫なロープと網を用意してくれませんか?」
女性職員は笑顔で了承してくれたが、さっきの資料に何か書き込んでいる。それって支払い方法とかじゃないよね? 予想以上に長く書いているんだもん。
「審査に1時間から2時間かかりますが、この後のご予定は?」
「食料を手に入れたいですね。あまり時間がないのでまとめて仕入れる場所知りませんか?」
はっきり言って途中から面倒になってきた。元々方向性さえ決めてしまえば、どうとでもなるという考え方だ。ギルドにこれ以上情報を与えずにして、ギルドにも余計な貸しを作らないし作らせない。それと無理に犯罪者を作らせない。そんなとこで、後は余計な事だ。
あれから動くけど走らない運搬車をギルドに引き渡し、ギルドに聞いた商会に運搬車に乗って行った。門とギルドで結構な人が見ているので、落ち着いてくるだろうと思っていたが、主婦や子供達のピークがこれからのようで、遠目に見られていた。どうせだったら子供くらいは乗せてあげるのに……。
「すみません。先ずは塩と豆、干し野菜が欲しいんですけど」
「お客さん。珍しいの乗ってるけど、荷台置き場は裏口なんですよね」
すみませんと謝って、裏に回って店に入る。どうやらこの店では、木箱に入れて販売するらしく、年季の入った箱がずらりと並んでいる。所変われば品変わるようで、箱も食材も値段も実家付近と違うものだった。
「塩が高いですねー」
「これでもまとて仕入れてるから安い方だぞ。他に何が欲しい?」
適当に回りながら見てみると根野菜が多く、ニンニク・生姜・山椒など刺激の強い植物を乾燥させたの物を多く取り扱っていた。
山椒の実を味見してたら、ルイが食べようとして小さな攻防があった。気を紛らわすためにいくつか果物を買う事になった。
大きな木箱だけでなく、香辛料入れにちょうど良い小箱も売っていて、ほくほく顔で荷台置き場に行くと、運搬車の前で子供が土下座してた。
「え? この状況何?」
「お願いします!薬を運ぶの手伝ってください!」
マジもんの叫びだ。
「あー……、うん。薬だったら仕方がないかな? でも、なんで俺なのか?っていうのと、出来ない事は断らせてもらうよ」
クリスって考え方よく変わるなーと思うかもしれませんが、一応設定通りなんです。
門兵さんはクリスより強くてクリスは女性化してます。他にも冒険者が多い為、女性化は止まりません。
(この場合の女性かとは、群れを率いるから、群れを守る考えと定義させてもらってます)
有利な条件にする → 犯罪者を無理に出さない程度の有利 → 店に行くとき子供くらい乗せるよ → 助けないと!
被害を抑え、子供が好きで、人助け。これがギノス種族の無意識での思考の変化です。
どうでもいい裏設定。
実家付近では食材はザルか壺で売りますが、ソルトの街は木箱で売ります。中は8話で出てきた湿気防止の沼田魚の分泌液が使われています。
山道なので壺に入れると不安定で割れやすく、鉱山近くで粘土層があっても毒を警戒して焼き物にしたがらないので、壺を使うのは壺焼きや鍋などの料理だけです。
お店の人にとってもクリスにとっても、これが当然と思っているので地の文章にも台詞にも特に記入がありません。