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結局、鎚山羊はその場で血抜きして内臓を処理し、車内の倉庫に入れて移動する事になった。大きな冷凍庫はあるが、冷蔵庫は飲み物を入れるくらいしか入らないので、部屋全体を冷やす事になった。ざっくり100人分だと思ったが、もっと多くても平気だと思う。
異空間収納とか出来るのか?と聞いたが、ゼロは出来ないとの事。植物が二酸化炭素から酸素にしているのを工場でやるような事らしく、現実味が無いそうだ。現在は魔物の袋を加工している事を言ったら、魔物の事をすごい勢いで聞いてきた。一応保護のような事を話したら、話に食いついてきた。どうやら魔物を利用したのは過去より進んだみたいだ。
その日の夕食は父さんに貰った鹿肉。しかも、大好きな赤身の部分。
バジルを塩ですり潰し、油で伸ばして生姜を少々。これに鹿肉をスライスして、叩いて薄くのばしたのを付けて網焼きする。まぁ、網は無かったが、細い鉄の棒を何本も並べて焼く。個人的に赤身はフライパンで焼くより、水分を飛ばすように焼いた方が好きだ。
油でコーティングしていたから、カリッとしているのに必要以上に水分が抜けていなく、端の方を引きちぎるように食べるのがいい。真ん中の方はまだ柔らかいので、纏めて口に入れる。肉一枚で違う食感を得られるのがお気に入りだ。
ちょっと飽きてきたら葉野菜に包んだり、パンにはさんで溶けたチーズをのせるのも捨てがたい。
野営は応用が利く料理。あとは米を浸水するなど、手が止まる調理法が必要ない事が重要。待ち時間があると、天気が崩れて火が使えなかったときの絶望感がクルものがある。
『なぜキッチンを使わないのですか?』
「部屋が寒いじゃん。扉で分けられてるのが運転室だけってのはきついぞ」
『なるほど。私が想像するより住居スペースが必要だったのですか……』
「無趣味の一人暮らしが生活できる広さがあのミーティングルームくらいかな?」
『私の製造に関わった人達はアレだけあれば十分と言っていましたが……』
トイレを含め、六畳くらいの広さに壁収納の簡易キッチンとベットにの使えるソファにテーブル。寝るだけの生活は嫌です。
そうなると、最低限のライフラインだけでなく、どうせなら拠点作って風呂も設置したい。それに、ゼロにも何がやれるか知らんが好きに使っていい設備が欲しい。
「どんな条件がいい?」
『金属が手に入れやすい場所ですね。それと、機械音が出ますので、音出し可の場所か設備が必要です』
隣で寝たくないなと自然と苦笑いが出た。となると、それなりに広い場所が必要になる。
「うーん。ゼロが調査してから人が来たんだから、鉱脈とかわかる? 当時の技術力で拠点に適してそうな場所に仮拠点とか遺跡とかあれば利用したい。候補の中から今でも使ってる町や発見されている遺跡を除いて知れべて見る価値はあると思う」
『数千年単位なので地形が変化していますが、候補地は上げておきます。明日から回ってみましょう』
「だな。嫉妬くらいならいいけど、中途半端の戦力だったら襲われるなろうね。名声でも悪名でも手を出したらヤバいって言うくらい戦力がないとゼロは狙われるだろうから、いろいろ試しつつしばらくは慎重に動かないとね」
どうでもいいけど、考える時に顎を動かしてる方が集中力が上がってる気がするのは俺だけだろうか? 美味しい干し肉の作り方研究するかな?
地元で仕入れた食料が半分ほど消費した頃、聞いた事のある北の鉱脈を一周回った結果は国の中央方面、つまりは東側は小さな町がいくつかあった。
遺跡というのもおこがましいが、遺跡は山脈の南。おそらくその場所で加工して、国中に輸送していたのではないか?とゼロは考えているみたいだ。今でも整地されたその場所は街として発展しているようだ。ただ、大きい街なのだが名前も知らない。自分の無知さにちょっと嫌になった。
『食料はあの街に買いに行くのですか?』
「いや、あそこまで大きいと手続きが面倒らしいよ。成人の腕輪持ってるけど年齢調べられると未成年だからね。成人だと認められるから渡されるんだけど、今じゃ年齢だから渡されるって感じだから面倒なんだよ」
そんなに多くはないがゼロが狩った魔物や動物もサンプル採取の冷凍庫に保管してある。それらを売るには意外と面倒だ。
父さん達が言うには大きな街ほど、どこで狩ってきたのか聞かれるそうだ。まぁ、生態系が崩れたら大変だから理解は出来るし、魔物が怖いのも理解できるが、記録しているのは場所だけで気温や降水量に季節などは他に任せているらしい。無いよりましだが、場所だけで判断するから語法なんかも多いらしい。
実際のごたごたは職員内ですんでいるそうだが、話を聞きに来たと付き合わされる猟師にとっては余計な仕事だし、去年の寒波で植物が育ってないのにアレがいるのはおかしいと言っても注意喚起がされない事もある。
……父さん達猟師仲間が集まって隣町の事を愚痴っていた。話半分だとしても場所は聞かれるだろうし、下手な場所を言って調べられ拘束されたくない。
「村規模なら、売ったらその場で消費だから魔物って言うより肉扱いだからあまり気にしないんだよね。そんな訳でさっさと用件済ませてもう少し詳しく探索しよう」
運転席に座りながらゼロが収集している地形情報をある程度記憶していく。この土地は鉱山があるせいか、岩が多く山々もそれぞれ特徴があって比較的目印にしやすいのが多い。
大きな街からゼロに乗って山を下りるように移動して3時間ほどで丁度よい村を発見した。
発見と言っても燃料になる森・農作物を育てる平地と水場を目標に探せば大体見つかる。ちょっと大きな町も同様の探し方だが、そっちは塀に囲まれているのが村との差で、数十年単位で安全だと言う事の目安になっている。
大きな街や都市は国が交易や産業の重要拠点と決めた場所で、名の通った街は大体これに当たる。
当然その場所を治める責任者がいるのだが、所謂貴族様だ。一応貴族の後継者は王都ステアで何年間か勉強するから酷い事にはならないようだ。
流れ的には、叙勲を受けて村か町を任せられる。
発展させて丈夫な壁を作り、周囲の魔物の住処を無くす。
人間の生活圏を広げ、貴族が主体になって新たに村を増やす。
細かい事を言えば何人以上の住人がいるとか、他の貴族と交易をしなくても自活できるなど、色々あるらしいが、だいたいこんなものらしい。
魔物も多いが水害も多い為、放棄したり発展しなかったりとそんなに増えないのが現状なんだそうだ。
「それじゃちょっと行ってくる」
『お気をつけて』
自分で狩った鹿をかついで村に向かう。ゼロの狩ったのだと傷口の説明が面倒だからだ。
「こんにちは。この小鹿売れる場所ないですか?」
「おう、近くで見ると思ったより大きいな。一応聞いとくがどこから来て何のためにここに来た?」
かろうじて村には柵があるが兵らしき者は遠くから俺が見えてから呼びに行って門の前に出てきたようだ。
「ここから南の方。ステアの北西だな。一応トレジャーハンターで、コイツを狩れたからきた。ついでに食料も売ってほしい」
「少し歩けば食堂がある。そこに持ち込むんだな。そこで交換した方が早い」
「了解。ここら辺で遺跡とかの噂はないか?」
「聞いたことないな。北のソルトって街で聞いた方がいいぞ」
どうやら見かけた街はソルトというらしい。そのまま挨拶して門を入り、言われた食堂に向かう。
村としてはまだ出来たばかりのようで、店らしい店など無く食堂と雑貨屋が同じ建物にあり、行商人が馬車を止める場所になってるようだ。
「すみませーん。肉と食料交換したいんですけどー。半分は穀物か芋、残り半分は適当でお願いします」
「いらっしゃい。旦那が裏口にいるからそっちに回ってちょうだい」
食堂とは名ばかりの集会所らしく、隣の雑貨屋に繋がっていて端の方で籠らしき物を編んでいる人もいる。俺も両親から習ったが、トゲが出ないように作るのは結構大変だった。
店の後ろに行くと薪置き小屋があり、その前で薪を運んでいる筋肉隆々の男がいた。おそらくあの人がさっきの人の旦那さんなのだろう。
「すみませーん。小鹿と食料交換お願いしたいんですけど」
「おう!聞こえてた。麦はまだまだ高いぞ。それでもいいなら入れるが?」
「なら、芋だけでいい。他に出せるのは?」
「根野菜と芋茎だな。後は、ニンニク・生姜・トウガラシだな」
「俺んとこでは芋ガラって呼んでたな。少し貰おう」
天秤はかりで小鹿を計り、それに似合う量の芋らしいが予想より少ない。肉は腐りやすいから仕方がないといっても、少なすぎないか?
「不満なのはわかるがしょうがないだろ。人が少ないんだから消費が少ないんだ。だから、こんなもんだぞ」
がっくりしてしまうが、食肉の価値がこんなもんだから仕方がない。
困った事に、俺は他の人より野菜食べないと体調を崩すタイプ。芋ガラとショウガを多めで交換してもらった。
食料を貰った時の軽さが顔に出たのか、
「兜鼠だったら高く引き取るぞ」
兜鼠は30センチほどの夜行性の魔物で、小動物から木の根まで何でも食べるし、向かってくる動物は襲わないが逃げる相手に襲ってくる害獣の中の害獣である。ちょこまか動き、一匹だけでも厄介なのだが巣を作り多産で人の生活圏を脅かす。自然界に兜鼠が蔓延していないのは、丈夫な歯と魔力で頭を覆い突進するだけしか攻撃方法がない弱い生き物だから。と言われているのが定説である。
害獣だから狩ると言っても少しでも利用しようとするのが人間である。
食肉としての価値はそれなりに集めやすいが、食べるところが少ない為、数をこなす必要がある。だからか、解体する人数が多い所と塩が用意に手に入り保存食を作れる環境では一定の需要があった。
他にも、子供が練習に使うのに丁度よかったり、人件費の安いスラムなどでよく取引される肉として食べられている。
「食料はまだあるんだけど、せっかく狩ったから持ってきた。ってやつだ。見かけたら仕留めとくよ」
「この村が出来てまだ十年。畑に出てきたら拙いって覚えさせないとな」
村を造るのに魔物を狩り、天敵が少なくなった一時的に兜鼠が増えるのは当然の事。道を均し、巣を作らせないようにしても減らすのには時間がかかる。
「そうそう。この付近の兜鼠で持ってくるのなら、肉の値段だけじゃなく証明書渡すからソルトで報奨金貰えるぞ」
お金は入るが魅力的な物じゃない為「気が向いたらね」と答えてこの村を出た。