グラムコール
俺はメルトグラム。弟の友人に絡まれているのかもしれないし、挨拶代わりに戦闘を持ち掛けられているのかもしれない。現在、そういうふうに思っている。魔界の頂点にたつクトゥーの補佐役であり、他の並列世界では魔界を統一したこともあるのだ。
「酔いが冷めてからで良いのではないか?」
「え〜、わっかたァ。でも俺酔ってないよォ?」
酔ってないと言ってはいるが、夜ツ矢火乃香の顔はほんのりと赤い。獄界の気候が涼しめとはいえ、顔が赤くなるほど寒いわけではない。なので、夜ツ矢火乃香は出来上がっていると考えられる。獄界の町から近いこの場所は、温泉がいくつか湧き上がっている。酒に酔ったままでは足元が危ない。
俺は一旦立ち止まり、獄界の町周辺の地図を広げ確認する。地図にはいくつかのメモがクリップで止められているが、詳細はあとでみてみよう。さて?地図を見ると、遠くない位置に戦闘に適した場所があるようだ。戦闘場所の提案をしようと前をむいた時、ボチャと音がして夜ツ矢火乃香が視界から消えた。
勢いよく吹き出す温泉の温風でメモがめくられ、この辺の温泉が新しくできる時。落とし穴になるから注意の文字が見えた。
「グラムの兄貴ィ……ごめん。引き上げてくんねェ?」
夜ツ矢火乃香が落ちた穴の場所まで行く。下を見るとちょうど温泉から立ち上がったのか、全身びしょびしょだ。酒の摂取によって平衡感覚がよろしくないようで、俺に助けを求めている。普段の夜ツ矢火乃香なら、平気で戻って来れる距離であった。
「今行くから大人しくしていてくれ」
「……了解!兄貴ィ!」