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村から離れ林に入り、しばらく歩くとチラッと弱い光がクリスをさした。周囲に人影がいないとのゼロからの合図だ。
「ただいまー」
倉庫兼自室と化したミーティングルームに入り、荷物を置くとホッと一息出る。
「ゼロ。魔物の生態活動ってすぐにわかる?」
『休眠中だと判別つきません』
それは困った。この一帯の兜鼠を減らさないと村が成り立たなくなってしまう。
兜鼠を寄せ付けない方法は色々あるが、一般的なのは犬を飼う事になる。ただ、汚れて病気に汚染された兜鼠を食べる事により病が広がる為に良くないとされている。食料を兜鼠から守る為には、犬の食糧を十分に確保しているという一つ間違えれば詐欺の手段に似ているから質が悪い。何にしろ、初期投資が必要なのはどんな世界でも変わらないのである。
『クリス? 優先順位を変えるのは、やめてください』
「……すまん。さっきの村で会ったやつが強かったみたいだ。どうも、あそこで繁栄させたいって思考になった。
この先も似たような事しそうだけど、基本は俺とゼロが優先。俺がやらなくても平気なら、基本無視。まぁ、お金になるなら少しはやるって事で、覚えといて」
『了解しました』
個人差もあるが、ギノス種族は器用貧乏になりやすい。色々な事をやって、群れ全体を活かそうとするからだ。たまに姉のように料理が下手な人もいるが、足りないところを補おうとするために人並みに出来るようになる。
運転室に入り、移動しながら未完成の地図を呼び出す。
どんなセンサーか理解できなかったが、ゼロを基準に半径2キロの地形がほぼ確定し、出力されているらしい。平地なら、おおよそ5キロ先まで望遠レンズのような物で捉えられるそうな。
「やっぱ、山だと地図が埋まらない」
『道がないので詳しく調べられないですからね。目視できる山は反映できますが、谷は無理です』
「なんかさー。地図で山頂とか見てると、ダム造れたら食生活も変わんのかな?」
『クリス。ダムが出来れば一年を通して水を分ける畑も増やせる。食生活が変わる。です。貴方は気が抜けると一工程抜かす事があります。私の事を誤魔化すのでしょう? 円滑なコミュニケーションをとれるか心配です』
ぐっ……。一人で暮らしていた時に理解してもらう必要が無かった頃のなごりがまだ残ってる。やっぱり本当に会話してないと駄目だな。
「ゼロ。空白部分が気になる。行けるとこまで調べるぞ」
『了解しました。私も確認しておきたい場所があるのでそこを優先させてもらいます』
「それと、会話のリハビリお願いします」
『私は貴方の素直なところを好ましく思います』
ゼロの勧めでもう一度山脈へ入り、ソルトを無視して北へ向かった。こちら側は平坦な道はなく、鉱石があったとしても運搬に向いていなさそうである。
魔物に追われる事数回。ゼロのレーザー兵器で退けていたが、積み込みのたびにゼロの小言が発生する。
ゼロのような……とまではいかなくても、自走車両か拠点になりそうな場所を見つけるのが目的だとしても、お金になるのを捨てるなんてもったいない。
「ヤバい。強くなる為に家を出たのに、ゼロといると鍛えられない」
『では、特別メニューを作りましょうか?』
「そういう回数とかで筋力だけ上げるってなると、やる気が出なくなる面倒な人間なんです」
『拠点が出来次第、反射神経・運動神経向上のコースを作りましょうか?』
「トラップがある中、走り抜けるような物だったら、ぜひ作って。楽しみにしてる」
ゼロがどうやって作るのか気になった事があって聞いてみたら、冷凍庫に使ってるサンプル部屋に小さなアームがあり、それを使って過去に装備していた外部アタッチメントを作ってからやるそうだ。気が長い話のようだが、故障はあっても疲労がないゼロには問題ないらしい。
「なー。金属欲しいって言ってたけど、掘り出すのって俺の仕事になるの?」
トレーニングコースを作る話しが出て、前に聞いていた話を思い出したら不安が湧いてきた。
「ムリムリムリムリ。鉱山で知ってる事は、天井が崩れ落ちないようにアーチ状に掘るってのと、ガスだろうが水だろうが鉱山には毒が付き物。どんな毒で、全部のの鉱山に当てはまるのかは知らない」
前の知識でさえこの程度。巨大ワームの魔物がいるんだから、ここにいてもおかしくない。そんな何もかもが未確認で掘りたくない。
『少しは掘ってもらう事になりますが、木を退かすのでロープの準備をお願いします』
木を退かす? 引き抜くって事か? ゼロにウインチとかあったかな?
ゼロの車体下を覗きこんでいると、「ビー」という音が出た後に光が走った。いつも運転席から見ているレーザーで、適正生物がいないと警告音を発する親切設計らしい。レーザー兵器使っていて何が親切設計なんだか?
「何をって、木しかないか……。なんでやった?」
『この先に人工物がある為です。それを確認するのを優先します』
「お、おう。そりゃ気になるが、もう少し事情を話して」
『ではいったんミーティングルームに入ってください。この地に来るまで未確定だったのですが、手段を選択できる事がわかりました。アドバイスをお願いします』
木を退かしてくれなんて、大雑把すぎる頼みだとやる気が出ないんだろう?と思いつつ、ウインチの場所も聞くのにちょうどいいし、さっさと中に入って一息つけたい。
ミーティングルームという名の俺の仮眠室に入り、ミニキッチンで手を洗うと一気に文明人になった気がするから面白い。どんなに趣味に走っていても手を洗うと気持ちがリセットできるから切り替えには丁度いい。
『よろしいですか?』
「おう。始めてくれ」
ソファーベッドの背もたれを起こし、スクリーンに映った立体地図を見る。
『細かい所は省略していますが、今回の説明に必要ないので無視してください』
そんな注意がはじめに入ったが、今でも十分に使える地図だ。
『金属に似た物は数多くありますが、高温で加工しやすく常温で硬いのは、やはり金属が一番使い勝手がいいのです』
「ちょっと待った! そこから説明するの?」
『すぐに終わります。金属以外で常温で硬いモノは数多いですが、魔力や圧力、正確な配合の薬品が必要になるので、設備や知識がないと難しいのです。ですので、まずは鉱石を発掘するのは自然な流れですし、現に遺跡として残ってます』
「なるほどねー。金属以外のってヤツが気になるけど、資源は使う場所で採った方がいいもんなー」
『はい。なので、設備を整える為に多少の無理をしてでも、掘り進める訳です』
ここまで来たら何を言いたいのかわかる。
「って事はここに遺跡があるのか!?」
『残念ながらありません。いくつかの設備のような物と鉱脈に続く穴、方向的に平地へのトンネルらしき穴です』
ゼロの冷たい否定に「期待させるな!」と言いたかったが、遺跡とまでは言わないけれど、遺物としては十分だ。
「それよりも、トンネルは大丈夫か?」
『出入口は丈夫な岩盤の上に補強もしてあるみたいです。ただ、水が入り込んでいる可能性が高いですが、おそらく問題ないかと』
「りょうかーい。こっちはそれだけわかれば十分だよ。……って、そもそも何でこんなとこに、トンネルとかあるのがわかったんだ?」
トレジャーハンターを名乗っているが、実際には過去の物の仕組みを分解して組み直しして報酬を得ている事の方が多かった。本当の遺物というのは部品の一部とかを好事家などの手に渡るのが精々の物しか見つけてない。それでも儲けているんだから大発見なんて必要ないと思ってはいたが、遺物に興味が無かったわけじゃない。どうせならなぜ見つけられたか知りたかった。
『先ほどから言っているように、初期設備にどれだけ素材を集められるかによって出来る事が変わります。掘削機材と炉は持ち込むとして、この星でしたらその次は防衛設備などでしょうか? どちらにしても遺跡があり、現在街に使われている場所は不向きで、集積場及び加工場だと考えられます。後は集積場方面の岩盤がしっかりしている場所を調べればトンネル跡がある予想されます。トンネル設備の機材と安全に掘削出来るノウハウがないと思われる今だと事故なく開通する事は難しいでしょう』
「出入口を丈夫にするってのは今でも出来そうだけど、掘るのに丁度いい動力がない。ってのがトンネル増えない理由だろうなー」
適当な事を言いながら、同じような個所を考えてみる。だが、上手い事思いつかない。あるとしたら海くらいか?
「こうなると街の情報が欲しいな」
『地形と技術を比較すればある程度はわかりますが?』
「そうじゃなくて、この場所みたいなのがありそうな場所を現地に行かなくても調べられるでしょ? 必要になってから情報を集めるんじゃなくて、集まった情報の中から必要なのを選別する体制が欲しいって事」
『人の噂は当てにならないモノです』
「何かがある。って事だけでもわかれば十分」
さてと……。会話している間に腕の疲労も取れてきた。鍛えてはいるが木を括るのにはちょっと自信が無かったのだ。